59話「お土産の話」
〜 アレンシア視点 〜
夫のケーネストのお土産のダンジョン産とやらの化粧水の実験を……しようと思います。
そして夫の言葉を私はよく思い出しました。
化粧水と乳液はお風呂上がりの寝る前にも使えと言っていましたね。
とりあえず、メイドの中で試してみたいものがいるか聞いた上で、その一人を入浴後に呼びました。
「アンナ、お前、入浴後ね?」
「はい、奥様。先ほどお湯をいただきました」
侍女のドロシアが化粧水をメイドの手の平にだし、頬にそれを塗ります。
「頬に塗ってごらんなさい」
と、侍女のドロシアがメイドのアンナを促します。
「どう? ピリピリしたり痛みはない? あるいは痒みとかはあるかしら?」
さらにここからは侍女が私の言葉を代弁してくれてます。
「いいえ、なにも不快感はありません」
「よろしい、次は乳液よ」
私はその様子をじっと見守ります。
「はい、こちらも問題ありません」
と、メイドが言ったところで、私はまた口を開きました。
「では、一晩経って様子をみましょう、アンナは朝にまた様子を見せに来てちょうだい」
「かしこまりました、奥様」
そして一晩経ちました。
鳥の囀りが聞こえるさわやかな朝です。
鏡台の前で侍女が私の髪に櫛を入れてくれているところにメイドが来ました。
「おはようございます、奥様」
「アンナ、来たわね……ん?」
振り返って見た、アンナのお肌が……なにやら……輝いてみえます。
「たったの一晩ですのに、お肌が潤ってツヤもある気がします!」
アンナはそれは大喜びで、目を輝かせ、自分の頬をもちもちと触っています。
「そ、そうね、なんの痛みも痒みもなかったのね?」
「はい! そのような不快さは全くありませんでした!」
「ちょっと失礼……」
侍女のドロシアがアンナの頬を実際に触れてます。
「……どうなの? ドロシア」
「潤っていて……もちもちの美肌……ですわね、あの化粧品はとてもよいものなのでは?」
「たった……一晩で、ですって?」
これには私も、驚愕です。
これはダンジョン産のものなので、特別なのでしょうか?
「──まぁ、すごいことですわよ奥様、そもそもアンナがそれなりに若いことも考慮したとしても……」
「そ、そうね、じゃあ私も安心して使えそうだわ、下がっていいわよ」
「はい!」
メイドは意気揚々と退室していきました。
私はもう一度顔を洗ってから、化粧水と乳液を顔に塗ってみました。
……特に不快感もありません。
ひんやり冷たくて気持ちいいくらいです。
そして侍女が言いました。
「わたくしもいつでも実験体になりますので! またの機会があれば!」
と、意気込んでおります。
どうやら侍女も使ってみたいようですね……。
夫はダンジョン先にも商人がいて、コチラの通貨が使えないから、物々交換をするか、何か向こうのお金をかせがねば……と、晩酌の時に聞いたような気がします。
何か差し出せるものがあれば……この化粧品がなくなりかける頃には、また買って来てくれるでしょうか。
◆◆◆
〜 主人公視点 〜
俺は日本での撮影の時の約束を果たそうと思う。
「アレンシア、もういらない、着ないだろうドレスを貰ってもいいか?」
「なんの為にですか?」
おそらくは高価なドレスは侍女などに下げ渡すこともできるので、一応聞くのだな。
別に俺に浮気相手がいるわけではないぞ。
「ダンジョンの……向こう側の世界で通貨の代わりにそれを売る」
「一度他人が袖を通したものでもいいんですの?」
「公爵夫人のドレスはものがいいから、余裕だろう」
「そうですか、化粧品が無くなる前にはそのドレスがまたアレに化けるならいいですわよ」
「どうやら気にいったようだな」
「例の化粧水と乳液の力に驚きましたの」
「資星堂はいいものを作るらしいから……あ、レースも買ってたんだった、はい」
俺は綺麗なレースもお土産に買ってた事を思い出し、魔法の袋から取りだした。
「まあ! なんて繊細な……美しいレース!!」
この異世界だと手編みの凄まじい大作となってしまうであろうレースだが、これは機械がすごいのだろう。
「まぁ、好きに使ってくれ」
「こんなすごいものを買っていたのを忘れないでいただきたいわ! 妖精の手によるものかしら!? 王子殿下の誕生日パーティーのドレスにこれを付け足してもらいますわ!!」
アレンシアはレースを手にして目を輝やかせていた。
「急にデザインを変えるとデザイナーや針子達が困るのではないか?」
「自分達が手がけたドレスを私が美しく着るのですから、多少の苦労は厭わないでしょう、店の評判が上がるのですから」
「なるほど、奥様は生きる広告塔か」
「なにか問題でも?」
「ない」
ありません。




