38話「また日本へ」
例の日本行きのゲートのあるダンジョンには警備用の部隊を配置している。
その者たちが見回りをしつつ、魔物の数減らしをしてくれているはずだ。
──そして、俺はまたあそこに行くと護衛達を説得せねばならない。
「私はまたこれから例の壁画のあるダンジョンに行くから、お前達はミルシェラの護衛をして本邸に帰ってくれ」
「しかし公爵様、またお一人で壁向こうへ向かうのは危険では? 我々はあそこを通り抜けられません」
「壁向こうはそう危険なところではないんだよ、なんならここより安全だから」
護衛達は俺がここに二度とは戻ってこれないことを案じてくれてるみたいだ。
「……どうしても行かれますか?」
魔法使いが俺に最終確認をしてくる。日本を知らない者からしたら、確かにこの反応もうなずける。
だが、諦められない。主に食材とかが。
「ああ、妻にもお土産を買ってくると伝えてあるし」
ミュールとか。
「仕方ありませんね」
そして護衛達の説得を終え、俺はまた無事に日本へ戻った。
あいかわらず姉のおかげで俺の日本での家のライフラインは生きてて電気も通ってる。
俺はタブレットの充電を開始してからパソコンを起動し、ひまわり畑と家族の写真を光沢のある紙にプリントアウトした。
「うん、いい感じだ。後は額装だが、ひとまず風呂の後で安価なフォトフレームでもいいから買いに行くか」
しかし、いくらなんでも公爵夫人と令嬢の写真を百円均一のものを使うのは……アレか。
普通にもっとマシなのをデパートか通販で買うかなぁ……あ、駅ビルならなんかいいのがありそう。
シャワーを浴びる為にひとまず着替えの下着を取りに自室へ入ると、見慣れない紙袋がベッドの上にあるのが見えた。
中身は今のケーネストの体に合うサイズの服だった。ジーンズとチノパンとシャツの類。
紙袋に付箋がついていて、それに姉の字で「着替えに使って」と、書いてあった。
我が姉ながら、なんと気が効いていて親切なんだ。流石大学卒業後、さっさと結婚できただけはある。
さっそくシャワーの後に着替えてみたら外国人サイズの服はちゃんと今の肩幅が広く足の長い俺の体にフィットした。
俺もお礼に姉の嫁ぎ先の弁当屋に使える食べ物を届けないとな。まだドレスができてないけど食べ物なら市場で買ってきたからな。
ひとまず出かけるより先に公爵邸や異世界素材の写真をダウンロードサイトに登録して、お金になるのを待つ。
そして自宅に隠しておいた箪笥貯金のことを思い出し、封筒に10万円ほど入れていたのをそのままリュックに入れた。
自宅の敷地内にある駐車場に戻って自分の原付きバイクに乗ろうとしてふと、思い出す。
今の俺、ケーネストにはバイクの免許がないということを。
免許を持ってるのは、病院で意識不明になってる涼の方だった……。
仕方ない、こちらでの移動はチャリとか公共の乗り物を使うしか。
ケーネストの容姿は外国人丸出しのイケメンではあるが、髪色は銀ではなく黒くしていてまだマシというか、良かったと言えよう。
警察にパスポートを確認したいとか言われないといいけど。
実際職務質問を受けたりしたら、クオーターだけどバリバリの日本人だと言い張るしかないよな。
流暢な日本語は使えるから、まぁ、なんとかなるよな。多分……。
ひとまず徒歩でバス停まで行ったが、日本は暑すぎた。
わりと待ってようやくバスに乗れたが、なにげに注目を浴びている。主に女性から。やはりケーネストの顔が良すぎるせいかな?
なんとなく居心地の悪さを感じながら目的地の駅ビル近くのバス停に到着した。
駅ビルに着いてからトイレで汗拭きシートで汗を拭いた。そしてトイレから出てフォトフレームを探すと、なかなかいいのが見つかった。
次に靴屋で妻と子供へのお土産のミュールを購入し、自分のサンダルも購入した。
それから食品売り場に行って試食コーナーで試食までした。新作のヨーグルトとハムはどちらも美味かった。そして目についた美味そうなケーキを購入し、ついでに薬局では風邪薬や鎮痛剤を買った。
妻に生理痛がどのくらいあるか不明だが、苦しんでいたらあげようと思う。
そして問題は生理用品だ、鎮痛剤は買えた。
でもナプキンやタンポンなどは男の俺が買うのは勇気がいる。
妻のためですから!って顔で買えばいいんだよ! 実際その通りなんだし。──でも、頭では分かっていても、やはり日和ってしまった……。
通販……帰って通販しよ。今度来るまでには届いてるだろ。置き配にしとくし。
まあ、生理用品は別に誰にも頼まれてないし、あると絶対に便利なんだろうなって思っただけだから。うん。
おおかたの買物を終えてから、駅ビル内にあるベンチから姉の所にタブレットで連絡を入れた。
今日本に来てて、ドレスはまだだが食材を渡したいと。




