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105話「番外編 秋の休日」

 話は少し遡る。

 去年の秋。


 そう、俺達は家族で別邸近くに作った巨大農園に来た。


これは昔動画で見た海外の巨大農園を参考に、もともとあった畑やりんご農園を利用して巨大農園にした土地に来ているわけだ。


 ちなみに一番小さい赤ちゃんの息子だけまだ免疫力も低そうなので乳母やメイドに任せて屋敷にいてもらってる。


 俺達は車輪のついた手押しの農具を借りて、最初にキャベツ畑に来た。


 自然も満喫できるし、楽しそうだなと思ったから作った。


 本来はあまり自然と触れ合えない現代地球人とかの方が喜ぶシステムかもしれないが、日本じゃ莫大な資金がいるだろうから、金持ちの道楽みたいなことを異世界でやってる。



「わー! 大きなキャベツが沢山!」



 娘のミルシェラが地植えのキャベツ畑を見てはしゃいだ声をあげた。



「立派なサイズだな、キャベツのうまタレで永遠に食える気がするから、収穫していこう」



 次にりんご農園ゾーンに足を踏み入れた。自分で選んで採れる。沢山実ってるので選びがいがある。



「あれ、赤くて艶があって美味しそうだわ」


 アレンシアが赤く実ったりんごを指差した。


「気に入ったのを好きなだけもげばいい、後にある精算所で支払うから」


 俺は手押し車を置いて、アレンシアに手袋を手渡した。


「あなた、りんごの収穫にハサミはいらないんですか?」

「いらない、ひねるだけで簡単に採れる」


 自分でりんごなど収穫したことのない公爵夫人たるアレンシアはやや戸惑っているが、意を決して背伸びして目当てのりんごを収穫した。



「りんごは3ヶ月位は保つんですよね」


 ミルシェラが俺に問いかける。


「ああ、だから箱いっぱいに詰めていいぞ」

「美味しいアップルパイが食べたいので頑張ります」


 ミルシェラはやる気に満ちた顔で白いシャツブラウスの袖をまくった。妻のコーデはブラウスとスカートではあるが、娘にはサスペンダーで吊ったズボンを履かせてる。汚れてもいい格好だ。


「ああ、アップルパイな、いいよな」



 沢山収穫したりんごを乗せた農具を押して、てくてく歩く。



 次に長いネギのゾーンが見えてきた。

 深ネギって言うんだっけか?

 鍋にも入れられるし、焼き鳥のネギマにも使えるやつだ。



「おおー! 首に巻けそうに長いな、立派だ」

「これ白い部分だけではなく、緑色の部分も食べるんですよね」


 ミルシェラがまた俺に声をかける。

 野菜の事を妻に聞いてもわからないから、自然にそうなる。


「ああ、もちろん、臭み消しにも使えるし料理の彩りにも」


 ミルシェラは半分聴き終わるあたりで畑に向かい、ネギを掴んで……引っこ抜いた。



「簡単に引っこ抜けました!」

「土がいいんだろうな、知らんけど」



 最後に知らんけど。をつけておけば実は違ってても、なんとかなる。だって実はよく分かってないから。(こんなクソみたいな会話も一興だ)

 深ネギも10本くらい取っていく。


 次はかぼちゃゾーンに到着。

 

「わあ! 立派なカボチャが沢山あります!」

「煮ても美味いし、天ぷらも美味いから頑張って収穫しよう」


「はい! お父様! ……にしてもこのは本当の広いですね!」

「ああ、広大なのでな……ん、流石にカボチャは重量があるな、食べ応えがありそうだ」


ミルシェラがハサミで茎の部分を切ったカボチャをセッセと荷車に積む俺。


「あなた、ここは広すぎますわ、老人や貴婦人なら行き倒れるのでは? 乗り物が欲しいほどです」


 9歳のミルシェラはまだ元気いっぱいだが、アレンシアが早速くじけてきた。

 普段そんなにたくさんは歩かないからだろう。


 ふと見ると、近くにロバを連れた農夫がいた。

 交渉すればロバのレンタルができるかもしれない。



「ではアレンシアの為にそこのロバを借りるか」

「ロバですって?」


 カッコ悪いと言いたげな目で俺を見るアレンシア。


「その辺にかっこいい白馬はいないから、ロバで我慢してくれ」



 農園内は馬での乗り入れは許可してなかったので、徒歩移動していたんだ、仕方ない。

 俺はロバをレンタルして妻をその背に乗せた。



「アレンシア、童話のお姫様のようでなかなかいいと思うぞ」

「そんな慰めはいりませんわ」



 アレンシアをロバに乗せててくてく移動。

 秋晴れの空、そして壮大な農園の中で風に吹かれてとても清々しい気分だ。


 ついに花畑ゾーンに着いた。



「あっ! お母様! ついにお花ゾーンに来ましたよ! とても綺麗です!」



 ここのは赤や黄色の綺麗な花がたくさん咲いている。



「お花好きにはパラダイスだろう、好きなの選んで持っていける」

「はぁ、疲れる前に辿りつきたかったですわ……」

「でも君は途中からロバの背に乗ってたろ」


「貴婦人がそんなに徒歩移動するわけないでしょう、疲れて当然です」

「はいはい」

「はいは一回でいいんですよ、あなた」

「はい」



 しばらくお花ゾーンで好きな花を選んでハサミでチョキンチョキンさせる。


 精算所には道の駅のように地植えで見つけられなかった野菜もあ置いてある。



「おっと、ここにはなんと白菜がある!」



 冬より前に美味しい鍋野菜が!! この農園を作った俺も知らない野菜まで取り寄せてあるではないか!

 管理者、グッジョブ過ぎるから、後で金一封をあげよう!


 それと使う頻度の高い玉ねぎ、にんじん、ニンニクも多めに買っておこう。

 ほくほくとした気分で新鮮な野菜や果物を選んでいく。



「これも買いますか? というか、お父様までお金を払う必要があるんですか?」


 この農園のオーナーなのに支払うのはおかしいかもしれないが、ここはお手本みたいに払っておきたい。



「今回は何気にお忍びなので金は払うし、この野菜で鍋ができるから買う」

「わかりました」

「ミルシェラ、せっかくだからお金の払い方をここで学びなさい」

「はい!」



 ミルシェラにお金を渡して見守りながら精算を任せる。


 会計係がミルシェラを見て、あれ?って顔をして、背後の保護者である俺の顔を見た。

 そして俺達が何者か気がついた様子で、戸惑っている。


 俺は口元に人差し指をあて、シーッのポーズをとる。



「!!」



 俺はニコリと笑って頷いてからレジを指差し、そのまま会計しろと促した。


 会計係もこくこくと頷いてジェスチャーは成功した。


 ミルシェラには安全にお買い物体験もさせられたし、楽しい休日だった。


 帰ったら美味しい鍋を作ろう。そしておやつはアップルパイだ。

 今からわくわくするなぁ。




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― 新着の感想 ―
仄々回でしたね。お忍びというのも、いいです。変にかしこまらず、ミルシェラちゃんの教育も兼ねて、、
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