39話「健人」
駅ビルのベンチに座った俺はSNSを使い、姉に連絡を入れた。
[姉貴……じゃなかった、島崎さん、ドレスは(ミシンとかないので)間に合わなかったんだけど、食材を持って来た。丸鶏とか豚肉とか。家で食べきれなくても弁当屋に使えるんじゃないかな?]
姉は結婚してるので苗字が八城から島崎に変わってる。
[今どこ?]
[駅ビルのベンチに座ってる]
[そこまでバイクで来た?]
[涼(俺)と違いケーネストは無免許になるから徒歩とバス]
[うちの弟にそのへんの常識があってよかった]
[当たり前だが……事故って捕まったら言い訳ができない]
[車で迎えに行くから待ってて]
これの返事に了解というスタンプを送ると、 姉はしばらくして本当に駅まで車で迎えに来てくれた。
俺は駐車場でこっそりと食材を魔法の袋からクーラーボックスに入れ替えた。
「実はまだ食材あるんだけど」
「一度にそんな沢山はクーラーボックスに入らないわよ」
「ロブスターもあるんだよ」
「マジで!? それならもう、弁当屋のバックヤードまで来てよ」
姉はロブスターで目を輝かせた。
「行ってもいいなら行くよ。でも旦那さんとかに俺のことなんて説明するつもりか聞いていいか?」
「弟……の、友達? はるばるお土産持ってお見舞いに来てくれたって、ことで」
「なるほど。あ、ちょい俺名義のアカウントで通販使うけど、不正利用とかじゃないから、先に言っとく」
疑われてクレカが姉に止められないように。
「何を買うの?」
う、そこを突っ込むか。
「い、色々だけど」
歯切れの悪い俺を見て姉が不審な笑顔を浮かべた。
「あー、Hな本とか?」
やめろ!! 違う!! いや、買いたくなる時もあるだろうけども! 今回は違う!
「つ、妻の、ケーネストの妻の生理用品とか、あると便利かなって、ナ……ナプキンとかほら、通販なら恥ずかしくないし」
「あー、それなら私に言えばいいのに、帰りがけにドラスト寄るから代わりに買ってあげる。てか、彼女にナプキンとか買ってあげたことないの?」
「元カノはストック魔だったからその手の買物はないよ。風邪の時にゼリー飲料とかスポドリとかプリンとかアイスは差し入れしたけど」
「そんなにちゃんと要所で優しくしてても寝取られるんだ……」
「ハイスペには勝てなかったよ、実家も太いんだ、相手の男」
「世知辛い」
そして姉は弁当屋の近くのドラッグストアでナプキンやらタンポンやらを買ってくれた後で嫁ぎ先のお弁当屋のバックヤードに移動した。
そして魔法の袋からこっそりと食材を出して姉に渡した。弁当屋のバックヤードには大きな冷凍庫があるので色々入った。
その時、バックヤードのドアがガラリと開いた。
「あれ? お客さん?」
あっ! 姉の旦那さんがバックヤードに来た!!
「こんにちは! 島崎さん! 奥さんの弟の涼君の親友のケ……健人です!」
俺は健人という偽名をとっさに名乗った。
「え? 日本語めちゃくちゃ上手な外国の方ではなく?」
「外国人に見えるだけのバリバリの日本生まれのクォーター日本人でむしろ日本語しか使えません!」
「そ、そうなんですか、でもなんでバックヤードなんかに?」
「お土産を渡してました! 食べ物なので!」
「あなた! 丸鶏とか豚肉とかロブスターまでいただいたのよ!ロブスターよ!!」
「それはそれは、ありがとうございます! 」
「健人君、お昼ご飯、お弁当の中身と同じでいいなら食べて行ってちょうだい」
「もちろん! しまざき弁当大好きなんで!」
「え、うちの食べたことあるんですか?」
そーいや、ケーネストは店舗まで買いに来てない、涼なら来てるけど!
「あ、はい! たまに涼君にもらって食べてました! 出汁巻き玉子が特に好きです!」
「ああ、うちの出汁巻きね! 人気あるんですよ、嬉しいな」
出汁巻き玉子という具体的な商品名を伝えて信憑性を増したら、旦那さんはニッコニコになった。
ここの弁当屋の出汁巻き玉子は、ほんとに美味いのだ。




