100話「ミルシェラと王子達」
〜主人公 八城涼(ケーネストの中の人)視点〜
「異世界転生したら聖女だった件! 〜執着してくるイケメン神官様が実は王子様!?〜」
──という、俺の今いる作品世界の中の第一王子は、漫画を読み進めるうちに判明することだが、実は双子だった。
しかし双子は不吉という事で、片方だけ神殿に預けられた。
その男こそがこの作品の、ヒーローの神官レナードだ。
そしてアカデミーの神学クラスにて、そのヒーロー神官は聖女というヒロインかつ、主人公、神楽凛と出会う。
作品内のフェルデ王国の第一王子ヒューダイト・ボナ・デ・ソル・フェルデは、第二王子、ロブレヒト・ボナ・デ・ソル・フェルデと、そいつにそそのかされた悪役令嬢により毒殺された。
ミルシェラはその罪により死罪になり、エルシード公爵家も連座で妻も死罪。家門も取り潰しになり、公爵家の財は全て王国に還元された。
第二王子ロブレヒトはミルシェラを捨て駒にし、一時的に王太子の座についたが、後にその罪を暴かれ廃嫡される。
悪が栄えて終わるはずはなかった。
その罪を暴いたのは聖女マリンと、そして第一王子たる双子の片割れだった神官ヒーロー、レナード。
神官ヒーローが還俗し、聖女と共に国を担う位置につくエンディングだ。
聖女は異世界転生者ではあったが、元は普通のりんご農園の少女だった。
木登りして降りられなくなった猫を救おうとして、自分が木から落ちた衝撃で異世界転生者だった事を思い出したあげく、その時に聖女として覚醒する。
そして覚醒後にアカデミーの神学クラスで神官ヒーローと出会い、恋に落ちる。
ちなみに神官ヒーローは第一王子が死ぬまで自身の出生の秘密は知らなかった。
己のことは身寄りのない孤児だと思っていたのだが、何故か彼宛の支援金が神殿に入って来ていて、アカデミーの神学クラスにも入学できた。
そして身内のぬくもりを知らない孤独なヒーローは、聖女マリンの温かい人柄に触れ、心惹かれていくのだ。
物語の主要人物がアカデミーに集結し、入り混じってこの先、俺やミルシェラやアレンシアの運命はどうなることやら……。
そして、やはり生まれた時期が少し遅いだけで、第一王子に王位など、全てを持っていかれると、第二王子は鬱屈したものを抱えて成長していくのだろうか……まだ10歳程度ではあるが……。
ミルシェラが第二王子に誑かされなければ、第二王子は違う女を誑かして第一王子ヒューダイトの暗殺をさせるのだろうか?
◆ ◆ ◆
〜 ミルシェラ視点 〜
「ヒューダイト殿下! こんなところにおられた!」
ヒューダイト殿下のお付きの人が来たようです。
「いや、すまない」
「殿下はお食事がまだでしょう? 特別室に用意させましたので、そちらへ移動しましょう」
「ああ、分かったよ、では、エルシード令嬢、これで、今日はありがとう」
「いえ……」
第一王子、ヒューダイト殿下はすっくと立ち上がり、私の側からようやく離れてくださいまして、お付きの者達と校舎の方へ去って行かれました。
……けれど、どうしましょう。
フェルデ王国の第一王子のヒューダイト殿下と接触してしまったことを、お父様に連絡すべきでしょうか?
お腹を鳴らせて隣に座られてしまっては、お弁当を分けてさしあげるしかなかったのです。
でも、連絡しても心配させるだけかもしれません。
別にデートに誘われたとかでもありませんし、王子2人の婚約の打診を断った事を責められた訳でもない……。
そもそも王妃様からエルシード家宛に出された求婚状の事を、殿下二人がご存知なのかも分かりませんが……。
体が弱いという理由があるにせよ生意気にも王家とのお話を断っておりますので、それを知っていたら、あんな呑気に話かけたりはしないかもしれない。
まぁ、体が弱い……は、実際は嘘で、ただのインドア勢なのですけども……。
とりあえず気を取り直してお弁当を完食し、私も午後の授業に備える事にしました。
そして食後に教室へ向かう渡り廊下で、第二王子ロブレヒト殿下と目が合ってしてしまいました。
お父様が一番警戒すべきと言っていた相手です。
ロブレヒト殿下の輝く銀髪が揺れ、クールな眼差しが私を捉えました。
一瞬、ビクリと体が硬直し、どっと冷や汗が流れました。
私はなんとかスカートの両端を掴んで頭を下げて、やり過ごしました。
この不思議な恐怖感は、一体なんでしょうか?
お父様が繰り返し気をつけろとおっしゃっていたので、苦手意識でも植え付けられたのでしょうか?




