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外交

「あなた、アッサレド子爵がオレーシャ令嬢を探して、こちらちも魔法の伝書鳥を飛ばして来ましたわよ」


 え!?


「なんでやつは俺、いや、私ではなくアレンシア、君の方に飛ばしたんだ?」

「私が何か知ってると思ったんでしょうね。仮に令嬢を貴方が浮気心をおこして囲ってるという話なら、私が協力して令嬢を返してくれるとふんだとか?」



 ほーん。そういう考えか。

 そして金づるの娘が消えたから、今、血眼になって探してると……。


 令嬢は自分のドレスや宝石を売り払って高価な神殿の転移ゲートの片道分を支払ってこちらに来た。それでエルシード公爵領まで飛んだから、神殿にその記録が残っていたんだろうな。


 

「それで君はなんと答えたんだ?」

「個人的に肩入れして家族に浮気を疑われては困るから家に帰るよう言って帰したらしいですと、貴方の望むとおりに言いましたよ」



 ふー。よかった、正直に話してて。



「けれど、貴方の企みとおりに遺書が届く頃に令嬢の遺体とされるものが我が領地で発見されたら、我々が文句を言われるのでは?」


「そもそも無茶な縁談を持ってきて娘を絶望させた親が悪いと返すさ、むしろこちらで勝手に死なれて迷惑だと言ってもいいくらいだろう」

「わかりました」


「ところで君はパーティーや茶会に出て、ちゃんと社交をしてるようだし、噂話程度でよいのだが、アッサレド子爵について何か知ってるなら教えてほしい」


「夫人達にも伝わっている噂ですと、事業が下手で資金繰りに困ってるのにカジノで稼ごうとして失敗したとか聴きましたわね」

「なるほどな……」



 それから数日後、我が公爵領のとある林の中にある、猟師が休憩用に使う小屋で火事騒ぎが起きた。


 焼け跡では女性の焼死体が見つかり、さらにアッサレド子爵の元とこちらにもオレーシャの書いた遺書が届いた。

 

 こちらに届いた遺書には遺髪はないが、片道分の転移ゲート代金しか工面できず、勝手にエルシード領地内の小屋で火をつけて死ぬ事についての謝罪も書いてあり、遺書はエルシード公爵領にある郵便ポストから出されていた。


 そしてやはり子爵から、なんで引き止めておいてくれなかったのか、という苦情の魔法通信が魔法の鳥ごしに来たが、妻と話したとおりに答えてやった。


「そもそも非道な縁談を持ってきて娘を絶望させたあなたが悪いのでは? こちらは領地で勝手に死なれた被害者ですよ? 猟師小屋が燃え、林で火事騒ぎを起こされたんですが? 賠償を求めてもいいくらいのはずです」


 と、返した。


「ぐ……も、申し訳おりません」


 魔法の伝書鳥のくちばしからそのような謝罪の言葉が聞こえた。


 魔法の伝書鳥には、直接言葉を届けるタイプと、手紙を届けるタイプの2種あるのだが、こちらは直接言葉を届けるタイプを使用していた。


 反論の余地がなかったと見えるので、これで今回の会話は終了した。



 ちなみに子爵令嬢には予定通り領地の別荘に行ってもらってる。


 そして針子の仕事としてミルシェラのドレスの刺繍入れを頼んだら、素晴らしい出来だったので、妻も彼女を気に入ったらしい。


 よかった。



 ◆ ◆ ◆


 春が終わり、完全に夏になって貴族会議に招集された。


 仕方ないから会議の為に王城に行ったら、何故か外国からの貴賓の相手を俺がすることになってしまった。


 経緯は……、


「本日の議題は、外国の貴賓、サンドーラ王国の王子殿下をお迎えするにあたって、外交をまかされたエカテリーナ王女殿下のサポートをする方を上位貴族から選出するというものです」


「やはり大切な外交補佐と言えば、我が国を代表する高貴な身分であるエルシード公爵様が相応しいでしょう、ねぇ、みなさま?」



 は? なんかよく知らんモブ貴族が勝手な事をいい出した。

 俺が倒れた後に記憶が欠落してるって噂は聞いてなかったのか? 都合よく忘れたか?

 そしてなんか悪い笑みを浮かべてるやつがちらほらいる。



「そうですね、我が国最強の魔力持ちのエルシード公爵様なれば、我が国の威光も示せます」

「は?」


 我が国って2回も言ってんなよ!

 そして勝手な事を言うなよ!



「では、慣例通り、多数決で決めます」



 待て! と、心の中で叫ぶも、当然届かない。



「では、賛成が圧倒的に多いので、エルシード公爵がサンドーラ外交係に決定いたしました」



 ふざけやがって!

 さては女性に爵位継がせるうんぬん発言の腹いせだな!

 可決もしてないのに、恥をかかせたいって魂胆だな!?


 貴族共の仕返しは陰湿だな!

 俺の外交失敗したら、国の名誉やこれからの国家間の関係にもヒビが入り損失のでる可能性があるのに、そんなに俺の失敗が見たい訳か!?



 ◆ ◆ ◆



 そして来た、外交パーティーの日。


 俺は念の為に、早めに王城に来た。

 エカテリーナ王女のサポートとはいえ、パーティーのパートナーはもちろん妻だ。

 妻が貴賓室で休んでる隙に、俺は使節団が入ってくる表門の方を監視する。



 使節団の行列が王城の窓から見えた。



 あ、あの人達知ってる! 原作読んでたから知ってる!

 砂漠の国の人だ! 衣装もそれ系でターバンも巻いてるし、褐色肌でセクシーだったから、覚えてる。



 何が好きで何が無礼に当たるか俺には分かる!

 分かるぞ!


 彼等はこれから王城で休憩して身仕度を整える。パーティー会場に入る前にチェックだ!


 料理の好みは肉とフルーツ!

 だから魚ではなく、肉とフルーツをすすめる!

 並べられたお土産の中に彼等が不吉とするものがあれば、さっとどけるぞ!


 あ、土産物ゾーンに火の精霊のタペストリーがある! 



「これは下げろ! 代わりに水と植物の精霊のタペストリーを飾れ!」



 俺は会場内にいる執事に命令する。



「は、はい!」

「魚料理を下げて肉とフルーツをメインに!」

「は、はい!」



 ビュッフェ形式で選べるように並べてあるとはいえ、不安要素を外す!


 なるべく好みのものをおすすめする。



「あら、エルシード公爵、張り切っているのね、頼もしいいわ」

「は、はい、王女殿下、微力ながらサポートいたします」



 ◆ ◆ ◆


 エキゾチックな魅力のある王子と王女の接待がはじまった。

 王女殿下は外国語が出来るから、俺は王女殿下にそっと耳打ちすればいい。



「こちらの水瓶など、水の精霊の好む植物が描かれておりますので、おすすめです」

「分かったわ」



「おお、素晴らしいですね」


「こちらの黄金のアクセサリーもお似合いだとおすすめしてください」


 俺の耳打ちに王女殿下はこくりと頷く。

 彼等は黄金が好きだ。



「王女様は我々の好みをよくご存知なのですね」



 彼等は砂漠の国の人で、オアシスを大切にしてて、水の精霊を信仰している。原作に出ていた。



「うふふ、ありがとう存じます」



 俺は漫画を読んでただけだが、原作知識が王女の役に立ってよかった。

 そしてなにやら悔しそうにしてる男性貴族がちらほらいた。俺が失敗するのを期待してたんだな。

 そうはいかんぞ。

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― 新着の感想 ―
ここで、前世の記憶が活きましたね。まぁ、普通は読まれない少女物ですけど(笑)これぞ、オタク冥利に尽きますぞ。外交では、まさに情報戦ですからね。この手の忍びはおらんのかな、ちょっと裏庭にでて、「半蔵!」…
そして近付く王女との距離と夫人の冷たい瞳 密やかに広がる駆け込み公爵の噂(女性陣のみ) ・・・公爵もだけどもしかして貴族たちは王女も貶めたかったのでは?
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