75話「宴の席」
朝食の時間。
妻と子には日本で勝ってきたお土産のフルーツサンドを用意した。
三角にカットされたサンドイッチに真っ白い生クリームの中に包まれた瑞々しいいちごの断面が映えてて、とてもかわいい。
「わあ、かわいい!」
「まぁ、綺麗……これはいちごですよね」
「ああいちごだよ。断面がめちゃくちゃ映えるんだよな、いちごと生クリームの相性もいいし」
「味も……甘くて……でも甘過ぎず美味しいですわ」
「おいしい! お父さま、ミルも、いえ、わたしもこれ好きです!」
ミルシェラも言葉遣いを訂正しつつも、美味しかったと伝えてくれた。まるでほっぺが落ちそう!とばかりに頬を押さえてて、愛らしい。
「ところで女冒険者達の護衛の件はどうなりました?」
「即答をしろとは言ってないから、前向きに検討してくれるみたいだ。お茶の時間にでも交流をしてみてはどうかな? 君があんまり怖くないってとこを見せたら彼女達も護衛になってくれるかもしれないから、なるべく優しく笑顔で接して……」
「私に愛想を振りまけと?」
少しカチンときてしまったのか、アレンシアよ……。美味しいフルーツサンドで和んでいた顔が憮然とした顔になってしまった。
「別にへりくだる必要はないんだし、ただ穏やかに微笑むだけでいいんだよ。余裕をもってエレガントに」
「貴族と平民が同席して、お茶するのはおかしいことなんですよ、あなたそんな事も忘れたんですか?」
うっ!! 距離を縮めるにはいい手だと思ったけど、流石に生まれながらの貴族にはハードルが高いか……。
「うーん、じゃあ酒の席にするかな、収穫祭に参加出来てない、護衛任務とかで遊べてない騎士を集め、宴を開いて賑やかにして無礼講ってことにしてさ、公爵夫人の君は上座に座ってればいい」
「あなたはどこに座るのです?」
「もちろん公爵だし、君の隣だ」
「そうですか、それならいいのですが……」
俺が公爵なのに妻の隣ではなく他の場所に座ると思われてるのか……。
信用がなさ過ぎる。
「ミルはー? あ、いえ、お父さま、わたしは?」
「お酒の席だから、一瞬だけ……くらいならいいかもな」
「しょうがありませんね、ミルシェラにも護衛をつけるなら顔合わせの必要もあるでしょうし」
「ミルシェラは私とアレンシアの真ん中に椅子を用意するか、囲むぞ」
「分かりましたわ」
◆◆◆
そして急遽開いた宴の夕刻。
大広間には騎士達と女冒険者達を招き、テーブルや椅子、そして美味しそうな料理や酒やジュースが並べられ、華やかな宴席となっている。
「今日は公爵領の収穫祭に仕事で参加できなかった騎士達を労い、そして我が領地内で起きた事件調査に協力してくれた冒険者の女性達を招いた宴だ、無礼講なので気にせずお酒も飲んで楽しくやってくれ」
「「「閣下、奥様、そしてお嬢様、ありがとうございます!」」」
俺はワインの注がれたゴブレットを掲げ、乾杯の言葉を口にする。
「それでは乾杯!」
「「乾杯!! エルシードに栄光あれ!!」」
こうして宴は始まった。
女冒険者達も我々とかなり近い席にしてもらってる。
メイドの話によれば客室の歯ブラシをとても喜んでいたらしいので、さらに日本から持って来た特別感のある美味しい食べ物でも出して釣れたらいいのではないか? と、俺は考えた。
料理長が腕を振るった肉や魚の料理も並んでいるが、食にこだわりまくる日本人の作ったお菓子などどうかな? と、思いつつも、ひとまず先に妻のご機嫌とりをせねばと、いくつか出して選ばせることにした。
「実はアレンシアとミルシェラに、まだお土産がある」
「まぁ!」
俺は日本から買って来たお菓子を魔法の袋から15個ほど出して、テーブルの上に並べた。
「お父さま、これはなんですか?」
「全部チョコレートというお菓子だよ、二人とも、一つずつ好きなのを選ぶといい」
「わあ、これ、かわいい! きのこの形をしています!」
「それ、美味しいぞ、クッキーのとこをつまめば手も汚れにくい」
「じゃあ、わたしはこれにします!」
さて、アレンシアは……
「キラキラした金色の綺麗な包みに……こちらは船のレリーフのようなものが……」
金色の包み紙に包まれた大袋のチョコレートに惹かれてるようだが、もう一つ、クッキーに船の柄つきのチョコが合体してる有名なチョコと悩んでるようだ……。
どちらも味は美味い。まず、己で食べて美味いと思ったチョコしか買ってないから当然だが。
「コホン、さっき一つとは言ったが、君は私の妻だし、悩むのなら2つ良いぞ」
「本当ですか!?」
ぱぁっと顔が笑顔で輝く。たまに素直になるんだな、アレンシアも。
「ああ」
「まぁ、妻ですから、当然ですわね!」
妻は2つのチョコを抱えてご満悦の表情。こーゆー所はかわいいのではないか?
「甘いものだし、太らないように、全部一人で食べずに侍女とかに分けてやった方がいいぞ、あと、お母様が二つとったし、ミルシェラももう一ついいぞ」
「わぁ! じゃあ、この三角の……」
「いちご味のチョコレートだな、これもかわいくて美味しい」
娘は形がかわいいのが好みらしい。
「さて、甘いお菓子は女性に人気が高いし、お土産の数にも限りがあるので、女性冒険者のホーリナイトの諸君も、一つずつ選びたまえ」
「「「「えっ!? お菓子!? いいんですか!?」」」」
ああ。と、俺が頷いてみせると、それぞれ気になるお菓子を選んだが、四人とも数の多い袋入りだった。 質より量的な感じがいかにも庶民である。
金色の包装を選んだアレンシアもいかにも貴族ではある。あれは味も旨いけど。




