77話「交換」
「ようやくできたか」
姪っ子の為にオーダーしていた服が出来たので、公爵家に納品された。急いでくれてもミシンのない時代と世界なのでオールハンドメイドなので時間がかかる。
「お嬢様にですか?」
衣装店から届けられたドレスの入った箱にアクセサリーの、パールのネックレスのおまけを入れている俺に騎士が声をかけてくる。
パールのネックレスは姉用だ。結婚式に呼ばれた時などでパールは使えるから知り合いの貴族の売り上げにものるから買い足したのだ。
「いや、ダンジョンの向こう側の物を手に入れる為の物々交換用だ、先日のチョコレートなどのおやつもそうやって手に入れている。あちらの通貨とこちらのは違うからな」
「なるほど……ではまたダンジョンに行かれるのですね」
「ああ、せっかくアレンシアの護衛も増えたし、約束の物を届けないといけないし。でも今回は早めに帰ってくる」
そうしてまた食材のお土産を買い込み、ダンジョン奥の壁画を通り抜け、日本へ向かった俺。
「あー、こっちまだ残暑ある」
蔵から出るなりまだ暑い。流石日本。
俺はポケットから鍵を取り出し自宅へ入り、着替えを取り出し、すぐにシャワーを浴びた。
「ふー、気持ちいい」
風呂から上がるとタブレットを使い、姉にドレスが届いたとすぐに連絡した。
「さて、売り上げチェック」
パソコンの前に座って前に出した異世界資料集の売り上げをチェック。
イケメン騎士のおかげでなかなか好評。
今回は俺のコスプレ写真も編集して表紙も作ったので販売する。
ついでに思いつきでSNSで販促用のアカウントを作ってショートムービーなども宣伝用に上げてみる。
映えを意識したオシャレ系SNSでは古城や花畑等で撮影されたドレス姿の女性の動画もよく上がってるから、違和感なく上げられる。
なんなら同人イラストや漫画や小説が沢山アップされてるピクシルで騎士にまつわる小説でも上げるかな。
販路が広がる気がする。そんでSNSから宣伝して騎士のブロマイドセットもあるよって書き込んで売る。
しかし最近はプロの漫画もここで読めるんだなぁ。色々進化するもんだ。
俺はキッチンに向い、冷凍庫からゼリー飲料の入ってるパック入りのやつに似た形状のアイスを取り出し、口に咥えた。
冷たくて甘くて美味しいバニラアイスだ。
買い置きのカップ麺と缶詰で簡単に食事を済ませようかと思ったところで、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
返事をしながらドアを開けると、姉が到着してた。
「来たわよー」
「わざわざ来て貰ってすまんね」
「今のあんたに無免許運転させたくないから」
「あはは」
「居間のテーブルの上に約束のドレスの箱があるよ、食材は……クーラーボックスある?」
「あるわ、持ってきた」
「今回はクーラーボックスに入りやすいようにだいぶ肉は切りわけてる」
「うん、そっちのが楽ではある」
子豚丸ごととかは……多分キツイだろうしな。
姉と会話しつつ、食材はクーラーに入れて行く。
俺のお土産で姉の持参した大きめのクーラーボックスが三つ全部埋まった。
「クリスマス前なら丸鶏も悪くないだろうけどな、ターキーだっけか?」
「あーね、七面鳥。そういやモンブランケーキ買って来たから、家族と食べな」
姉はケーキ屋の箱を持って来ていて、それをテーブルの上に置いてくれた。
「ありがとう、ところでこっちの俺は相変わらず意識不明で寝てる?」
「ええ、変化はないわ」
「そっか……俺ばっかり美味いもの食っててなんか悪いな」
「仕方ないでしょ、そもそもケーネストの魂がホントに入れ替わりでこっちのあんたの体に入ってるかも分からないし」
「まぁ、それはそうだ」
姉は食材をクーラーボックスに詰め込み終わったので今度はテーブルの上のドレスの箱を開いた。
「まー! 凄い高そうなドレス!」
「オール手縫いだし」
「オートクチュールじゃん!」
オートクチュールとはフランス語で、直訳すると「高級仕立て服」を意味していて、具体的には顧客の体型に合わせて採寸してデザインから縫製までを全て手作業で行う、完全オーダーメイドの高級服飾のことである。
「そう言われると確かに凄いな。あ、漫画家さんとコスプイヤーさん用の妻の中古ドレスもあるんだった、一回しか着てないらしいから、新古かも?」
俺は魔法の布からドレスを二着取り出し、姉に渡した。
「すっご!! クオリティやっば!」
「公爵夫人の着てたドレスだしな」
「ねぇ! これ宝石ついてる!? パール!?」
「公爵夫人のだから……こっちは宝石ついてないから、扱いやすいかも」
そして更に追加でドレスを出す俺を見て姉がまた叫ぶ。
「まだあるの!」
「全部で5着くれたから」
「ところでなんで宝石外してからよこさないの?」
「見た目のグレードが下がるからか、外すの面倒だったんだろ。あ、姉貴へのお土産にパールのネックレスも箱に入れてる」
「このパールつきドレスはなんて説明して友達に渡せばいいのよ」
「黙ってればフェイクパールだと思うだろう」
「でも本物なんでしょ?」
「そうだけど」
「仕方ない、フェイクだと思われて粗末な扱いされたらこの真珠が可哀想だから私が取り外すわ」
「あげるものだし、姉貴の好きにしてくれ」
「そう、いっぱい貰ったし、お返しに何かスーパーかディスカウントショップで欲しいもの買ってあげる」
「サンキュー!じゃあ遠慮なくお菓子と調味料を買い込むけどいいかな?」
「いいわよ、それくらい」




