大根の葉っぱとぶどうの葉っぱ
俺が視察から戻って厨房に行ったら、なんとキハダマグロがあるではないか! サイズは1メートルくらいある!
「マグロ!! キハダマグロがある! これはどうしたんだ?」
厨房にて、キハダマグロをせっせと捌いていた料理人に訊いてみた。
「出入りの業者が買い取って欲しいと来たのです、新鮮で大きいのがあるので是非にと」
「でかした!」
「ありがとうございます」
流石公爵家! 1メートル超えのものでも仕入れてくれた!
「じゃあ俺は厨房の片隅で作業するから、お前達はキハダマグロを捌いて、後で身を分けてくれ」
「それはもちろん、しかし全部任せてくださっても構わないのですが」
何故公爵が自ら料理を!? と、いまだ解せないようだ。
「誰か一人俺について、手順やレシピを覚えてくれ、頼める作業は頼むからそのつもりで」
「では、記憶力のよい若いのを一人、マーク、お前やれ」
マークという若い男が料理長に指名された。
18歳くらいか?
「は! はい!」
そして俺は厨房の片隅を借り、さっそく大根、えーと、アズマホワイトラディッシュ? を調理することにした。キハダマグロは料理人に解体してもらうから。
そして醤油がないからコンソメ……いや、鶏ガラスープを使うことにする。
「まず、大根の葉の炒め物のために、大根を洗い、大根の葉を細かく刻む」
「洗う作業は私が!」
「そ、そうか、じゃあ任せた、鶏ガラスープはとってあるか?」
「はい! 用意しております!」
マグロの身をほぐしてツナ缶のあれみたいにして食うか。ぜいたくだな。
それとごま油……は、奇跡的にあったので、ほぐしたマグロに鶏ガラスープを投入し、大根の葉をごま油で炒めた。
あとはキハダマグロのイタリアンカルパッチョ。
「岩塩、おろしニンニク、酒、粗挽き胡椒、レタス、オリーブオイルを使うから用意してくれ」
「はい! かしこました! こちらをどうぞ!」
「よし」
オリーブオイルや粉チーズでアレンジをしたイタリア風カルパッチョと言ってもこの世界にはイタリアはないから、今回はただ粉チーズをかけたカルパッチョとする。
料理人にレシピを説明しよう。
「オリーブオイル、リンゴ酢、塩少々、にんにく、こしょうを混ぜる。マグロを一口サイズくらいに薄く切ってレタスを敷き、お皿に盛りオリーブオイルをかけ、粉チーズ・ピンクペッパーもふりかける」
「はい!」
「あとはぶどうの葉を丁寧に洗って、沸騰した塩水に漬け、殺菌する。葉は10枚くらい重ねて置き、これを複数並べてくれ」
「はい!」
「ちなみにこちらの料理名はドルマだ。意味は詰めたもの。材料はピーマン、トマト、ナス、キャベツ、ズッキーニ、タマネギ、卵、レモン等」
中身の見た目は餃子のタネに似てる。
「はい!」
「この肉タネをぶどうの葉で包む」
「はい!」
ヘルプの料理人と三人くらいで作業を進めた。
「そして、鍋の下に何も包んでいないぶどうの葉を敷き詰め、その上に肉タネを包んだドルマをみっしり敷き詰める」
「はい!」
「そしてスライスしたトマトを上に重ねてオリーブオイルとレモン汁と砂糖を混ぜ合わせたものを回しかけ、半分に切ったにんにくもひたひたになるくらいの水を加る」
「はい!」
「そして中身が動かないように落としぶたをし、あ、その平皿をふせて置くでいい」
「はい! 平皿をふせて置く……と」
「弱火で約1時間ぐらい煮込む、途中で水がなくなってたら足す」
「はい」
「そしてエッグレモンソースを作る。ボウルに卵黄を入れてレモン汁大さじ2くらいを少しずつ加えならがかき混ぜる」
「はい」
「煮立ってない湯で5分から7分湯せんし、らとろみをつけ、塩、ホワイトペッパーで味を整える」
「はい」
「最後に出来上がったドルマを皿に盛り付け、エッグレモンソースをかける、これは冷めてても温かくてもどちらでもいい」
「はい!」
そして出来上がった料理を厨房に運んでもらい、娘と二人でランチタイム。
料理を美味しく食べていると、用事を済ませて戻って来た妻が合流し、ダイコンの葉のツナ炒めを食べてる俺に注目した。
「なんです? その葉っぱは」
妻はダイコンの葉を指さした。
「ダイコンの、いや、アズマホワイト・ラディッシュの葉だ」
「それは白いくて太い根っこを食べるものでしょう?」
「通常はそうだが、葉っぱも食べられるんだ」
ダイコンの葉の炒め物はわりと庶民に人気があるぞ!
「そんなものをミルシェラにまで食べさせて、貧乏ったらしい令嬢だと思われたらどうしますの!」
「万が一、我が家門が没落した時に色んな食物の知識があれば助かるだろう」
「歴史と名誉あるエルシード公爵家が没落なんて縁起でもない! ……はっ! まさかあなた没落するような悪さでもしているんですか!?」
いかん、変な風に誤解され、飛び火した!
「してない! してないが、悪い人間はいてな、他人にいわれなき罪をおっかぶせることがあるんだ!」
「そうならないよう、なるべく敵を作らないようにあなたは女性に爵位を継がせるなんて言って、多くの男性貴族を敵に回すような真似はしないほうがいいのでは?」
「それでは女性の地位が低いままで金と権力しか興味ないクズ親がいれば娘は10代なのに50過ぎのオジサンに嫁がせるような酷い扱いがなくならんし、政略結婚の道具、金儲けの道具にされて人知れず泣いた貴族女性は多いと思うが」
そのオレのセリフを訊いてから、妻はなにやら辛そうな顔をした。一瞬だけ。
「……まったく、ああ言えばこういう人ですね」
「それはお互いさまだろう」
「パパ、ママ、ケンカ?」
しまった! またこんな場面に! ミルシェラが悲しそうな顔に!!
「ケンカはしてない! ただの意見のぶつけあいだ!」
「そ、そうです、別にケンカというほどのものではありません」
妻もなんとか娘の前なので、取り繕おうとしてくれた。




