109話「スタンピード」
バザーの後でアレンシアとの約束通り衣装店に来た。
当家の二人のレディは新しいドレスの為の採寸をしている。
俺は女性だらけの衣装店の中で待機する人の為のソファに座って、まだ子供である原作の片目メカクレのメインヒーローの事を考えた……その後で次に聖女の事を考えた。
聖女は主人公だし、原作通りなら明るくて優しくて元気なかわいい子のはずだ。
ただ、俺のような存在になってないとも限らない。
顔を合わせることがあれば慎重に性格を見定めよう。
などど、つらつら考えごとをしていたら、アレンシアとミルシェラが戻って来た。
「採寸は終わりましたわ、次は貴方の番なので紳士服の店に参りましょう」
「私は別に」
今あるので十分だ。クローゼットに色々ある。
「いけません、あなたは公爵なのですよ。品位を大事になさってください。毎回同じ服を着てお呼ばれしたパーティーへ行くつもりですか? 外せない式典も度々有るでしょうし」
まぁ、それはそうだろうな。
「分かったよ、でもその間、君達は暇だろうから、流行りのカフェなどで時間を潰していてもいいぞ」
「私が貴方の服をみたてるので、同行します」
アレンシアはキリッとした顔できっぱりと言った。
妻は服などを見立てるのが好きなのかもしれない。
「私も久しぶりに会えたお父様と一緒にいたいので、店の中で大人しくしています」
ミルシェラは花のような笑顔で言う。
一瞬にいたいだなんて、なんてかわいい事を言ってくれるんだ。
素直で優しい子に育ってくれて俺は嬉しい。
そして……まだ小さい俺の息子の方も……どんな人間になるだろうか。
まだ外に出すには早いと思って屋敷で乳母やメイド達にみてもらってお留守番なんだが、帰宅したら、普通の公爵はしないだろうが父親としておしめを替えたり、お風呂に入れたり、大事なお世話をしつつ、可愛いがってあげよう。
実は既に度々やってはいるが、いつも周りの使用人達が慌てて止めにくるのを体調管理を兼ねているなどど言って強行してる。
「ありがとう、じゃあ紳士服の店に行くか」
そう言って店を出た矢先、魔法の伝書鳥がふわりと空中から現れた。
『偉大なるエルシード公爵に魔獣退治の救援をお願い致します、何卒我が領地の危機をお救いください、スタンピードが起きました』
内容は魔獣退治の支援要請だった。
しかもスタンピードだと。緊急案件だ。
困ったな、最近平和ボケしてたところな上に本来のケーネストと違って攻撃には特化して無いんだよな、俺は。
多少は魔法も覚えたし、バリア……結界は使えたから支援系とかでも多少は役にたてるか……。
と言っても、見捨てる訳にもいかない。
「他領からの緊急支援要請だ。すまないが私の衣装はアレンシアにお願いするよ、別にサイズに変化はないと思う」
「仕方がありませんわね、お気をつけて」
「お父様、無事にお戻りを……」
「ああ、行ってくるよ」
「お父様、危なくなったら逃げてもいいですよ! 命を大事にしてください」
「ありがとう」
でも逃げたら一番死にやすいのは戦う力の無い一般人なんだよな。
今の自分でやれるだけやってみるしかない。
そして俺はアレンシアとミルシェラは護衛騎士達に任せて、支援要請先に行くために神殿に向かった。
神殿に着くと、人が沢山いてざわざわしている。
緊急支援要請を受けた傭兵や騎士達が転移ゲートに向かう為にかなりの数が集まったようだ。
本来武器を持ち込めない神殿敷地内ではあったが、ゲートのある場所にのみ今回は一時的に許されたんだな。
いつもの神殿と違って物々しい雰囲気だ。
流石スタンピードは違うな。
──そして……そこで会ったのは、あの原作ヒーローだ。
彼が俺を見つけて歩み寄って来た。
「エルシード公爵様、救援要請で転移ゲートを使われるのですよね」
「はい」
「敬語はいいですよ、子供ですし、ただの神官見習いなので」
しかしただの子供ではない。
「ああ、流石にスタンピードだけあって戦士達が多いな」
「ご武運を御祈りさせて下さい」
「え?」
驚く俺は一瞬固まったが、彼はそれを意に介さず手にしていた魔法石付きの杖をかざし、俺に『祝福あれ!』と、唱えた。
なんと神官ヒーローの祈祷を受けてしまった。
これはありがたい。
「そなたに感謝を」
やや芝居めいてはいるが俺は威厳のある雰囲気でお礼を言ってみせたら、彼は微笑んでから頭を下げた。
そして他の神官に呼ばれてどこかに走って行った。
「エルシード公爵様、お先にどうぞ」
大人の神官が俺に声をかけてきた。権力者はゲートを使うにも優先されるらしい。なので気を引き締めてから、公爵家の騎士達と共に転移ゲートに向かった。




