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貴族会議

「貴族議会に出てくる」



 俺は娘に、高位貴族との結婚以外の道を用意してやりたかった。



「あなた……女性に爵位を継がせる事を可能にするなんて、本気で多くの男性貴族を敵に回すおつもりですか?」 


「能力があるのに、性別のせいで機会を得られなかった女性にも光が当たるべきだと思うし、男性にだって、後継者より他になりたいものがあった可能性もあるだろ」


「……ケーネスト。私は止めましたよ」



 妻には止められた。でも、なにもやらないよりは、やっておきたい。



「ああ、駄目なら却下されるさ。でも、こういう革新的な事もやっていかないと何事も衰退し、腐っていくだけだと思う」  



 今、叶わなくても、俺の想いが、いつか正しく娘に伝わるといいなと思う。

 すべてミルシェラを、家族を生かすためであったと。



 ◆ ◆ ◆


 まず、俺は会議のやっている日と時間を調べた。

 そして、ちょうど翌日にあると分かった。


 馬車にて王城へと到着した。

 大きくて立派な城を見あげ、ここはある作品内の世界であるがゆえに、ある意味聖地だなと、感慨にふけったりもした。


 5月の庭園は見事な薔薇の花が咲き誇っていた。

 庭園を抜けたら城に着くのだが、庭園も広いので、ひとまず馬車のまま通り抜けた。


 王城は見た目だけは華麗だが、実は中では醜い権力争いがあるのが常である。


 そして俺は王城入口にいた執事らしき男に声をかけた。


「会議室へと案内を頼む」



 ぶっちゃけ中の人が違うから、会議室がどこにあるかわからんのである!



「かしこまりました、エルシード公爵様」



 やや、不審だったろうか? でも公爵という身分を考えたら、案内係がついてもいいと思う。



 城内の会議室へと石造りの城のひんやりした空気の中を、案内について俺も進む……。

 LEDライトもないから、燭台はあるが午前中でも薄暗い。


 明かり取りの為にやたらめったら大きなガラス窓を使用するでもなく堅牢さを意識して作ってあるし、仕方がないともいえるが。


 そして広い城内の廊下を進み、会議室の前まで来て、案内は終了した。


 俺は一つため息をつき、心を落ち着けようとした。

 

 腐っても公爵なんだし、多くの者にとって気にくわない事を言ったとして、その場で襲われることはない……。


 俺は華麗なレリーフの刻まれた、重厚な扉を開いて、中に足を踏み入れた。



 ◆ ◆ ◆



 王侯貴族会議にて。



「エルシード公爵、正気ですか? 女に爵位を継がせたいなんて……」

「はい。息子の出来が悪くて娘の方が出来がよかった。なんて、普通にある話ですし、能力のない者が無理に継いでも家門の衰退に繋がるでしょう?」


「それはそうだが、いきなりそんな事をしては混乱が起きるし、家門内の家督争いも激化しかねないでしょう」


「そもそも能力があるものが上に行き、爵位を継ぐべきです。男女の性別も関係なく、長男が愚鈍で、次男、三男の方が能力が高いとかも、普通にあるでしょう?」


「それはそうでしょうが……」

「まぁ、この案件を通すか否かは、多数決で決まる」



 議長らしき男が声を上げた。


 おっと、ここは最終決定は多数決採用なのか。 公爵という爵位に敬意を評して権力者におもねるのではないのか。ふーん。



「では、女性でも能力が高ければ爵位を継がせる法案を通すかどうかを、多数決で決定いたします、賛成の方は挙手を……」



 シーン。俺しか挙手する者が……いない。

 俺しか……いないのか……。

 びっくりするほど、誰も乗ってこなかった……とはね。



「では、反対のものは挙手を」


 ザッ。

 その場にいる貴族のほとんどが反対の方に挙手をした。

 たまにまるで挙手をしないやつもいて、保留派閥も存在した。俺を敵にしたくもないし、味方にもなりたくない的な事かな? などと推測した。



 ……そして、結果として、多数決だと普通に負けた。

 法律から変えるのは無理だったか……。

 ──しかし……貴族会議は男だらけだし、当然そのパターンが多いとは……思ったよ。

 がっかりだけどな。


 会議が終わり、俺も席を立ち、屋敷に変えるため廊下を歩いていると、背後から声をかけて来た男性貴族がいる。モブ顔なので誰かわからん。

 


「まぁエルシード公爵様、そんなに気を落とさないでください。さては最近魔族との戦闘で重体になったせいで、お気が弱くなられたのでしょう。しかしまだ男の子を作れますよ! ははは!」



 勘違いの心配から励ましの声がかけられた。

まだまだ子作りも頑張れるなんて、下世話な励まし方をするものだな。



「当家がもう男の子が作れないとか、そういうことではないのですよ。女性でも能力があれば機会が与えられて然るべきだと思っただけです」

「公爵様は革新的な方ですなぁ」


 ふと、高貴そうな女性が廊下の曲がり角から現れた。

 この人はなんか見たことある。



「エカテリーナ王女殿下にご挨拶申し上げます」



 !!

 隣にいた俺に話しかけて来た貴族がそう挨拶したのだし、この人はそうか、エカテリーナ王女か! 原作でも才女で男勝りと名高いキャラで、ヒロインの相談役もやってた。女だてらに狩猟大会にも出るタイプ。


 この人を先に味方につけるべきだったかもしれない……根回し無しは早計すぎたか? 今更だけどな。

 そして俺も同じように見様見真似で挨拶をやってみた。



「ご機嫌よう、エルシード公爵、ランバル伯爵」



 なるほど、こいつランバル伯爵って言うのか。

 こうやって知らない相手でも地味に名前を覚えて行くこともあるんだろうな。


 王女に挨拶を終え、帰り道、まだ幼い王子達が庭園で話してる所を見かけた。


 第二王子もいる!! 我が娘の未来の敵!!

 この時代から何か鬱屈した光が、第二王子の瞳の中にあるだろうか?


 などと思ったけど、やや遠いのでよくわからない。

 ここでわざわざ挨拶に行って、歳が近い子供がいるなら家に遊びに行かせてだの、娘に会ってみたいだの言われたくないので、見なかった事にして、俺はさっさと帰った。


 変なフラグを立てたくないから!!



「お帰りなさいませ、あなた」



 妻が何故か屋敷の玄関先にて仁王立ちで俺を待っていたが、この人の淑女教育は、どのようなものだったのか?


「ただいま」

「会議はどうでした」

「結果として、俺の希望は通らなかった」

「だからわたくし、言いましたよね?」



 妻のそれは、あからさまにそれみたことか! 的な態度である。



「ただ……こんな男もいたってことを、お前は覚えててくれるよな、妻なんだし」



 俺が少し哀愁をにじませた雰囲気でそう語ると、


「は!? な、なにを急に言い出すのですか!? もしや遺言ですか!?」



 妻が動揺した。



「ただの夫婦の会話だよ」

「なにやら重たい雰囲気の会話ですわね!」


「……王城内の庭園の薔薇が綺麗に咲いてたよ」

「なんです? 綺麗な女性を見つけたって話ですか!?」



 妻にじろりと睨まれた。



「いいや、そのまま、薔薇の花の話だよ。女性は関係ない」



 比喩とかじゃなくってさ。


「急に強引な会話の変え方をなさる方ね」

「そうかもしれないな、俺は気分で生きている」



 俺は笑ってみせた。



「まったく、気分と思いつきで生きるのはやめていただきたいわ、あなたは家門を背負っておられるのですから」

「……」



 背負ってるからこそ、断罪ルート回避に動いてるつもりなんだがなぁ……。

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