63話「妻の様子が少し変」
妻のワードローブからもういらないと言われたドレスを引き取った。
質のいいドレスが五着も貰えたのでラッキーである。
これで撮影協力をしてくれた漫画さん達にもお返しができる。
一着はコスプレイヤーさんに直接渡してもらおうと思う。
俺から渡すとなると住所をよくわかんない男に渡す事になるから、一応人づてにだ。姉貴に渡せば繋がるだろう。
そしてわらび餅以外にもお土産があったのを思いだした。日本で歯ブラシと歯磨き粉を購入してきたので、妻と娘にもあげて使い方を簡単にレクチャーする。
こちらの世界にも歯ブラシはあるが、既存のものはやけにヘッドが大きく、使いにくいからだ。
(ちなみに平民は指か植物を使うらしい)
貴族の使う物のブラシ部分は雄豚の剛毛を細いワイヤーを使って固定させていて、歯磨き粉は岩塩やミントや木炭等を粉末にしたものだ。
「先が小さくていいですね」
妻も喜んでるし、
「ミルもこの大きさなら、お口に入れられます」
「ちゃんと子供用も買っておいたから」
ミルシェラも喜んでた。デザイン違いを大量購入して、騎士や使用人達の分もあるから、あとでメイドか執事にばら撒いてもらう。
そして次回購入品リストを作成することにした。
既に夏が終わってしまったが、とりあえず夏バテ対策に涼しくなれるように、子供用水着と大人用水着とビニールプールなんかも入れておこうと思った。
逆にセールとかやってるかもしれないし。
魔法の袋に変わる大きめの魔方陣風呂敷も王都のオークションで狙ってみよう。
魔道具オークションなら妻も虫など気にせずに楽しめるだろうし。
いろんなものが入る。
◆ ◆◆
執務室で夕刻近くまで仕事をしていると、執事が丸めた紙を持ってきた。
「公爵様、オペラの公演のリストが手にはいりました」
「ありがとう」
リストを受け取り、丸めた紙を開いて中身を確認した俺は演目が5項目もあるのに気がついた。
「いくつかあるが、御婦人達にはどれが一番人気なんだ?」
思わず執事に訊いてみた。
「そうですね、この三作……は、どれも御婦人の人気が高いらしいです」
なるほどな。後で本人に聞く方が確実だろう。
晩餐の時間になって家族が揃ったので、せっかくなので俺はアレンシアに訊いた。
「え? なんですって? 申し訳ありません、もう一度言ってくださいますか?」
オペラの演目の人気の三種のうちから観たいのをひとつ選べと言ったんだが、どうやらぼんやりして聞いてなかったらしい。妻らしくない失態だ。
「いや、だから先ほど言ったオペラの3作のうちから君がどの演目が見たいか聞いてからチケットをとるから、選んで欲しいと」
俺は今度は演目リストを手渡すように執事に言った。
「奥様、こちらが演目リストで、丸を付けてあるのが御婦人に人気の三作です」
「ああ、三作までは絞って下さったのね……えぇと……では、こちらを」
「ではアレンシアが選んだ演目のチケットを確保してくれ」
「かしこまりました」
執事は恭しく頭を下げた。
最新妻はよくぼんやりしているが、何かあったのだろうか?
「アレンシア、何かあったのか? 心配事でもあるなら、話を聞くぞ」
「い、いえ別に! もう時期第一王子の誕生日パーティーですから、その事について考えてました」
「そうか……まぁ、お祝いを言ってプレゼントを渡せば何とかなるだろう」
「あなた、まだ貴族達の記憶は戻りませんのでしょう?」
「……い、依然死にかけた後遺症でまだ戻らない」
俺はケーネスト本人ではないから、モブの事はほぼ知らん。
「お父様、大丈夫ですか?」
娘のミルシェラにも心配された。
「大丈夫、今日の御召し物素敵ですねとか、いい夜ですねとか言っておけばなんとかなるだろ」
「全く貴方という人は……大雑把なんですから」
アレンシアが俺に呆れるが、緊張が少しほどけたような顔をして、微笑した。
別に不機嫌にはなっていないので、セーフという事にしておこう。
◆ ◆◆
そしてついに第一王子の誕生日パーティーを迎えることとなった。
私と妻は王都へ向かうので、朝から邸宅の玄関先まで来て見送りに来てくれてるミルシェラにむきなおる。
「ミルシェラ、また留守番をさせる事になるがすまないな、お前がもう少し大きくなったら一緒に王都へ行こう」
「はい、お父様、お母様、行ってらっしゃいませ」
「ああ」
「ええ」
ミルシェラの頬にキスをして、行って来ると言ってから、俺とアレンシアは馬車の方に向った。




