119話「アレンシアと涼」
~ アレンシア ~
────ケーネスト……ただ、あなたと一瞬に町を歩いたり……花や緑の中を歩いたり、食事をしたり、そんな事で、そんなことが鮮やかで美しくて楽しいって…何故世界に色を与えてくれたのかがあなたなのに……
「あなたは何故、目を閉じて眠ったままなの?」
「アレンシア様、そろそろお休みになってください、公爵様のお世話はわたし共がいたします」
侍女がろくに休まない私を見かねて声をかけてきました。
「ケーネストは眠ったままで水も何も摂れてないから、布に水を吸わせて唇だけでも湿らせているのだけど……」
「アレンシア様、それも代わりにやっておきますので」
「そう、それじゃあ、少しお願いね……ところでミルシェラは神殿から帰って来た?」
「いいえ、坊ちゃまは寝室のベッドでお休みですが、お嬢様はまだ神殿から戻りっておりません」
「随分時間をかけて頑張って祈ってくれてるのかしら……」
「そうかもしれませんね、ミルシェラお嬢様はお優しいので」
◆ ◆ ◆
~ 主人公視点 ~
誰が、泣いてる気がする……一体誰が……?
「涼! 涼ったら!」
「……え?」
「どうしたの、ぼーっとして」
八城涼。それが自分の名前だ。なのに、何故かとでも久しぶりに呼ばれた気がした。
「ああ、綾華か。誰かが……泣いてる気がしてさ……」
「なに? 急にホラーみたいな事を言わないでよ。泣き声なんてなにも聞こえないわ」
「そう……だよな」
「それより日曜日は前から言ってたグランピングよ! 用意はできてる? まぁ、キャンプよりいろいろ揃ってるから、そこまで物はいらないけど、着替えとか」
「ああ、大丈夫」
「海が見えるから、ロケーション最高なんだって友達も言ってたし、とても楽しみ!」
「ああ、海か、いいね」
「チャペルも近くにあるから、ちょっと覗いてみましょうよ」
「それは……海辺のチャペルなんてロマンチックだな」
「ふふ、結婚式場としても人気なんだって」
綾華がとても弾んだ様子で話す。
嬉しいはずなのに、なぞの焦燥感が込み上げる。
この感覚はいったいなんなんだろう。
「なんか……喉が渇いた気がする、何か飲むか? コンビニ行って何か買ってくるよ」
「じゃあ私も、一緒に行く」
「そうか」
俺は自然に手を出した。
すると彼女がそっと俺の手を握ってきた。
「? エスコートは手のひらの上に手を乗せるんじゃないのか?」
「はぁ? あはは! どこの貴族マンガのキャラクターよ、ここ日本だからね! 涼ったら、寝ぼけてるの?」
「あ、ああ、そうだったな、寝ぼけてるみたいだ」
彼女と繋いだ手に違和感を感じながら、俺は不思議に思っていた。
グランピングは楽しかった。
海の側で本当に気色がよかった。
「ねぇ、キャンプの管理人さんに聞いたんだけど、近場のお店でね、三千円で真珠の掴み取りがあるんだって! あなたのほうが手が大きいからやってよ」
「すごいな、豪勢だ。キュウリ詰め放題より燃えるかもしれん、やるよ」
「あとで一点のみ、アクセサリーに加工もしてくれるらしいわ」
「自分で掴んだ真珠を……アクセサリーに……」
……時おり、何かを思い出しかける。
でも、頭にモヤがかかったように、上手く思い出せない。
◆ ◆ ◆
彼女と真珠のつかみ取りを楽しんだ。
「すごーい! 沢山取れたわね!」
「綾華はこれをどんなアクセサリーにするんだ?」
不意に真珠飾りのついたブローチが脳裏に浮かんだ。でも、それは一瞬で消えた。
「んー、イヤリングかな」
「そうか、イヤリングな」
そのあと、白い真珠は彼女の耳を飾るイヤリングに加工してもらった。
そして、その後で彼女と一緒にチャペルに来た。
海辺にある白いチャペルは最高に見栄えがする。
潮風が頬を撫でていき、とても爽やかだ。
「ねーー、私結婚式ここでしたいかも」
「……そうか、それもいいかもな、でも、お前は本当に俺でいいのか?」
なんでそんな事を口走ったのか、自分でも分からない。
「は?」
「もっとハイスペックな男の方が良かったりしないか?」
「私がスペックで選ぶ女だって?」
「違うのか?」
謎の暗い感情が湧き上がる。
「あなたも、なかなか高性能でしょ?」
「そうだっけ?」
「真珠沢山掴んでくれたし」
「そんなことで」
オレは思わず苦笑した。なんでこんなマジレスしてんだ? 俺は。
「あはは、他の人と比べても仕方ないでしょ、あなたにはあなたの良さがあるから」
「……そう……なのか」
────何故、俺はこの今の幸せに浸りきれないのだろうか。
ボタンをかけ違えたような、この違和感はなんなんだろう?




