101話「ミルシェラの学園生活と日本」
〜 ミルシェラ視点 〜
何でしょうか?
朝から教室が騒がしく落ち着かない様子で、生徒達が何か噂話をしています。
「皆、落ち着かない様子ですが、何かあったんでしょうか?」
私は思い切って隣の席の侯爵令嬢に訊いてみました。
「入学して十日間は我々がまだ学園生活に慣れてなくて緊張するだろうという配慮で、特別室で授業をお受けになっていた王子殿下二人が今日から私達貴族と同じ教室に来られるのですわ」
!!
「お、王子殿下……お二人が、そうですか」
早速学園から逃げ出したくなってきました。
「そもそも成績別に分かれているはずなのに、成績上位組のこのクラスに王子殿下がおられないのが不思議だったので先生に聞いたらそういう事でしたの」
そして教室のドアが開く音がしたと思ったら、王子殿下二人が先生に続いて入って来られました。
「今日から王子殿下もこのクラスで授業を受けられます。皆様、よろしくお願いしますね」
「よろしく」
第一王子のよろしくという声が響くと、女生徒のきゃ~〜っ!! という黄色い声が上がります。
私は恐る恐る一瞬だけ顔を上げてチラリと第二王子の方もお顔を盗み見ましたしたが、よろしくの言葉のかわりに無言で口元に笑みを浮かべているだけでした。
十歳にしてなにやらニヒルな雰囲気を漂わせています。
「では、殿下方、真ん中の席にどうぞ」
先生は殿下達を真ん中の席に誘導しました。
おそらく教壇、黒板が見やすい位置にという意味なのでしょう。
もしくは窓から、あるいは廊下から襲撃者が現れた場合、多少の盾が両サイドにできるように? でしょうか?
その考えで行くと窓際にいる私はあまりよろしくないのですが、私は外の景色が見たいのでやはり窓際がいいです。
それで……窓際の前から二番目の席を選んでいた命拾いしました。
王子殿下の隣はまぬがれました。
本当は窓際の一番後ろが良かったのですが、そこは漫画で見るに運動部ヒーローの席ですし、そこまで身長が高くないので遠慮しました。
王族とはなるべく目を合わせず、会話もせずに乗り切りたいものです。
ちなみにこの学院の上級クラスに年上の王女殿下がおられないのは、陛下の考えで他国に嫁がさせるために他国に留学させてるらしいです。
つまり今から他国に慣らされています。
家族と遠く離れてお気の毒です。
とはいえ、夏の長期休暇にはうちのお父様も交流のある隣国あたりにバケーションに行こうと私を誘ってきています。
私はお父様や家族が一緒ならどこでもいいのですが……。
まだ春なんですが、早く夏のバケーションが待ち遠しいです。
〜 主人公視点 〜
その日、俺はまたダンジョン経由で日本に買出しに来ていた。
「ミルシェラも今頃学園生活満喫してるかなぁ」
地元の中学校の近くの桜並木の中をチャリンコで通り過ぎながら、そんな事を呟く。
中学校からは休み時間に校庭でサッカーなどして遊ぶ学生の賑やかな声が聞こえる。
せっかく桜の季節なので、どうしても今回、日本に帰りたかったのだ。
ひらひらと舞い散る桜の花びらの中をチャリンコで進みつつ、しばし過ぎ去りし学生時代に思いをはせた。
◆ ◆ ◆
そして今の俺はテレビに出ていた美味しいお団子で有名らしい店に向かってる。
駅にチャリンコを置いて、電車で街まで出た。
店に着くと行列ができていた。流石、人気店だなぁ。
行列に一瞬怯みかけたが、姉がサブのスマホを俺の為に契約してくれたので、スマホを眺めつつ時間を潰せばいいやと思い直した。
しばらくお店の列に並んで姉の分もお団子をゲット。
そしてカフェで一休みしようと入ったら、なんと近くの席に元カノ……俺の元彼女の綾華が現れた。
もちろん、俺の方は現在、外見が違うケーネストの姿なので、彼女からは俺が分かるはずはない。
どうやら女友達と来ているようだった。
俺を捨てて他のハイスペ男を選んで結婚した女だ。
「えー、綾華の旦那さん、マジで浮気してるの?」
近くの席の会話が聞こえてしまったぞ!
なんと! 元カノ綾華のハイスペ旦那、浮気か!?
「本当よ……最悪。旦那はお金もあるし顔が良いから気をつけなきゃとは思ってたんだけど」
「で、別れるの?」
「別れたら相手の女の思う壺じゃない、絶対に喜ばせたくない」
……。
「じゃあ不倫されてるのに我慢して結婚生活続けるの?」
「悔しいから旦那に今度高いバッグでも買わせてやろうと思ってる」
「あーねー」
浮気する男は病気みたいなもんで何度でも蹴り返すというし、大変だなぁ。もう俺には関係ないけど……。
「ところであそこの外人さん、めちゃイケメンじゃない?」
おっと、連れの女性がこちらを見ている!
「ほんとねー、いっそ私も浮気してやろーかなぁ」
なんて声も聞こえてきた。綾華、旦那に浮気されたせいなのか、すっかりやさぐれて恐ろしい女になっていた。
ハーブなどを愛する優しい女だと思っていたのに……。
俺はザクロジュースと美味しいカフェのローストビーフサンドを食べ終え、綾華と目を合わせないよう、席を立った。




