70話「スメスキーと言う冒険者パーティー」
乗り合い馬車に乗ってまずは冒険者がよく使う食堂兼酒場近くの停留所まで向かう。
今の時刻は夕刻。
そして乗り合い馬車から降りて食堂に徒歩で行く途中、俺達は声を潜めて話をする。
「ところで……冒険者ギルドには既に通報とか調査依頼はしてあるんだよな?」
「もちろんしてありますし、姉や姉と親しい者達も動いてくれていまして、その調査によれば暴行後に亡くなった女の子の所属していた大手ギルドのゴールドクロウではギルト長が比較的最近、代替わりしたそうで……あまり評判がよくない男なのです。もし上の方で雑に握り潰されていたら……調査の進展は期待できないでしょう」
「え? あれ? ギルド長は選挙とか、人柄で選ばれるものではないのか?」
「荒くれ者をまとめるので力が必要で、最初は元Aランク冒険者の実力者が選ばれていたのですが……今、あそこ世襲になってたと思うんですよ」
「もしや……新しいギルド長のたちが悪くてお金握らせられてたり?」
胸が重く苦しくなってくる。
「そうですね、金とかなにか金になる素材、利権的なもので釣られたり……はよくある話らしいです」
金と何かいいもので釣られてる!?
「由々しき事態、我が領地のそこそこ権力のある者が腐敗だなんて……」
地方領主とかでなくても、命がけで戦う冒険者の上にいるギルド長がそれでは困る。
「ちょうど閣下が生死の境を彷徨っていたあたりにギルド長が代替わりしてたんです。先代ギルド長がもう、病におかされていたそうですし、清廉な領主に何かあると悪いのがこれ幸いとばかりに動きだしたりするものです」
!! 間接的に俺のせいか!?
なんてことだ……。ギルド長の世襲はうちの領地内だけでも俺の権限で禁止しないと……。
「お、俺はまだ生きてるのだが……」
「もちろん閣下が悪い訳ではありません、魔族との戦いは過酷なもので、領地を守るお勤めを果たされただけですし、運悪く病にかかった先代ギルド長も……」
「先代ギルド長の病状はそんなに悪いのか?」
「病で亡くなったそうなのです……」
ああ……運の悪いことが重なったのか、まさか毒殺ではないだろうな?
ちゃんと調査をしなければ……。
「食堂兼酒場に行く前に靴磨きの所に少し寄ります、姉の伝言を預かってるかもしれないので」
「ああ」
そして、ディエリーは街角の靴磨きのおじさんの所に行き、話しかけた。
「フクロウからの伝言だ。例の事件のあった冒険者パーティーはスメスキーって名前で、そいつらがよく行く食堂はマンボウってとこだ」
フクロウはどうやら姉の仮名なのだろう。
「了解」
俺達は靴磨きの側から離れた。
「スメスキー……と言う名前のパーティーですね」
「スメスキー……メススキー……雌好きみたいな名前しやがって……」
俺達はマンボウと言う名の食堂兼酒場に到着した。扉を開いて足を踏み入れると、荒れくれ者たちの喧騒が耳に響く。
そして、空いているテーブルにつき、酒を片手にひと芝居をうつ俺。クズな冒険者役をやる。
「……ああ? こないだの稼ぎか? ちょっと博打で増やそうと思って借りた」
「あんた何言ってんの! 大事な稼ぎを他の女に貢いだの、アタシが知らないとでも思ってるの!? この浮気者の裏切りもの!!」
「ああ? うるせーなぁ、俺が命がけで稼いだ金をどう使おうが俺の勝手だろうがよ」
「一緒にお金貯めて冒険者引退したら小さな宿屋でいいから普通の仕事しようって言ってたじゃない!!」
「……道のりがなげーんだよ、やってらんねー」
「もう、あんたには付き合いきれない!」
キレる演技と共にバン! と、テーブルを叩くディエリー。いい感じに人目を集めている。
「こっちだって可愛げなくて口うるさい女は願い下げだ! 今日で俺達のパーティーは解散! 解散だ!」
俺はそう言った後にエールを一気に飲み干し、「ほら、勘定だ!」
と、カウンターにいる店員に銅貨を投げつけるように払って、俺は一人で酒場を後にした。後はディエリーことエリーがスメスキーの輩に声をかけられるのを待つ。




