23話 夏の日差しと公爵
すみません、掲載順番を間違えてました…。
今修正の為に何話か消しました。
俺は公爵に食いしん坊属性をつけてしまった。
運動をもすると妻に約束しつつも、テーブルの上の料理に注目する妻にも進めてみた。
「よければ君も座って食べてみないか?」
妻の為に椅子を引いて、誘ってみる俺。
「ママ、これおいちいれしゅよ」
「まったく、ママではなくお母様ですよ、ミルシェラ」
「はい、ごめんなさい、おかーしゃま……」
ちょっと娘がたしなめられてしゅんとしてしまった。かわいそう。
「まあ、まだいいじゃないか、それよりこれを食べるといい」
器によそったバターコーンご飯を妻の前に差し出した。
「……では、いただきます」
静かに味わう妻。
俺にじっと見られては困るだろうから、俺は吹き抜ける風に揺らされた木立ちの葉の方に目を向けた。
陽光に透ける葉は、とても綺麗だ。
「おかーしゃま、おいちいですか?」
「……悪くはありません」
「……完食してるじゃないか、気に入ったんだな、ほら、こちらの焼きナスはどうだ?」
「……悪くはありません」
……感想がさっきと同じだ。ツンデレはこれだから。でもわりといいスピードで完食してるから、おいしかったんだろう。
そしてまだ土鍋に残るバターコーンご飯をじっと見てる。
「おかわりいるか?」
「お、おかわりなどレディはいたしません! はしたない!」
アレンシアは 顔を赤らめて怒った。照れ隠しだな。
「やれやれ、レディとは好物も満足に食べられないとは、難儀なものだな」
「では、これで失礼いたしますわ」
「そうか」
耳まで赤くなった妻を見送った後、俺はミルシェラと夏の庭を少し散歩した。
穏やかな昼下がりに、 美しい白百合が風に揺れていた。
◆ ◆ ◆
そして例の異世界と繋がるダンジョン近くに別邸を建てる為に文官に色々指示を出した後で、夕食の時間まで書類仕事をした。
翌日。
「魔法の特訓ですか?」
執務室に魔法使いを呼び出して相談を試みる。
「ああ、ちょっと記憶に問題があるから、魔法の練習ができる場所を探していてな、どこかいい場所を知らないか?」
「ではせっかくなので実戦で森へ参りましょう」
俺は練習だと言ったのに!?
まさかの実戦!?
「貴重な魔力を無駄にしないよう、森に出る魔獣を狩りましょう」
そんなに魔力って貴重なんだ。
「そうか、なら森へ行くか。どうせならダンジョン近くの別邸を建てる土地の視察もしたいし」
「はい、そういたしましょう」
◆ ◆ ◆
〜 アレンシア視点 〜
夫の配慮にて別荘で匿われつつ、針子の仕事をもらった元子爵令嬢のオレーシャの様子を見に来た私ことアレンシアだった。
「先日の茶会でいただいたお土産の薔薇ジャムよ、パンにでも塗って食べるといいわ。厨房には後で焼きたてパンを持って来るように言ってあるし」
そろそろランチタイムという、時間だった。
清潔だけど簡素な部屋の中で、お仕着せを着た元子爵令嬢は作業の手を止め、優雅な仕草で私に挨拶をした後に礼を述べた。
「まあ、なんて綺麗な赤色でしょう、ありがとうございます、奥様、こんな素敵なものを」
「……先日のミルシェラのドレスに施した刺繍は見事だったわ、そのささやかな褒美よ」
「おそれいります」
オレーシャは嬉しそうに笑った。
ブロンドだった髪は今は地味な茶髪に染められているが、何故か幸せそうに笑う。
平民の身にに落とされたというのに……。
「あなた、こちらの生活には慣れたの? 何か不都合はある?」
「はい、皆様よくして下さいますので、とてもありがたく思ってます。ここの使用人は他と比べて待遇が良いですね」
「そうなの?」
他の屋敷の事はよく分からないわ。
「はい、デザートにフルーツもつきますし」
「それは果樹園の側にある屋敷だから普通ではないの?」
「果樹園があるからと言って、使用人が必ずしもおこぼれを貰えるわけではないようですよ、少なくとも他では」
「誰に聞いた話なの?」
「メイドの仲間です」
「そう」
もうすっかりメイドを仲間と言えてしまうのね。
「今、お茶をお淹れしますね」
「……そうね、せっかく来たのだし」
お茶の用意をしている彼女の姿を見つつも、考えずにいられない。あなたは何故、他にも権力をもった大人も親戚もいるだろうに、わざわざ他人の、私の夫を頼ってきたの?
夫と特別な親交が実は過去にあったりしたの? と、問い詰めたくなる衝動を、私は堪えていた。
「エルシード公爵様は、私にとって、光のような存在です」
茶を淹れ終え、何故かおもむろに夫のことを語り始めたオレーシャ。
「え? 光ですって?」
「はい、暗闇を照らし導いてくれる、優しく温かい光です」
「それでは……まるで神様ね」
「はい、もはや信仰にも似た気持ちなのです。こんな屋根も壁もあり、清潔で美しいところに住まわせていただけて、感謝の念にたえません」
「……」
それは確かに公爵家の別荘ですもの、綺麗で清潔なのは当然のこと。
「ですから、エルシード公爵様とは、奥様が心配なさるような事は、本当に全く何もありませんの」
「べ、別に心配なんかしてないわ」
「そうですか、それは失礼いたしました」
オレーシャは柔らかく微笑んだ。
内心を見透かされたみたい。若くてもずっと人の顔色をうかがって、ずいぶん苦労しながら生きてきたのかもしれない、この娘は。
私はお茶を一杯いただいてから、席を立つ。
「もう行くわ、今度は私のドレスの刺繍を頼んだわよ」
「はい、光栄でございます、奥様」
私は死の淵から生還してから、あからさまに変わった夫に戸惑っていた。
今のあの人は悪い人間ではない、それどころか、お人好し過ぎるところがある。
あそこまで他人に心を砕くような人では無かったのに……。
外に出ると、夏の陽射しがこの身に照り付けてきた。
私には眩しすぎたので、すぐさま白いレースの日傘をさした。
「ああ、本当に眩しいこと……」
まるで、今のあの人みたい。
私は1つため息をついてから、馬車を出すよう、使用人に声をかけた。
「奥様、さっき来られたばかりですのに、もう帰られるのですか?」
「もう、用事は済んだし、私は忙しいの」
「か、かしこまりました!」




