それからの俺と怒る妻
悪役令嬢の父に憑依転生してから、数日経った。
なんとかそりの合わない妻と軽くやり合いつつも、日々を過ごしていると、交流のあった子爵の領地で狩りの誘いが来た。
クサクサしていたので、狩りでもやってみようとでかけてみることにした。
貴族は社交ってやつをするみたいだし。
そしてこのキャラについては何にも思い出せないが、モブ子爵と会った。
俺は既に銀髪を黒髪に染めている。そのことにモブ子爵が無粋に突っ込む事はなかった。今の俺は公爵様だもんな。
白に近い銀髪を髪染めました?
なんて無遠慮に聞くと不興をかうかもだし。
そして子爵が貸してくれた猟銃を持って子爵領の森に入った。
なるほど、そういや猟銃がある世界観だったか。
確か剣や魔法もあったはずだが。まぁ、それは今は置いとくか。今は気分転換を優先する。
そこの森には謎の鳥の泣き声と、すすをやかな風が吹き抜けていた。
足元にはアミガサタケというキノコが生えていた。地球の植生の似ていてほっとした。
このキノコは傘が茶色くて、網のように穴が開いてる。
池には鴨の親子が泳いでいて……のどかだ。
「……」
俺は茂みの後ろから狙いをつけていたが、手にしていた猟銃をおろした。
よく考えたら、射撃訓練もしたことないし、動物を殺した事はない。
蚊くらいなら、夏になれば血を吸いに体に止まってる蚊をよく叩き殺していたが……。
害虫と動物はだいぶ違う。
今の俺は、鴨も撃てない。鴨は多分美味いけど、素人だし、銃は危険だ……。
「エルシード公爵様、どういたしました? 調子が悪いですか?」
子爵が銃を降ろした俺を見て、声をかけてきた。
「子爵よ、よく考えたら、これは動物虐待では?」
「は?」
「いや、なんでもない、獲物は糧になるから厳密には違うな。しかし生き物を殺すのは今日は気分が乗らないから、山菜狩りに変更してもいいだろうか?」
「は、はあ、どうぞお好きに」
困惑する子爵を放置して、きのこやタラの芽やコシアブラを発見し、俺はそれらを布袋に入れて収穫し、土産にすることにした。
しかし、その夜に子爵家に泊まる俺のゲストルームに、子爵令嬢が訪ねてきた。
「君は……こんな夜ふけに一体どうしてここに? よもや自宅で寝ぼけた訳ではないだろうな?」
「ち、父に言われまして、公爵様の夜のお相手をしろと……」
「なんと……」
娘を公爵たる今の俺の愛人にしようと寝室にこさせたのか!
「も、申しわけありません……ベッドに入らせていただいても?」
娘は哀れなほどに涙目であり、震えてる。
「いや、ちょっと待ちなさい、詳しく話を聞こうじゃないか」
プルプル震える娘がかわいそうなので、詳しく理由を聞くと、父親がギャンブル好きで負けがこみ、困窮したそうだ。
愚かな。しかし家族はかわいそうだ。
「このままだと借金のかたに娼館に売られるかもしれないのです!」
そ、そこまでクズな親父!?
「仕方ないな……君の胸元や太ももにキスマークをつけて、仕事をした感を出させてもらおうか。ついでにシャツの襟にもキスマークもつけてくれ」
べ、別にスケベ心で言ってる訳ではないからな! いや、まるでないとは言い切れないが! ちょっとの役得くらいはあってもよいはず!
「そ、それで父を誤魔化せるでしょうか?」
「口裏を合わせ、キスマークをメイドにでも確認させればなんとかなるだろ、あとは金目のものを君にあげよう、借金の返済にあてるといい」
「あ、ありがとうございます!」
そして、俺は生娘の生肌にキスマークをつけた。……ふー、緊張した!
対価としてクラバットとカフスのお高い宝石を子爵令嬢にあげて、処女のまま返してやる。人の屋敷の行くのに大量の現金は持ち歩いてなかったので、宝石だ。
そうして女にだらし無いくそ親父を演じるためにも、おまけにわざわざ自らのシャツにもキスマークをつけて家に帰れば……妻が激怒してしまった。
玄関先で妻が投げたワインボトルをなんとか避けるが、ワインボトルの砕ける激しい音が屋敷に響く。家庭内暴力反対!!
「ま、待て! アレンシア! はなっ、話せば分かる!」
「ええ、ケーネス! 一応言い訳くらいは聞いて差し上げますけどね!?」
妻が顔に青筋立ててキレてる、怖い!
俺は慌ててかくかくしかじかで……と、説明をはじめた。
「……と、いう訳でな、ほら、シャツは洗えばいいと思って」
「取れませんよ! こんなものっ! もう雑巾にしかなりません!」
バシーンバシーンと脱いだ俺のシャツを掴み、床に叩きつける妻。なんの威嚇だよ、止めてくれ。
借金のせいだと事情をちゃんと説明したけど、まだ疑われてる。
「落ち着け、落ち着くんだ、俺は何も後ろ暗い事はしてない」
「そうだわ! 今こそばあやに聞いていたアレを試す時!」
「あれ?」
アレとはなんと……出したアレの濃さで浮気を判定するからなんと、出してみろというのである!
「わ、分かった、好きにしろ……」
「早く出してくださいまし!」
妻はバシーンバシーンとまだキスマークつきのシャツを床に叩き付けて迫ってくる。
「せ、せめて、脱いで、君のその、たわわと言うか、おっぱい、いや、胸とかを見せてくれないか?」
「は!?」
「しかし、なんにもエロいものなしでは……アレは出ない……ぞ?」
オカズをください……。
「め、面倒くさい人ですわね!!」
と、このようにキャンキャン吠える妻だったが、
「じゃあなんだ、メイドにスカートでもめくってもらえばいいのか?」
そしてやはり血相を変える妻。
「なっ!? うちのメイドをなんだと思っているのですか!?」
「じゃあ出してくれよ、胸か下か! どちらか!あるいは両方!」
「……くっ!」
屈辱に耐える表情ではあったが、妻は白くたわわなおっぱいをポロンと曝け出した。柔らかそう……。
しかし、この屈辱に耐える表情、まるでくっころ状態の女騎士みたいだ……。
公爵夫人だけど……。
「そろそろ出そうだから、口を開けてくれ」
「まあ! なんて事を言うのです!? そんな所に口をつけるだなんて、嫌ですけど!?」
「濃さを確かめると自分が言ったんだぞ!?」
「くっ、ではひとまずそこのティーカップにでも出してくださいませ……」
くそ!! もうそのカップは二度と使わないからな!
そして頑張って妻に見守られながら……ティーカップの中に……白濁としたものをだしてみた。
「あ……っ」
「今度はなんだ?」
ウンザリしたまま問いかけるも、カップを眺めたまま、固まる妻。
「よ、よく考えたらこれを飲んだことも無いので、それが濃いのか薄いか多分よくわかりませんわ!」
などと今更のたまうのだ。ふざけんなよ?
「……」
「……ご、誤算でしたわ……こんなに恥ずかしい思いをしたのに……」
「俺の方が恥ずかしかったぞ! 何が哀しくてアレをティーカップなんぞに!」
俺の苦労もなんだったのか? マジで!!
「飲まなくても目視でなんとかならんのか?
執事か騎士に出したばかりのものを募集するか?」
「はあ!?」
「だからな、出したばかりのものと数日禁欲してた濃いのを出させて比べて見れば満足かと聞いてる。使用人や騎士相手でも、金を出せばせ◯しくらいは手に入るかもだろ」
と、提案してみるが、
「あなたったら! そんな下品なもの公爵家で募集できるわけがないでしょう!?」
「しかし、魔法使いは血液の代わりに魔力の混じるアレを集める場合もあるからして……」
これは俺の見てきた漫画やエロゲの知識である。
「もういいですわ!」
と、キレる妻はささっと身なりを整えてから踵をかえし、寝室を出て行った。
「なんなんだよ、せっかく代案を出したのに……」
俺は溜息を吐き、自分のベッドに倒れ込んだ。
そしてふと、狩りの代わりに持って帰ったものを思い出す。テーブルの上に置いてある布の巾着袋。
あれは鮮度を保つ魔法つきの袋だ。
流石のファンタジー世界だ、変わったものがある。
俺は公爵なので貴重な魔道具も所有してるらしい。
あ、お土産の山菜どうしよう。せっかくの収穫。無駄にはしたくない……。
明日シェフに油で揚げてもらおうか。キノコはスープでいいか。
アミガサタケのクリーム煮とタラの芽とコシアブラの天ぷら……! これでいい! 美味そう!!