46話「王女殿下からの要請」
それは俺がサロンで茶を飲んでいた時の事だった。
不意にノックの音が響き、俺が入るように促すと執事が手紙を持って来た。
「エカテリーナ王女様から私宛に手紙が?」
「はい」
俺は執事が持ってきた手紙を受け取った。
その手紙には確かに王室の封蝋が使われていて、差出人の名前も王女様だ。
封を開けて見ると、とある国の雨乞いの祭りに招待されていて、同行を頼みたいという内容だった。
王室にも王女にも護衛騎士はいるのに、何故また私なのだろうか。
前回の外交補佐で余程の信頼をされたのかな?
「しかし、何故雨乞いの祭りに王女殿下が?」
俺がそう呟くと、この公爵邸内のサロンでのティータイムに同席していた妻が口を開いた。
「王女殿下は我が国が日照り続きで困っていた時にお生まれになったのですが、その誕生の際に久しぶりに雨が降ったのですよ。おそらくはその噂が他国まで伝わったのでしょう。その招待国はとても雨が少ない地域と思われます」
「モンドラという国からの招待だ」
「ではやはり雨の少ない国ですわ」
「流石の知識だな、よく他国の事や王女殿下の誕生日に雨が降ったなどと知ってるな」
妻から教養を感じたので思わず褒めた。流石公爵夫人だな。
「わが国と交流のある国の事ならアカデミーでも習いますわ。そしてエカテリーナ王女殿下は渇水の時に雨を呼んだ吉兆の王女の誕生だと民が沸き立ったのですよ。そのようなことは社交をよくする貴族の知識としては当然あります」
「……私が覚えてないだけか」
本物のケーネストなら知ってたかもしれない。
でも王女誕生で沸き立ってたのは民だけなのか?
せっかく渇水の時に雨も降って、乾いていた多くの田畑を救ったんだろうに。
──あ、まさか王子ではなかったから王と王妃は地味にガッカリしたとかではないだろうな?
いや、ありうるな。
女性に継承権がない男性優位な世界だし。
「そのようですわね、そもそも夏の終わりの頃には秋産まれの第一王子より先に王女殿下の誕生日パーティーがあります」
「あ、うちはそれに参加するのか?」
「私は参加しますと返事を返しておりますけど、貴方は行けたら行くみたいに言っておりましたよ。
貴方が強敵の魔族との戦いに出かける前の話ですから、生きて戻れたらということだと判断しておりました」
「ああ、なるほど……私が死にかける前の話か」
王族や貴族の大きなパーティーの招待状は通常半年とか何ヶ月も前、早めに来るものだから。
ドレスや衣装の準備などがあるからな。
「そうです」
「でも王女がその国に行ったところで本当に雨が降るとも限らないし、その時はやや気まずい思いをされるだろうな」
「それは仕方ないでしょう、人が天気をどうこうできるはずもないのですから」
「だが相手も藁にも縋る思いで招待するんだろう」
「それでも雨が降らず内心でガッカリしても、表立って不平等を漏らす訳にはいきません」
「それはそうだが、王女様も大変なプレッシャーだろうな」
……そういや日本にいた時に雨雲さえ呼べればその雲に雨の核となる塩を撒けば人工的に雨を降らす事が可能だと何処かで見たような……。
この世界には魔法があるし、風魔法で遠方から雨雲を運んで来るのはどうか……?
──いや、流石に遠距離過ぎると無理かな。
「まぁ……とにかく心細いから私に同行して欲しいと言うのなら、仕方ない、行くか」
「そうですか……行かれるのですね」
「ああ、王族からの指名は断りにくいからな」
「お気をつけて」
「ああ、ありがとう」
そうと決まれば、王室へ同行すると返事を出して、なんか美味しそうなお土産でも作って持って行く準備をするかな。




