44話「お土産と銀食器」
「あっ!」
晩酌の途中で思いだした。
「なんですか? あなた、急に大声で」
「アレンシア、君にお土産があったんだ、ミュール!」
魔法の袋から取り出したのは日本からのお土産の品。
「まぁ……なんて綺麗な靴……」
「オシャレだろ?」
「ええ、どこの工房の靴なのです?」
「えっ、ダンジョン……?」
「何故ダンジョンに婦人用の靴が……?」
「女神のように美しい女性に似合う靴を妖精か何かが作ったんじゃないか?」
口からでまかせである。
「め、女神? 妖精が靴を?」
「あるいは妖精の女王イメージの靴かもなぁ」
「そんな大層なもの、勝手に持って来てもいいのですか?」
「勝手にではない、対価は払ったから……大丈夫だ」
俺はちゃんと店でお金を払ってる。
「対価を……そうですか」
「だから、女神のように美しい女性に似合う靴を作ったとて、本物の女神様には実際は贈れないのだし、私が買ってもいいんだよ」
「つまりダンジョン内に商人がいるのですか?」
妻は俺の言葉を訝しんでるようだ。
やや腑に落ちないといった表情をしている。
「ああ、壁向こうにはいくつもの店がある」
「不思議な……ダンジョンですね」
「ああ」
「あ、贈り物で思いだしたのですが、第一王子殿下への誕生日プレゼントは何にいたしますか? 秋には第一王子殿下の誕生日があります」
原作では第二王子がルシェラを利用し、暗殺させた第一王子の誕生日プレゼントか……。
確か毒を使ったんだったな。
「……銀食器にしよう」
「銀ですか」
「毒殺などされないように、警戒していただきたいから」
銀は毒で変色するらしいから。
「……わかりました」
王族なんだから、特におかしくもないだろう、毒殺警戒なんて。
「ちなみに王女様の物も銀食器でいい、第二王子は……知らん」
俺はあえて冷徹に言い放った。俺が第二王子に少しも好意がないという事を、妻に覚えていてほしいからだ。
俺に万が一、何かあった後、ミルシェラを守れるのは母親の彼女のはず。
まだ娘には婚約者候補もいないから。
「知らん!? あなたは第二王子にだけ冷たいのですね?」
「冷たいと思われてかまわない、間違ってもうちの子に求婚などされたくはないから」
「第二王子もまだお小さいでしょうに、嫌な想い出でもあるのですか?」
「──ああ、あるよ」
俺はわざと含みのある言い方をした。
この、世界線ではまだ起きていないことゆえ、詳しくは話せない。
王国の第一子は王女殿下だが、女性なので王位を継げない。
性格やら、才能の類なら、彼女が継いでも良さそうなのなのだが。
「とにかく、美しい靴をありがとうございます」
「せっかくだから履いて見せてくれないか?」
「い、今ですか?」
「ああ、私が履かせてあげよう」
「え?」
俺はやおら妻の足元に跪いて、その細く美しい足を掴み、やや動揺して赤くなる表情を一瞬だけ盗み見た。
前世の俺が彼女相手にこんな事をすれば「キモッ」とでも言われそうなものであるが、今はイケメンのケーネストボディなので、きっと絵になってるはず。
ちょっとやってみたいシチュだったんだよな、イケメンならばな。
俺はアレンシアが今履いている靴を脱がせ、オシャレで綺麗なミュールに履き替えさせた。
「よし、似合ってる」
「あ、ありがとうございます……ですが、最近のあなたは本当にらしくないことをなさいますのね?」
……まずい。昔のケーネストとかけ離れ過ぎてたか。──てか、せっかくイケメンなんだし、これくらいやっとけよ。いや、この難くせは理不尽だな。
「夫婦は……仲良くしないとミルシェラが不安になるだろう」
「それは……そうでしょうけど」
娘を言い訳に使って、俺は立ち上がり、
「今日の晩酌会はここまでとしよう」と、会話を強制終了させた。




