33話 「セオリー」
神殿の祭壇で巫女のゴスペルを聞き、祝福を賜ってから、いざ出陣って流れで、我々一同は森へ向かうこととなった。
そしてそこへは小回りが利くように馬車ではなくて、馬。
一応乗馬はケーネストの身体が覚えてて、なんとかなった。
しかし、道中はやはりゾンビが現れた。
ちなみに俺の今の武器は杖。
だって剣は接近戦で怖いしさ、魔力多いならもう杖でいいじゃんて思うから。
短剣くらいは腰に挿してるけどさ。
カッコつけて無理して志半ばで死ぬくらいなら距離とって戦える魔法使いでいいよ。
ちなみに娘がいるので童貞ではございません。
やった時の記憶はないけども!
「閣下! 前方にアンデッドの群れです!」
俺は一旦馬を止め、杖を前方に構え、脳内に浮かび上がった(力ある言葉)所謂呪文というものを唱える。
「燃え盛れ! 浄化の炎よ! メギドフレア!」
杖の先から放射された炎がアンデッドに一直線に飛び、炸裂し、驚くべきことに20体くらいいたアンデッドが燃え尽きた。
「撃破! 流石です閣下!」
騎士が俺を褒め称えてくれた後に、
「待ってください、公爵様! 炎の槍や炎の玉の魔法しか教えてなかったのに、いつの間に浄化の炎の魔法を!?」
騎士と共に連れて来ていた公爵家の魔法使いが驚愕の表情で叫んだ。
「え? いや、アンデッド相手なら普通の炎ではなく、浄化の炎のが効くと思って」
「効くと思って、ではありませんよ公爵様! 浄化は聖魔法ですよ!? いつの間に使えるようになられたんですか!?」
「は? 私はこの呪文を使えなかったのか? 脳内にふっとこの呪文が浮かんだんだが」
かつて日本で読んでいたファンタジー系のラノベや漫画の影響だったのか、スラッと出てきたぞ?
「私の知る限り、公爵様は聖魔法など今の今まで、使った事はございません!」
ん? なんか、俺、やらかしたか!?
何処ぞのラノベヒーローような疑問が脳裏に浮かぶ。
「あ、えーー、もしかして……ここに来る前に神殿で巫女の歌う祝福のゴスペルを聞いたせいで新しいスキルを神から賜った可能性が?」
などと、それらしい理由を言ってごまかしてみる。
「いきなりそんな事ありますか!? それなら私にもあってもいいはずですのに!? 一緒に歌を聞いてましたよ!」
魔法使いの華麗な突っ込み!
「しかし、実際に今のは聖なる炎の魔法だったではないか」
「ウィード侯爵様……」
魔法使いがウィード侯爵を振り返る。
「そして今、大事なのは森に向かう事であり、公爵が新たに賜った力について議論することではない」
「そ、それはそうですね!」
「申し訳ない、被害がこれ以上拡大する前に、我々は森へ行かねば」
「はい、失礼しました侯爵様! 森へ向かいましょう!」
これには魔法使いも同意するしかない、ぼやぼやしてたらまたアンデッドが現れ、戦う度に俺の魔力が減っていくはずだし。そう、流石にMPは使うと減るんだ。
◆ ◆ ◆
──そしてついに我々は迷いの森へ到着した。
「さて、どうしますか? やみくもに突っ込んでも遭難しますよ」
魔法使いはコンパスを手にしていたが、コンパスは無駄にぐるぐる回っていた。つまり役に絶たない。
「こういうのは、セオリーがあるだろ」
俺はファンタジー系の作品もそこそこから読んで来たから、詳しいぞ。
「セオリーとは?」
ウィード侯爵が問うてくる。
「森の主様! 今から森へ入ります! 結界石の様子を見たいのでよろしくお願いします!」
「!?」
周囲の者達が驚いてる、なんでだ? 俺の対応は普通じゃないのか?
「今から森へ入りますよと、断りを入れるのがマナーであり、セオリーだろ?」
「そ、そうですか? それで森に通じますかね?」
魔法使いがひきつった笑みを見せてくる。
「あっ!」
騎士が前方を見て叫んだ。
「なんです!?」
俺の方を見ていた魔法使いが森の方に向きなおる。
「木々が開けて行きます! 道ができました!」
「そんな事が!?」
またこの状況に驚愕する魔法使いだが、確かに鬱蒼とした木々が不自然に開けたのを目の当たりにして、この俺も驚くし、鳥肌が立った。このいかにもなファンタジー世界よ!
「ほ、ほら、話せば分かるんだよ、多分森の神様とか妖精とか、とにかく、森の主がここを守ってるんだろうから、さ」
「公爵様は実は賢者か聖者なんですか!?」
「そんなはずなかろう。とにかく入るぞ、招かれない者は入れない森だが、これは今、入っていいぞって言われているんだろうし」
「そ、そうですね……」
まだ腑に落ちないって顔をした魔法使いを言いくるめて、俺達は森に入った。
事は急を要するので、謎は後で考えるとしよう。




