73話「スカウト」
俺はディエリーの姉であるホリーのパーティーも公爵邸へ連れて帰った。つまり女冒険者が四人いるわけなんだが……
「何故そんなに女性を連れて帰って……」
出迎えてくれた妻のアレンシアが啞然としていて、そこはかとなく不機嫌そうなオーラも感じた。
「うちの領地で問題があり、その調査に協力してくれた人達なので、食事でも振る舞って労いたいと思ったからだが」
しかし平民だから、純然たる貴族の婦人のアレンシアは食事の席に同席したくないかもしれない。
「まぁ……」
アレンシアを見て、女冒険者達も緊張した顔で居心地悪そうに頭を下げた。中身が庶民の俺よりずっとオーラがあるんだろう。気品とかそういうやつで。
「アレンシアはミルシェラと晩餐を。私はあちらをもてなすから」
女冒険者達と今回同行してくれたディエリー含む騎士達と俺は食事をするつもりだ。
「エルシードの領地に貢献した者達なら、私も同席してもかまいませんけど?」
マ!?
……もしや浮気でも疑ってるのかな? 平民の愛人候補を連れて来たとでも思ってるのか?
気位の高い女であるこのアレンシアの行動に俺は違和感を感じたので、そんな気配を察知した。
「君は高貴過ぎて、彼女らが緊張して味が分からなくなるかもしれないだろう」
「……はぁ? そんなものですか? ──まぁ、あなたがそんなに嫌がるなら分かりましたわ。私はミルシェラと食事をとります」
アレンシアが少し不機嫌になってしまったが、今はわざわざ連れてきたお客様をおもてなししなければ。それと、聞きたいこともまだあるんだ。
「ああ、すまないな」
そして妻はくるりと踵を返すと、食堂の方へ向かった。
我々はベランダ的な場所に向かった。
日本の家で言うなら、ウッドデッキのあるような場所であるが、そこは大理石で作られていた。
庭園を眺めつつ、食事が出来る所だ。
ちょうど今の季節は秋色に染まる黄色や赤の木々が眺められ、魔石を使った魔道具により、夜はライトアップされる。
「美味しい……」
「それに景色も綺麗ですね、光で木々を照らすだなんて……」
見た目がかなりロマンチックなんだよな。
でも俺は主に防犯のためにやらせてる。
「この庭のライトアップは防犯も兼ねているんだよ、夜の闇に紛れて変なのが紛れこまないように」
「なるほど……」
晩餐のメインはスペアリブを使った料理で、デザートには果物もある。
女冒険者達はふんだんに調味料が使われた美味しい料理に感動してるようだ。
てか、骨を使った料理って美味しいよな。
「わざわざこんなに美味しいお食事まで、ありがとうございます」
「いやいや、ところで君たち、騎士に興味はないかな?」
「はい?」
彼女らは俺の言葉に一様に面食らう。
「この公爵家でさえ女性騎士の募集かけてもなかなかこないのだよ、すごく珍しいみたいで、女だてらに男に混じって騎士になる人」
「ああ……そうですね、女冒険者はかなりいますけど、騎士となると敷居も高いですし……」
──へえ。やはり、敷居が高いのか。
「女騎士ならパウダールームとか、男騎士のついて行けない場所にも護衛につけるし……だから妻子の護衛になりたい人がいたら、私が推薦するので良かったら検討してみてくれ」
彼女らはぴしりと居住まいを正すように背筋を伸ばした。
「ええと……」
ホリーが戸惑いつつ、ディエリーに視線を送ると、ディエリーは優しく微笑むだけだった。
「私が貴族だからと言って、これは強制でも命令でもないから、別に断ってくれて構わない。ただ、給料は弾むよ。それに福利厚生……えー、怪我などした場合、ちゃんと補償する。傷病手当とかあるんだよ。冒険者だと依頼を受けたら全部自己責任で傷病手当とか……なくないかな?」
「それは……確かに……ありませんね」
彼女等は天を仰いだり、己の手元を眺めたりして、それぞれ考えこんだ。
「エルシード公爵様は優しい方だし、ミルシェラお嬢様も可愛らしい方だよ、奥様も少し気難しい所はあるかもしれないけど、根は優しい方だと思う」
ディエリーが口を開いて、援護してくれた。
「ともかく、本日ここで即答しなくても構わないから、考えてみてくれ。君達が怪我や病気にかかったりすれば、神官、医者、薬、最高の物を用意するし、本人以外に家族の方も健康面に心配なものがいたら、私も光魔法が多少使えるみたいだし、相談も受け付ける」
「え、家族のことまで見てくださるんですか?」
ホリーが一番に反応して目を輝かせた。
「大事な妻子の守りを任せるのだから、それぐらいは優遇するよ。妻が怖いなら皆娘の方でも構わないし、私の方でも構わない」
「奥様は、別に暴力をふるうような方ではないから、怖くないよ。私も平民出身だけど別に嫌な対応をされたことはないし、すぐに慣れると思う」
ディエリーがまた援護射撃をくれた。マジで助かる。
「前向きに考えます!」
「私も」
「あの、私は剣士でもでなく、スカウトなのですが……」
ファンタジーゲームでよく見る、シーフ的な身軽な服装の子がおずおずと俺に声をかけた。この子は斥候系なのだな。
「ああ、すまない。私の言い方が悪かった。つまり女性の護衛が欲しいだけなのでスカウトでも魔法使いでも武闘家でも構わないよ」
「あ、剣士系でなくてもいいんですね」
「家族のことまで見てもらえるなら、私はやりたいです! 皆も補償のある生活にしようよ!?」
ホリーが一番に手をあげた。流石身内が既にいるという事で、安心感が違うようだ。
てか、単にめちゃくちゃ弟思いなのかも、兄弟を食わせる為に自ら冒険者になったくらいだし。
「ありがとう、ホリー、嬉しいよ。でもいきなりパーティーメンバーが一人いなくなると他の子が大変だろうから、仲間とよく相談してくれ」
「はい」
「ひとまずホリーは当家に内定という事で。後で私が妻と娘に女性の護衛が欲しくないかと話をするから、その後でどちらかについて貰うと思うが、他の子の選択肢にもよる。今日はよければ皆、当家に泊まっていってくれ」
「はい、ありがとうございます。今夜しっかり話をします!」
ホリーのパーティーメンバーもそれで納得して頷いた。




