53話「写真館」
「本日はポーズモデルの件、ありがとうございます」
なんと翌日の昼過ぎには姉の紹介してくれた同人誌作家さんの本田桜子さんが待ち合わせしていたカフェに現れた。
俺はカフェラテ、作家の桜子さんはメロンクリームソーダ、真理姉はアイスティーをそれぞれ注文して飲んだ。
桜子さんはメロンクリームソーダを飲む前に撮影していた。綺麗でかわいいからな。実に映える。
「こちらこそ、撮ってくれる方を探していたので」
金稼ぎの為に。もはや自分のブロマイドすら売る所存。
「いやー、でもケントさん、日本語お上手ですね!」
俺の見た目が外国人なので、そう思うのだろう。
「ただの日本育ちのクォーターなので、むしろ日本語しか使えません」
「よかったー、翻訳アプリいるかと思いました」
と言って、あははと笑う作家さん。
「では、揃ったみたいなのでそろそろ写真館へ向かいますか?」
「あ、すみません、実はあと一人モデルさんと待ち合わせてて」
「ん?」
俺の他にもまだいたのか。
「ごめーん! ちょい遅れました!」
白いけどギャルっぽい雰囲気の女の子が現れた。金髪なのである。
「知り合いのコスプレイヤーのミカリンさんです、急な話だったので、来れたらって事でしたので、言いそびれててすみません! ポーズモデルに少し二人の絡みも欲しくて、だめだったでしょうか?」
ああ、成る程ね。漫画の参考にするのなら多少の絡みポーズも欲しいわな。
「いや、別にいいですよ、俺は」
「じゃあ今日はよろしくお願いしまーす!」
このミカリンとか言うレイヤーさんは陽の気がすごい。
◆ ◆ ◆
そして我々は写真館の駐車場に着いた。
俺は姉の車に同乗、レイヤーさんは漫画家さんの車の2台で来た。
車から降りて荷物を出し、写真館のドアに向かう。
「どうする? ここで貴族令嬢風のドレス借りたらいいの?」
と、レイヤーのミカリンが桜子さんに問う。
「一応資料用に買ったやつを持ってきてるの。Мサイズでいけそ?」
「胸さえ入ればMいけるよ。てか、貴族令嬢風のドレスってやつ?」
そっか、そういやミカリン学生っぽいけど胸大きいな……成る程。いや、あまり胸を見てはいけない。
「そう、実は異世界ファンタジー漫画のコミカライズの話が来ててー」
と、桜子さんは振り返りざまに俺に言った。
「え? コミカライズってことは、プロデビューされるってことですか?」
俺が写真館の扉を開けるとカランと、音がした。
我々は話をしつつも店内に入る。
「えへへ、実は既にBLの方ではデビューしてたんです」
「え!? 初耳なんだけど!?」
桜子さんの発言に初耳だと驚く姉。
「真理ちゃんはBL興味ないと思って言ってなかった、めんごー」
「めんごーじゃないわよ、プロになったのならお祝いしたのに」
あんまり大っぴらに言いにくかったのはBLだからか。
「真理ちゃんはノマカプが主流の乙女ゲームが好きだし、BLは嫌いかもって」
「乙女ゲームにBL持ち込むのはやや苦手だけど、BLそのものは嗜んでるよ、大丈夫」
そうか、姉はBLも嗜んでるんだ……。
そして写真館で受け付けを済ませて、俺は思った。
貴族令嬢のドレスを着る人がいるなら妻の衣装部屋からもう着なさそうなドレス2着くらい借りてくればよかった。
魔法の袋に突っ込んで来てればいいわけだし。ちなみに俺の異世界衣装は魔法の袋に着替えも数着入ってるから、これを着た。
「うわー、高そうな仕立てですね、素人目から見ても」
ペラペラ生地とかではない、本格的ファンタジー衣装を身に纏った俺の姿を見て、桜子さんが驚いてる。
「マジ、本物の公爵か王子様じゃん、パナイ」
「今度があればドレスも持って来ますよ」
「嬉しい! てか、ケントさん、ドレスも持っておられるんですか?」
「つ、妻がわりとドレスとか、好きなので」
嘘ではない。
「えっ、奥さんコスプイヤーだったんですか! めちゃ合わせしたい!」
ミカリン! アレンシアはコスプイヤーではない!! ガチもんの公爵夫人! だが、そう正直に言う訳にはいかん。
「いや、妻は実は今は遠く海外にいまして」
「あー!そうなんですね、残念」
これ以上は深く突っ込まれなくて助かったと思いつつ、俺達はスタジオに入った。そこは西洋風のティールームみたいな部屋だ。
そして桜子さんは西洋風ドレスを着たミカリンを何故か壁際に立たせた。
「さっそくですが、ケントさん、壁ドンお願いしても?」
「壁ドン……はい」
俺は言われるまま、そのポーズをとった。
「あーし初壁ドンだー! ウケる~!! ガチイケメン過ぎて顔やばい」
流石に撮り慣れてるミカリンもケーネストレベルのイケメンを至近距離にして顔が真っ赤なってしまった。乙女っぽく口を手で押さえてる。
「二人とも、素敵よー!」
見学者の姉の声援も飛んできた。
「ホマに最高! 映え! 神ってる!」
桜子さんはテジカメのシャッターをきりまくる。
「次はあちらの窓際に立ってミカリンの腰を引き寄せて……」
「はい」
「ヤバーイ!!」
「二人ともいいよ、いいよ、最高だよー!!」
桜子さんは完全にカメラマンと化してるし、ミカリンは完全に語彙力のないオタクのセリフを言っている。
それから、いくつか絡みポーズを、撮ったあとで、俺のソロの写真となった。
まずはそのままの公爵衣装で何枚か撮ってからさらに撮影を続け、
「はい、次はケントさん、マントや上着を脱いでみましょうか」
「はい」
「いいよいいよー! 最高だよー! 次はシャツも脱いでみよーか!」
「はい」
「わー、腹筋割れてる! かっけー!」
「さすが! シックスパック!!」
このような女性達の賞賛も悪くない。
言われるままに半裸になって撮られていくが、デジカメの画像をたまに確認するとちゃんと撮れてるから問題ない。
ケーネストは被写体がいいから、何しても様になるのだ。




