80話「秋の味覚美味しい」
秋の終わりには計画していたエルシード保険会社が爆速で出来た。
一部の裕福な商人や、エルシードと公爵家とつながりを持ちたい貴族もちらほら加入してくれた。
肝心な平民の方は冒険者ギルドにポスターを貼ってもらったことが効果を発揮したのか、Aランク冒険者や屋根などにも登る大工などがチラホラ保険に加入した。
危険な現場仕事の為に怪我のリスクを知ってるからだろう。
他は領地内の薬屋や病院にもポスターを貼ってもらうことにしてる。
病気になったけど、肝心な時に治療の金が無い!とかになると生きるのが積立て保険だ。
灯籠の竹細工の方も、使用人やその家族の者が小遣い稼ぎにと、応募してくれた。
おかげで冬の星祭りの飾りには間に合いそうだ。
冬の祭りは星祭りしかないけど、竹灯籠が足元を幻想的に光らせてくれると思う。
そして本日も昼前には書類仕事を終え、俺は厨房へ向かった。
「業者の者がサーモンを卸してきました」
「やった!」
料理長が言うには業者が秋鮭を卸してきたとのことだ!
「またパスタ料理を作るからパスタとほうれん草を茹でておいてくれ。手のあいてる者は私の料理を覚える為に見ていてくれ」
「はい! では私がレシピを記録します!」
若いのが手を上げてくれた。
「よし、では君に頼む。あ、そちらの君、パスタの茹で時間はそのキッチンタイマーで測るといい」
俺は日本で仕入れたキッチンタイマーを指差した。
「はい、これは本当に便利なものですね、音で知らせてくれますし」
「お土産が役に立ってよかった」
料理人達もキッチンタイマーの便利さに気がついたようだ。
そして茹での作業は他の者に任せ、俺はパスタマシーンを使って作った麺で秋鮭とほうれん草のクリームパスタを作る為の作業に入る。
サーモンをほどよいサイズに切ったら、それに塩と黒胡椒をふりかける。
そしてフライパンにオリーブオイルを入れ、バターも投入し、そこに秋鮭とさっと茹でて貰ったほうれん草を追加し、小麦粉も少し入れて炒める。
さらにこちらも茹でてもらったパスタを投入して混ぜ合わせ、また塩と胡椒で味を整えて炒めると……よし、完成した。
俺は少しだけ味見してみた。
「公爵様、いかかですか?」
「美味い、成功だ、お前達も味見していいぞ」
「「「はいっ!」」」
喜ぶ料理人達がフライパンの前に殺到した。
「「「……これは美味しい!!」」」
皆の心も美味しいで一つになった。 秋の味覚っていいよな。
それから食堂へ行き、ランチとして家族と本格的に食べる。
「こちらも美味しいですわね」
「おいしい……」
ミルシェラの口にも合ったようだ。
「秋鮭が手に入ったからな、二人も秋の味覚を満喫してくれ」
「ええ、言われなくともそうしますわ」
「これが……秋のみかく……」
ミルシェラが新しい単語を覚えた! 秋の味覚!
◆◆◆
〜 アレンシア視点 〜
「アレンシアの心情」
お風呂上がりに鏡台の前で侍女が私の髪を梳かしたり、乾かしたりしてくれています。
そんな時にも思い浮かぶのはあの人の事……。
──まったく、襲撃の後からケーネストが邸宅にいる時は一緒のベッドで寝ても、手を握るだけで……何も……何もされてないわ!
これではいつ男子を産めると言うのかしら!?
私の方から何かもっとするべきなの?
媚薬を盛るとか?
そう言えば、異国にあるというチョコレートと言うものは媚薬効果があると社交界で以前聞いたのにあの人がくださったお土産の金の包みのチョコレートも、舟のレリーフのものも、それはそれはとても美味しかったけれど、体にそのような変化はなかったわ……。
お酒と一緒にとるとかしないといけないのかしら?
私がイライラしてつい爪を噛んでいると、侍女が慌てて止めました。
「奥様! 爪が! いけません!」
「あ、ほぼ無意識だったわ……」
「何かお悩みでも?」
「あの人のヤル気が無さすぎなのよ、どう考えても私のせいではないわよね!?」
遠回しな言い方でも侍女には伝わります。
「ええ、奥様の美貌は未だ衰え知らずで、なんなら肌は光り輝き、潤いを増してるくらいですわ」
「あの人の乳液と化粧品の力ね」
風呂上がりにもしっかりスキンケアとやらは習慣化しています。
「いいえ、それだけではありませんわ。奥様は日頃から体型にも気をつかってらして素晴らしいです。ティータイムで公爵様のおっしゃっていた広いお風呂の中をぐるぐる歩きまわると足腰にあまり負担もかからず、いい運動になるとの言葉通りに歩いていらっしゃいますし、たまに頑張り過ぎて湯当たりなさってましたが」
「湯の温度を下げればいけたわ、そもそも最近食事が美味し過ぎてやや食べすぎるからどうにかせねばと思っていたのよ」
「大丈夫です、まだ維持していらっしゃいます、ドレスも入りますし」
「まだ前からのサイズで入るけど……油断すると入らなくなるかもしれないわ……衣装室の者におふくよかになられましたね?とか、絶対に言われたくないのよ」
「湯当たりされないよう、ほどほどにされてくださいね」
「ええ……」
「あ、ところで奥様、話を戻しますが、寝巻きを変えてみるのはいかがですか? ごく薄いものに……」
「ごく…薄いもの……?」
侍女は一旦クローゼットへ向かい、それから新しい寝間着を出してきました。
「これなど、最近の流行りで、初夜によく使われるものでして」
「これは……透けて……いるわね」
「ええ、それでこそですわ」
侍女はニヤリとほほ笑み、私の胸はバクバクと五月蝿く鳴ってしまいました。




