リンドル侯爵家
朝の身支度をしていると、執事が手紙を届けてくれた。
貴族会議会議から数日後、会議の場には女性はいなかったのに、やたら貴族の夫人からの茶会の誘いが当家、エルシード公爵家に来ている。
どこからか話が伝わった?
旦那側が家族との食事の席で……エルシード公爵が無謀な発言でもしてたとか、笑い話にでもした可能性が……あるな。
招待状には夫婦揃ってお越しくださいって書いてあるが、普通は夫人主催の茶会は夫人のみ誘うものでは? と、思うから、俺に話でも聞きたいのかと推測する。
それが好意的なものか、笑い者にしたいのかは不明だが、あからさまに公爵家相手にケンカを売るバカな夫人もそうおるまい。
やはり俺はエルシード公爵と中身が違い、ほとんどの人の事が分からんが、行って社交をすべきかな?
茶を飲んで歓談するくらいなら、庭の花や調度品を褒めてればなんとかなりそうな気はする。
そして俺は身支度を終え、朝食の為に食堂へ向った。
「アレンシア、どこかの茶会に行くか?」
とにかく妻に茶会の件を聞いてみた。
妻は少し食事を中断し、トレイに乗せられた封筒から、いくつかの候補を選んでるようだ。
うっかり食事を中断させてしまった。茶の時間にでも聞けばよかったかな?
でも仲良くティータイムとかできる雰囲気ではないのだよな。
先日も軽く怒られたし。
ちなみに朝食のメニューはカリカリに焼いたベーコンと目玉焼きに、バゲットとスープと季節のフルーツのさくらんぼとイチゴという俺も好きな定番メニューだ。
多分果物がついてるだけでもおそらくは庶民よりは裕福だと思う。
「このリンドル侯爵家と仲良くしていれば娘の将来の為になりそうなので、最優先で行くべきでしょうね。ここの薔薇庭園でのガーデンパーティーは評判がよいですし」
「ふむ、薔薇庭園か、悪くないな。ちょうど見頃だし」
薔薇庭園見物に行くと思えば社交も観光地だ。
「パパとママ、おでかけなの?」
「ああ、ミルシェラはいい子で待っててくれるな?」
「ミルもいっしょに行きたいな」
「もう少し大きくなったらな」
「はぁい……」
しかし、同じくらいの年齢の子供がいる騎士の家門とかに遊びに行くのは悪くないかもしれない。
騎士の幼馴染を作ることで、将来への布石とする……。
ふふふ。まず性格のいい両親の子であることが重要ではあるが。
「なんですか? その笑顔、何かまた突拍子もない事を考えているならおやめくださいね」
「……俺がいつもとんでもない事を考えてると思っているのか?」
「はい」
「心外だ、娘と歳の近い遊び相手がいる家に行くのは悪くないと考えていただけだ」
「……もちろんそれは良家の令嬢なんでしょうね?」
「騎士の家門……とか」
思わずバカ正直に答えてしまったが、夫人連れて訪問するなら、どのみちバレるし。
「またあなたは……」
「訪ねて行く家門の騎士の子が将来強くて逞しく頼りがいのある男になる可能性に賭けてもいいじゃないか」
「あなた、通常は家格の釣り合う公爵家とか侯爵家の令嬢と……」
おっと! お説教の気配を察知!!
「はーい、はいはい、普通はそうですよねー」
「あらあら、はいは1回でよろしいですわよー」
一応娘の手前、作り物の笑顔を貼り付けているが、目は笑っていないアレンシア。怖い。
「ところで社交するほど元気になって来たなら、少しは公爵としての仕事も少しずつでも復帰なさってくださいね」
確かに妻や文官ばかりに世話をさせるのはいかんな。
「ああ……いくつかの書類に目を通すことにするよ」
そして食後は大人しく書斎に向かうと、俺のハンコ待ちの書類がかなり溜まっていた。
「やるかーー……」
書類仕事を黙々とこなしてから、一息ついてぐぐっと背を伸ばす。
ひたすら書類読むの大変だなー。異世界だから、読めるだけマシなんだか……。
でも今度休みを貰ったら、川でザリガニ釣りとかしてえ!!
きっと異世界ファンタジーの川は綺麗だろうし、爽やかな気がする!
でも公爵の休みって自己申告でいいのかな?
この家で一番えらいのは家長の俺のはずだし、多分いけるよな?