83話「アレンシアとケーネスト」
〜 アレンシア視点 〜
透け透けのお色気寝間着を用意していましたが、夫は出かけて行きました。
すべて……すべて無駄でした。
「奥様、公爵様が招いておられた魔法使い三人と神官10名の部屋はすべて準備完了しました」
「まったく、そんなに護衛を増やすほど私が心配ならダンジョンなどに出かけなければいいでしょうに」
私は気合を削がれて不機嫌になってしまい、透けてる寝間着をゴミ箱に投げ入れました。
「……でも、あの公爵様が仕入れて来てくださってるトイレットペーパーなるもの……あの薄くて柔らかい紙がもうじき予備も無くなり……それですと硬い紙をくしゃくしゃに丸めたものか葉っぱに戻ってしまいます……よ?」
侍女がおずおずと私に話しかけます。
「うっ」
確かにあの柔らかい紙は見事なものです。素晴らしいです。そして公爵家には人が多いので紙の消費は早くなります。
あの柔らかい紙は一部の高位の者しか使えないように使用制限をしていてもです。
侍女もあの紙には心酔していて、あれを知ると前ではもう戻れない、戻りたくないと思っているようです。気持ちは分かります。
「あんな柔らかい紙は正直王城にすらありません、まさにダンジョン産と言った……」
「まぁ、それは私にも分かるわよ」
と、返事を返した時、私の部屋にノックの音が響きました。
「はい、どうぞ」
侍女が代わりに扉を開けると、執事がそこに立っていました。伝言があるようです。
「奥様、神官様が聖水を屋敷の周りに撒く許可を求めております」
「聖水は魔物避けの結界の為ね? 好きにしてちょうだい」
私がそう言うと執事は、
「かしこまりました」と言ってすぐに去って行きました。
「それにしても、奥様が分けてくださったこのチョコレートの美味しいことと言ったら」
侍女の話題は紙からチョコレートの話になっておりました。
全部一人で食べると太るとか、肌荒れするかもしれないなんてあの人が脅すので、金色の包みのチョコレートと舟のレリーフつきの物を侍女達にも少しずつ分けてあげると、大変な喜びようでした。
確かに、ものすごく、ものすごく美味しいものです! 分けてあげたことを少々後悔するほどには。
「特にこの金色の包みのチョコの濃厚さと言ったら素晴らしいですわ! 数があれば私、きっと誘惑に負けていくつでも食べてしまいますわ」
「化粧品も素晴らしいですわ、見てください、この肌艶」
化粧品も多少は侍女に分けておりますので、私の侍女三人の間でも最近の夫の土産物談義は弾んでいるようです。
「ええ、あなたのも私の肌も潤って輝いておりますわね」
侍女達はうっとりと自分達の肌に見入っております。
そう、人によりどれほど効果が違うのかと……気になりましたので分けたのですが……皆、カサつきが消えたとか昔の化粧品と違い、肌も荒れないし体調も悪くならないとか言っておりますし、王族にも献上できる品質なのは確認できました。
当家に何か粗相があっても王妃様あたりはこれがあればある程度は懐柔できそうな気はします。
とはいえ、これは使えば減るものですから、仕入れ担当のあの人が無事に帰って来てくださらないと、すべて駄目になります。
こちらよりずっと安全な所に行くらしいけれど、何故そのダンジョンの壁はあの人だけが通り抜けることが可能なのかしら?
せめて護衛の一人くらい行けたらいいのに……。
〜 主人公視点 〜
日本に戻った俺は綺麗な白と青系のイルミネーションの前でプチ撮影大会をした。
他にもカップルや映える写真を楽しんで撮ってる人達が散見される。
「そーいやケントさん、姉の店に行ってみます? ガールズバーで勤務してますけど、モデルみたいにかっこいいから女の子にもめちゃくちゃモテると思うー」
「いや、俺には妻子がいるし、その手のお店で金を使うくらいなら家族にプレゼントを買うので」
こっちじゃ今は寝たきりの無職に等しいのに、そんな所で散財はできないし、金があったところで家族に悪いし、どうせそんじょそこらの女性よりアレンシアの方が美人だろうとは思う……が、これは言わないでおこう。他の女性を下げたい訳ではない。
アレンシアが美しすぎるだけなんだ。
「えらーい、堅実で家族思い」
姉の働く夜の店に誘っておきながら、サクッと断られても普通に笑ってるから、何となくノリで言ってみただけなんだろうな。
「そもそもミカリンは未成年なんだから、我々がお姉さんのお店に行ったところでついて来れないでしょ?」
「あー、それはそうですねー」
ギャル系のミカリンはほんとに悪気もない感じで無邪気にキャハハと笑ってるので、俺はやれやれと肩をすくめた。
俺達はイルミネーション前で撮影を終えてから解散して姉にドラッグストアに寄ってもらい、また買い物をさせてもらってから帰路につく。
賞に応募した小説が、何処かに拾い上げてもらえたらいいなと思いながら……。




