49話「モンドラの宴で」
雨は、降った。
白き龍神様のおかげで。
「本当にありがとうございます! これより城へお越しください」
今度は城でもてなしてくれるらしい。
水不足で大変な中で、頑張ってくれたんだろうから、断れないな。
◆ ◆ ◆
城に着いたら既に宴の用意はなされていた。
こちらは豪華な織物の絨毯の上に座る方式だ。
モンドラの王と王妃も久しぶりの雨に大変喜んで歓待してくれた。
皿の上には植物の葉が置かれ、その上に料理が乗っていた。
洗い物に必要な水が節約できるようにしているのか、単に見栄えを気にしてるのか、よく分からなかったが、普通に美味しそうだった。
「こちらからも数には限りがありますが、よければどうぞ、お土産の揚げ物料理でポテトボールとビールです」
同行のエカテリーナ王女とうちの護衛とモンドラの王族と宰相の分までは数はギリある。
「中に入れると時が進まぬ魔法の袋に入れてきまして、料理はやや熱いままなので、火傷に気をつけてお食べになってください、ビールはダンジョン産のお酒です」
開き直って日本で仕入れて来た、アルミ缶のビールを取り出した。
「ほぉ、ダンジョン産の飲み物とは」
王はアルミ缶を手にしてしげしげと長めだ。
「しかもお酒ですって」
王妃もアルミ缶に目をパチパチさせながらも、つぐためのゴブレットを使用人に持ってこさせた。
「味はやや苦いので、大人以外が飲んでも美味しくはないでしょう! ここをこうして開けます」
俺はプルトップをつかんでプシュッと開けてみせた。
「あら、すごい仕組み」
王妃がシンプルに驚いた。
「そのまま口をつけて飲めば洗い物もいらず捨てられます。今回はゴミになるので私が回収していきましょう」
こんな異世界でアルミ缶の処理に困るといけないので、回収を申し出たのだが、
「面白い容器なのでひとつくらいは残してもよいだろうか?」
王が缶を欲しがった。ゴミになるんだが。
「洗い物が増えますが、必要ならもちろんどうぞ」
パッケージが気になるのか? 空き缶を欲するとは。まぁ、確かにこちらの人には珍しい見た目だ。
「洗い物の心配までしてくれるなんて、公爵は本当に細やかな気配りをしてくれる方ね」
モンドラの王妃が上品にほほ笑んだ。
「なにしろ渇水で呼ばれましたから……」
「もう雨が降ったので多少は大丈夫だ、いや、しかし、本当にありがたい話だ」
王もポテトボールが冷めるのを待ちつつも、とても喜んでくれた。
「殿下も少し待つか、フーフーしてから食べてください」
料理が熱いからと、俺は思わずエカテリーナ王女に注意をした。
「ふっ、公爵は私のことを小さな子供だと思ってるの?」
「申し訳ありません、つい娘に接するように……」
「クセになっているの? いい父親なのね、公爵は」
「ははは」
王女の突っ込みに苦笑いする俺。
そしてこちらの会話を聞いていたのか、フーフーしてから第一王子のマハドはポテトボールを口に入れた。
「おお! 本当に美味しい! 外はカリッとして、中はモチモチとして、ホクホクで!!」
マハドも絶賛してくれた。
「味が何種かあります、大人の方はお酒のビールもどうぞ」
「格別に合う!」
「母様ぁ……もう食べてしまいました」
モンドラ側の九歳くらいの幼き王女の口にもあったようである。
既に自分の分のポテトボールをペロリと三つ食べた後で、母親の分をも狙ってる視線が見てとれた。
「姫、お行儀が悪いわよ」
王妃が子供をたしなめつつ、困った顔をした。
「王女殿下、よろしければ私の分をどうぞ」
イケオジ宰相が自分の分を王女殿下に差し出した。
「宰相ありがとう!」
王女は宰相の分のポテトボールをまんまとせしめた。大人の分は一人五個は有るので、まだ二つは残っていたのだ……。
そして第一王子はあろうことか、王の皿をガン見している。
「王子よ、わしのはやらんぞ、これは美味すぎるからな」
「わ、分かっております、ちょっと見ていただけですよ。父上」
こうして見るに、かなりアットホームな王室に見えるな。
「あの、少し裏ごしの手間がかかるだけで、茹でたじゃがいもを裏ごしして調味料で味をつけて丸くして油で揚げてるだけですので、材料さえあれば普通にに作れます」
「そうなの、裏ごし?」
裏ごしを知らないモンドラの王妃が首を傾げた。
王妃が料理などするはずもないから、仕方ないか。
「裏ごし器がなければ潰すだけでもよろしいかと、多少食感が変わるだけで、それでも美味しいと思います」
「成る程、今度料理人に作らせてみよう! この冷たくて喉越しのいい酒にも合う……うむ、美味い、美味すぎる!」
王は冷えたビールも大変お気に召したようだ。
ごっくごっくと、喉を鳴らして飲んだ。
素直で微笑ましい。
俺はチーズを入れたポテトボールは最高だなって思いつつ、自分もビールと、モンドラの料理を楽しんだ。
ハーブで料理された何かのお肉が美味しかった。
そして我が国のエカテリーナ王女は五個のポテトボールを全て美味そうにたいらげ、俺のカレー味のボールを眺めて……見つめている。
仕方ない、最後の一個だが、どうぞ。と言って俺は自分の分を差しだした。
「え、そんな本日の功労者から奪うなんて……」
と、言いつつも、嬉しそうな顔をするエカテリーナ。そんな正直で王族が務まるのか?
嬉しさが顔に出まくってるぞ。
「私はいつでも作って食べられますから」
「そこまで言うなら、いただきますわ」
俺のカレー味のポテトボールは王女の口に入った。
「私、この味が一番好きだわ」
カレー味ですね、覚えておきます。
「しかし、揚げ物はカロリーが高い、いえ、太りやすいので食べすぎには注意されてくださいね」
「わ、分かっているわ……」
エカテリーナ王女の笑顔が少し引きつったが一応言っておかないとな。
太りやすいことは重要な情報なので。




