79話「秋の食卓」
黄金の秋、実りの秋、食慾の秋。
ひき肉製造機とパスタマシーンとカボチャを手に入れた俺は早速公爵家の厨房にて、料理人に道具の使い方を伝授することにした。
「今回作って欲しいのはボロネーゼという、えー、麺料理とミートパイだ。ミートパイの説明は不要だろうがボロネーゼは刻んだタマネギや香味野菜を油で炒め、焼いた挽肉とワインを合わせた料理だ」
「かしこまりました……しかし麺とは?」
「この道具で作る」
俺はパスタマシーンとひき肉製造機を魔法の布から出してテーブルにドスンと置いた。
「初めて見る道具です」
「そうだろうな、今から道具の使い方を教える」
「はい、よろしくお願いいたします」
料理人達は恭しくうなずいた。
◆◆◆
秋の柔らかな陽光が公爵邸のステンドグラスを彩り、暖かな光がダイニングホールに降り注いでる。
広々としたテーブルには、銀食器が並び、よく磨かれた銀のナイフとフォークが控えめに輝いている様を眺めていると、先ほど指導して作らせた料理がキッチンから運ばれてきた。
すると美味しそうな料理の香りが鼻腔をくすぐる。
「今回からひき肉……細かい肉を作るのが楽になったんだ、道具を手に入れたから」
「どうせまたダンジョン産と言うのでしょう?」
「そうだ」
ほんとは地球産だけどな。
そして娘のミルシェラの方を見ると、上品な葡萄色のドレスに身を包み、まるで小さな天使のようにキラキラした瞳でテーブルを見つめてる。
「とってもいい匂いがして、楽しみです」
皿に盛られた黄金色のパイと、赤茶のボロネーゼがここにお肉がいますアピールをしていて食欲をそそる。
最初に運ばれてきたのは、カボチャのパイだ。
表面にはキツネ色の焼き目が照り輝いている。
切り分けられた一片からは、ほくほくのカボチャのフィリングが顔を覗かせ、シナモンとナツメグの甘い香りがふわりと漂った。
りんごやカボチャのパイはこちらでもそう珍しくもないが、カボチャが秋を感じられて嬉しい。
ミルシェラは小さな手とフォークで慎重にパイを切り、ぱくりと頬張った。
瞳がキラキラと輝く様を見るに、どうやら美味しいようだ。カボチャは優しい甘さを出してて美味しいからな。
アレンシアの方も満足げだ。
次に口に運ぶのはボロネーゼのパスタだ。
パルメザンチーズもちゃんと日本から持ち込んで使ってもらった。それがミートソースの上に雪のように降りかかり、バジルの緑が彩りを添えている。
ミルシェラはパスタの上にあるソース部分をスプーンで少し掬って口に運んだ。
「お父さま、 この料理ソース、なんだかとても美味しいですね」
「ああ、これは料理人達が頑張って作ってくれたボロネーゼと言う麺料理なんだ、これからこの屋敷では度々出てくることになる」
俺は微笑んで、妻の方をチラリと見ると、パスタを凝視し、固まっていた。
「これはどうやって食べるのですか?」
「あ、すまないな、ソースと麺を絡ませてから、麺をフォークに……このように絡ませ、こう、スプーンの上でくるりと巻いて口に運ぶといい」
「なる……ほど」
俺が実演して食べて見せた。
二人とも真似して食べてくれた。
「これが……メン料理……」
妻はそう言いながらも、フォークでパスタを慎重に巻き取り、上品に食べ進める。
「美味いか?」
「この赤茶の細かい肉のソース、濃厚で美味しいですわね」
「だろ?」
「粉のようなチーズもいい味です」
「良かった、口に合ったみたいで」
美女が食事する姿は絵になる。
口元に注目すると色気さえ感じる。が、あまりじろじろ見てはアレンシアも食べにくいだろう。
俺は目をそらし、ゴブレットに注がれたワインを手に取って飲んだ。
……うん、こちらも美味いな。
メインを三分のニ程度まで食べるとフルーツが運ばれて来た。
葡萄、りんご、いちじく、柘榴などだ。
どれも瑞々しくて、美味しくいただいた。




