57話「欲張りセット弁当」
翌日の朝はフレンチトーストを作らせていただいた。
泊めて貰ったのでせめて簡単な料理くらいはと。
ちなみにフレンチトーストのコツは、牛乳と卵を最初に混ぜないことだ。
まずパンを牛乳液に浸した後、焼く直前に卵液を全体にからめる。
卵液には塩をひとつまみ加える。
これは塩で卵がほぐれやすくなる為と甘みとのバランスが良くなる為だ。
それからフライパンにバターを贅沢に使い、(お土産にバターも持って来たので、遠慮なく)
パン両面に焼き色がついたら、側面を立てて耳にも焼き色をつけて完成。
「やー、すまないね、俺達の分まで」
俺は旦那さんや姉の分も当然作った。
「泊めていただいてるので、これくらいは」
「ありがとねー、これ、綺麗に焼けてて美味しいわ」
姉にも褒められた。
「良かった、心愛ちゃんもフレンチトースト美味しいかい?」
「うん! ココ、フレンチトースト好き!」
「良かった」
いいお返事に俺も思わずニッコリ。
そして、その食後は自分から申し出て食器洗いや風呂や玄関の掃除をした。
泊めてもらってるし、色々お世話になっているので……。
その後はしばらく心愛ちゃんの宿題の手伝いというか、見守り作業をした。因みに宿題のお供はサイダーだった。
そしてもうすぐお昼って頃に真理姉がワゴンを押して来た。
「お昼用にこの弁当箱に好きなオカズ詰めていいわよ」
ワゴンで運ばれてきた大皿が三つテーブルの上に置かれていき、その二枚の大皿にはいろんなオカズが、もう一枚はおにぎりと漬物が盛ってある。
「まるで夢のようだ」
オカズバイキング!
「ふふ、弁当屋だからオカズはあるのよ」
「それはエビフライとか選んでもいいってことかな!?」
「いいわよ、大皿に入ってるやつは全部いいのよ」
やったーーーーっっ!!
「じゃあ、エビフライとー、甘酢肉団子とー、磯辺揚げに卵焼きに高菜に……おにぎりの欲張りセット!!」
空の使い捨てお弁当箱に好きなオカズを選び、箸で掴んで入れていく。
「ふーん、高菜が無ければほぼお子さまランチね」
「ふふふ、バレたか……」
味覚がほぼ子供なのがバレた!!
別にいいけど!
「ココは何にしよーかなー? やっぱトンカツー、そしてミートボールとポテトとーウインナーと卵焼き……」
フライドポテトもいいよな! ここにあるポテ皮付きのやつ!
「おーいいねぇ、若者らしくて」
「私の賄いはー鮭とー、出汁巻き卵とー高菜とたくあんと、磯辺揚げー」
姉は弁当箱ではなく、ワンプレートの容器に盛ってる。洗って何度も使えるやつ。
「それってほぼ海苔、いや、鮭弁……セットだね」
「何か問題でも?」
「いいえ、なんにも!」
真理姉はプレートを手に、「あとは冷蔵庫に入れといてー」と、俺に頼んですぐに弁当屋に戻った。
考えてみたら昼飯時は、忙しいよな。
残りのおかずは熱が取れてからラップをかけたりタッパーに入れて冷蔵庫に入れ、晩御飯用にするんだと思う。
◆ ◆ ◆
午後の夏の陽ざしが、姉の家のリビングに差し込む。
十二時になり、そろそろいいなって頃にテーブルの上に置いてあるお弁当を自分の前に引きよせる。
蓋を開けた瞬間、甘酢肉団子の艶やかな照りが食欲をそそる。エビフライのキツネ色の衣も魅惑的だ。
そして忘れてはいけない、しまざき弁当で大人気の出汁巻き卵のふんわりとした黄色も、大変素晴らしい。
黒い海苔にシットリとつつまれた白米の俵型おにぎりもワクワクする。俺はパリパリのやつも、シットリした海苔も両方好きだ。
「よし、いただきます」
「いただきまーす!」と心愛ちゃんとテーブルについて手を合わせた。
まずは肉団子に箸を伸ばす。
甘酢のタレが絡んだ肉団子は、口に入れた瞬間、甘さと酸味が絶妙だと思った。
濃い味の次におにぎりを食べる。口いっぱいに塩と海苔だけのシンプルで懐かしい味わいが広がった。
次に、エビフライを手に取った。
サクッという軽快な音とともに中からプリッとしたエビの食感が現れる。
タルタルソースを軽くつけて頬張ると、クリーミーなコクとエビの甘みが混ざり合う。
そして隣の出汁巻き卵に箸を移す。出汁巻きはふわりと柔らかく、口の中でほのかな塩気と出汁の優しい風味が広がった。
エアコンの効いた涼しい室内で、アニメ映画を観つつ、ゆっくり美味しい弁当を味わいながら、まったりとして最高だなと思った。
心愛ちゃんもいつも食べてはいるだろうけど、美味しそうに食べてる。
そして窓の外からは近所の子供の笑い声も聞こえてくる。
庭にビニールプールでも出してるのか、いかにも夏休みって感じだ。
そして夕方には俺は姉からチャリを借りてドラッグストアで買い物をした。充実した1日である。




