料理する公爵
「まず俺が山菜の天ぷらと、キノコのクリーム煮を作って見せるから、覚えて欲しい」
突然山菜を持参し、厨房でそう語る俺に面食らう料理人達。
広い厨房には七人くらいの料理人がいる。
「だ、旦那様が料理を!? 指示してくだされば我々が」
「俺がやった方が早いから心配するな」
「は、はぁ……」
そして戸惑う料理人達をよそに、俺は慣れた手つきで油で山菜をジュージューと揚げていく。
結婚を視野に入れ、節約の為に自炊してたから料理は普通にできるのだ。
しかし、やはり、このジュージューという音! これだけでご馳走感があるし、ワクワクしてくる。
そして充分なオリーブオイルがあってよかった。
豚の脂身しかないですみたいな状態、異世界で貧乏なら有り得たからな。
ここが金持ちの公爵家でよかったぜ!
「ん、さくっと揚がった! 美味そう!」
「旦那様、お部屋か食堂にお運びしましょうか?」
「ありがとう、天気もいいからテラスで食べる事にしよう」
「かしこまりました! そして御礼など滅相もないです! 当然のことですから」
あ、そういやそーゆーものか、公爵だからな。
そして俺はテラスに移動し、天ぷらとキノコのクリーム煮を美味しくいただくことにした。
キノコからは出汁が良く出てるし、香りもある。
天ぷらは塩で……サクッと美味い! そしてクリーム煮にはバゲットも添えて。
最高!!
こっちの公爵も死にかけてたから、しばらく仕事もしなくていいらしいから、のんびりして社畜からの解放を満喫しよう。
「パパ、なにしてるの?」
おっと、愛娘のミルシェラ登場!
「ああ、ミルシェラか。おやつを食べてるんだ。あ、こちらのクリーム煮ならお前も食べられるんじゃないか?」
山菜系は苦味があって子供向きではない。
でもキノコのクリーム煮ならいけそうなので食べさせてみようか。
椅子を引いてやり、まだちいさくて身長が足らない娘を抱えて座らせてやったら、娘はにこりと笑った!
かーわいい! あのツンケンした妻からよくこんな愛らしい子が……いや、あの妻も昔は可愛かった可能性はある。とりま美女ではあるんだし。
「おいちい」
「ふふ、かわいいな」
「えへへ」
このように本日は花のように微笑む愛らしい娘とほのぼのとした時間を過ごした!
いっそ殺伐とした断罪ものからほのぼのスローライフものにでもジャンル変更してやりてえな!
◆ ◆ ◆
娘には兎に角第二王子ルートだけは回避させたい。
ひとまず居住地の散策だ。
せっかく陽気もよい春の日なので、公爵家の庭園を散歩がてら見てみる。
豪華な噴水に華麗な花の咲くガゼボなんかもあって、大変見どころがある。
公爵が死にかけたりしてなければガーデンパーティーとかやっててもおかしくない。
庭を見学していると、鍛錬所からの帰りらしき騎士達の姿を見かけた。筋肉のつき方がかっけーな!
その辺にいる騎士を改めてマジマジと見てみる。
……あれ? うちの騎士、顔のいい男が多いな?
公爵たるこの身もかなりの顔面強者ではあるが、騎士達もイケメン揃いだった。
「もしかして、うちの騎士、顔で選んだか?」
なんとなくそう呟くと、ちょうど庭園に妻が通りかかった。凄いエンカウントの仕方である!
「はあ!? 公爵家ですよ! 実力も兼ねそろえた者に決まってるでしょう!? そもそも使用人の雇用は私の管轄ですけど、騎士は貴方でしょう!? 私が顔で選んだみたいに見ないでくださる!?」
聞き捨てならないとばかりに噛み付いてきた。
「ああ、そうか、俺の仕業か、なかなかいい仕事をした」
そもそも貴族令嬢漫画の世界だ。イケメンだらけでもおかしくない。
さて、騎士の良さをアピールするには……筋肉?
筋肉だな? さて、思い出せ。前世でオタクなお嬢さん方を熱狂させた衣装を!
……あ、あった! 思い出した!
エッチベルトだ!! 胸の上下にベルトついてて胸筋を強調する感じのあれ! セクシーなハーネス系のベルトを身に着けてもらおう! あれは多くの女性的に大変いいものらしいし!(無論例外はある)
「なんですか、あなたのその笑顔!? 何を思いついたんですか!?」
妻が何故か俺の笑顔を見て不審がっている。
別に悪い事は考えてない。ちょっとイケメン騎士にセクシーな服を着てもらうだけだから!
「衣装店に行く! いや、革職人のところがいいのか?」
「は?」
妻がまた訝しんでいる。だが、娘の将来を思う俺は止められない!
「あ、公爵家だし、呼びつければいいのか? いや、やはり直接行く方が早い!」
「あなた!?」
「出かけて来る! 執事! 財布を持て!」
「は、はい!!」
その辺に待機していた執事が慌てて返事をした。