街へ買い物
エッチベルトを注文しに馬車に乗り、屋敷を出て街に来たはいいが、冷静に考えてみるとあの子はまだ小さいのだし、エロスだのセクシーだのには反応しないのでは!? という、考えに思い至った。
そして馬車から降りてから途方にくれる俺、愚か!!
しかし……馬車から降り立った町並みは西洋系ファンタジー漫画でよく見る感じで雰囲気はよかった。
ふと、本屋が目に入った。
馬車を停留所に待機させて、本屋に行くと御者に伝えた。
そして本屋の店内に入ってみて、店主に聞いてみることにした。
「悪い王子とか王様の出る恋愛系の話の本はあるか? できれば貴族令嬢を騙すような内容」
なんか変な性癖の男だと思われそうだが、こっちの本のことなんて分からないから、聞くのが速いだろう。
「いやー、お客様、王族を悪く書いた恋物語の本など、発禁になってしまいますよー」
「ああ、なるほど……」
そういうものか……。
悪い王子に騙される貴族令嬢の本でもあれば、読み聞かせして刷り込みできるかと思ったが……いっそ世間に公表しない本を俺が自ら書くか?
仕事が忙しいから、ほんとは物書きがしたいのを諦めてたけど……。
いや、別にわざわざ高い金を出して本にしなくても、子供なんだから紙芝居みたいなものの方がとっつきやすくて良いかもしれない。
そうだ、絵本を描こう!
俺は絵もそこそこに描けるからな!
俺は馬車に戻って生き先を変更し、御者に声をかけた。
「画材店へ向かってくれ」
画材通りという所に来た。
芸術家達が通りで自分の描いた絵を売ってる。
そういや、絵だけ画家に頼むって手も有るかなぁ……でもそうすると、王子を悪者に書いている内容がバレる。
いや、金を握らせて、話のことは誰も言うなと口止めを……。
うーん、でも全部自分だけでやると時間がかかるかも。色塗りだけ、頼んでみるとか?
文字は入れずに絵だけなら、そう詳しく内容もわからないかもしれないし。
「お客様、気になる絵がありますか?」
俺はなんとなく目についた一人の画家の路上展示スペースに立ち止まって考え込んでいたので、そこの画家に声をかけられた。
「あー、君の絵のその色使い、とてもいいね」
「ありがとうございます!」
若い画家は嬉しそうに笑った。
誰だって褒められるのは嬉しいもんだよな。
「……もし、君が嫌でなければ、色塗りのバイト、いや、仕事をしてみないか? 内容は他言無用で、ただ一人の為に描く絵本の色塗りだ。有名画家の贋作依頼とかではないから、そこは安心してくれ」
一瞬だけ、彼はきょとんとした顔になったが、すぐに返事をくれた。
「は、はい、私でよければ喜んで!」
画家の格好を見れば服も汚れてみすぼらしいから、金に困ってるんだろう。
他人の絵に色を塗るだけなんて、本来絵描きにはつまらない事だろうしな。
子供であれば、塗り絵などを楽しむ事もあるだろうが。
「そうか、よかった。15日後あたりに、公爵家に来てくれ」
「こ、公爵家!?」
「しっ、声が大きい」
「はっ、申し訳ありません」
「ところで、名前は?」
「リックです」
俺は綺麗な花の絵を一つ手にとって、マジマジと見た。
確かに絵にリックというサインも入っている。
「なるほど、ではリック、この花の絵を買うよ」
「ありがとうございます!!」
「あ、ついでに聞くが、君のおすすめ画材店などはあるかな?」
「あ、あります! よければご案内します!」
リックは嬉しそうに笑った。
そして彼の案内してくれた画材店で買い物を追えた帰りに花売りの少女に会った。
「お花いりませんか? 綺麗なお花です!」
まるでマッ◯売りの少女だ。10歳くらいの少女が
可愛いスズランを小さなブーケにして売っている。
買ってあげないと誰か元締め的なやつに、怒られるのかも知れない。
「二束買おう」
「ありがとうございます!!」
せっかく外に出たし、妻と子へのお土産もあったほうがいいよな。ご機嫌とりだ。
そういう流れで、俺は花束と画材をゲットし、買い物を終えて馬車で帰宅した。
「どこに行かれていたんです?」
何故か仁王立ちになって玄関で待ち構えていた妻。
「画材店に……」
「画材店!? なんでまたそんな所に」
「当然絵を描くからだ。あ、それとこれはお土産」
すっと、スズランのブーケを一つ妻に渡す俺。
「スズラン……」
「可愛いだろう? 薔薇とかの方が好みだったかも知れないが……子供が健気に売っていたのでな」
妻は何故かなんとなく微妙な顔をした後に、
「……まぁ、花に罪は有りませんし、貰って差し上げますわ!」
一応貰ってくれた。良かった。
「あ、そこのメイド、こっちの花束は娘にお土産だと渡しておいてくれ」
俺はそのへんにいるメイドに花束を託す事にした。
「お嬢様へですね、かしこまりました」