表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻開現師 ―夢の守り人―  作者: ks21
第六章:四光の胎動編
52/62

第49話「閃光!黒と朱と」

 黒と朱。

 相反する二つの力が夜空を裂き、森の外縁で激しくぶつかり合う。


 歴代最強と謳われた「黒き疾風」、笠井 亮(かさい りょう)

 無邪気な笑みで悪意を撒く異端、朱天(しゅてん)


 拳と槌が噛み合うたび、大地は揺れ、空気は震え、光と影が閃く。

 その死闘は、もはや人の領域を超えた“異次元”の戦い。


 仲間を守り、未来を繋ぐために――。

 笠井は己を削り、朱天は禁忌を喰らってなお進化する。


 熾烈な閃光が夜を白く照らす。

 次に訪れるのは、勝利か、滅びか。

 森の外縁。

 刃より鋭い気配が交錯し、二つの影が寸分違わず激突する。


 拳と槌が噛み合うたび空気が裂け、耳を灼く衝撃音が夜気を叩いた。

 呼吸の乱れ一つが即死を意味する。


 朱天が低く沈み、爪先で大地を弾く。

 無邪気な笑みのまま、瞬きの間に間合いへ滑り込み――


「きひっ!」


 笠井は肩の傾ぎを見切り、半身を滑らせる。

 返す構えで風塵鴉鎚(ふうじんがつい)を振り抜き、圧縮された風弾を撃つ。


 ――シュッ。


 朱天は掌でそれを潰した。

 重心が浮いた、その一刹那――笠井は逃さない。


 蹴撃(げき)

 腰を軸に放たれた一閃が胴を薙ぐ。

 朱天は翻身で直撃を避けたが、余波に弾かれ地を削って着地した。


 音もなく笠井が前方へ降り立つ。

 二人の息は乱れず、眼差しだけが夜を貫く。


「やっぱり、君とやるのは神経がヒリついて楽しいね♪」


 無邪気な笑み。

 だが双眸には悪意の焔。


「あれれ? おしゃべりは苦手?」


「……外道に言葉は不要」


 冷ややかな一刀。

 舌戦を拒む断罪。


 朱天は肩をすくめ、森の奥へ目を走らせる。


「ひどいなぁ。僕のおかげで、あの子たちはちゃんと育ってるのに」


『やはり……東京の時も、亜子ちゃんの時も……今回も。全部、あなたが仕組んだのですね!』


 花奈の慧珠が烈しく輝く。


「もちろん。でもね? 勘違いしないで。僕は信じてるんだ。彼らなら――僕の“試練”すら越えられるって」


 残酷な神の笑み。

 信仰を弄ぶ悪意そのもの。


「黙れ。お前の戯言はここまでだ」


 笠井が身を沈め、風塵鴉鎚を構える。

 次の瞬間――轟音。

 風を纏った一歩が朱天へ突き刺さる。


 紙一重で躱した朱天の拳。


 ガッ――!


 だがその手は風塵鴉鎚に阻まれ粉砕された。


(……さすが。けど――ここで終わると思わないことだ)


 砕けた掌が即座に蘇る。

 拳が再び走る――


 ――ザンッ!


 黒き風がそれすら払う。

 黒錆鉄爪(こくじょうてっそう)

 深化の黒風が朱天の手を削ぐ。


(まさか……すでに深化を――!)


 驚愕と賛美が朱天を貫く。


(ついば)め――国士無双(こくしむそう)


 冷徹な宣告。

 死を司る黒風が朱天を覆う。


 朱天は咄嗟に自ら腕を切り落とし、跳ぶ。

 ガガガッ――骨肉をすり潰す音。右腕は一瞬で削ぎ落ちた。


 砂塵の中から朱天が膝を突き、恍惚の笑みで立つ。

 血走った双眸は笠井を外さない。

 肩口から断たれた右腕――再生の気配はない。


(……再生は、無理)


 そして――


「アハハ、アハハハハハ!!」


 狂気の笑いが夜空を震わせた。


「最高だ! 最高だよ、笠井 亮ッ!!」


 歓喜が木霊し、ふと笑みが消える。

 朱天の手に異様な器。


 右手に緋色の盃。

 左手に脈打つ黒紫の種子。

 盃には濃い酒がなみなみと揺らめく。


「……面倒だな」


 笠井が呟き、黒き疾風で薙ぐ。

 朱天は盃を一気に飲み干し――肺の底から吹いた。


「――ぶううぅぅぅぅッ!!」


 酒霧が奔流となり黒風に交わる。


 ――ゴウッ!


 気化アルコールが蒼炎を巻き上げた。

 青白い火柱に浮かぶ笑みは、もはや悪鬼。


 揺らめく蒼炎の中、朱天は黒紫の種子を口へ運ぶ。


 波羅夷の種子(はらいのしゅし)

 血花桜の残り香から生まれ、鬼夢の残滓を喰らい育つ禁忌の瘴気核。


 盃の酒でそれを嚥下した刹那――


 黒錆鉄爪が奔る。

 だが黒風は霧散した。

 朱天の肉体が朱に染まり、失われた右腕が芽吹く。


「さあ、第二回戦と行こうか――開現師!」


 真紅の双眸が怪しく光る。


 黒と朱がぶつかるたび、世界が軋む。

 朱天は盃を重ねるほど熱を増し、動きは荒唐無稽でいて流麗――酔狂と狂気の舞。

 一方、笠井は一切の躊躇なく応じ、踏み込みと回転を読み切って的確に刺す。


 外から見れば拮抗。

 勝敗は読めない。

 だが観測者・七瀬 花奈には違う景色が見えていた。


(亮さん……深化を起動してから、もう長い……! お願い、早く――)


 祈りを嘲るように、朱天の猛攻は苛烈さを増す。

 星屑のように閃光が交錯し――その一瞬、わずかに。


 笠井の動きが鈍った。


「かかっ!!」


 愉悦と殺気が混じる笑い。

 拳に凝縮された殺意――


 ガッ!!


 鉄拳が脇腹を穿つ。

 直前に風圧壁で減衝したが、電撃の痛みが全身を走る。


「――ぶううぅぅぅッ!!」


 追撃。

 盃の酒が肺から吹き出され、瞬時に気化して笠井を包む。


「くっ……!」


 風塵鴉鎚が走るも、朱天は間合いを切る。


「結構、フラフラじゃない?」


 挑発。笠井は口端をわずかに吊り上げる。


「いや……さっきので眼が覚めた」


 指先に赤。だが眼差しはさらに研ぎ澄まされていた。

 衰えはある――しかし追い込まれるほど、その真価は露わになる。


(勝負は――一瞬)


 笠井と朱天、同じ思考が重なる。


「「――次で決める!!」」


 二人の声が雷鳴のように重なった。

 黒と朱――二つの影が一気に天空へ駆け上がる。


 上空で雲海が裂け、シガイ塚に月光が降る。

 笠井は黒の奔流を纏い、朱天は朱の稲光となる。


 衝突の直前――


「ぐっ……!?」


 視界がぐしゃりと歪む。

 重い眩暈、脳を掻く鈍痛。


(中毒症状か……!)


 高濃度の酒精が肺から血へ回り、思考を鈍らせる。

 刹那の遅延――それは死。


「やっぱり、効いたね!!」


 勝利の笑み。手刀が振り下ろされる。


「――終わりだ! 笠井 亮!!」


 紅の閃光が迫る。

 防御は間に合わない。――だが、


『させない!!』


 花奈の慧珠が割って入り、結界を展開。

 バリンッ――瞬時に砕ける。

 だが生まれた“一瞬”が命運を分けた。


「なっ!?」


 朱天の視界から笠井が消える。

 ――下。

 落ちゆく影。

 笠井が垂直に墜ちる。


「遅かったな……」


 口元がわずかに歪む。

 自らの体内に黒錆鉄爪を流し込み――黒風を強制爆ぜ。


「貴様……まさか!?」


 バッ――!

 全身から黒風が奔り、同時に口鼻耳眼から血が噴く。


「体内のアルコールを吹き飛ばすには……こうするのが早い」


 血に濡れた双眸がなお鋭さを増す。


(正気か……!? 一歩誤れば廃人――)


 朱天の胸を初めて純粋な恐怖が貫く。


「……イカれてるね」


「知ってるさ。だが――これでお前を狙える」


 風塵鴉鎚が変貌する。

 凝縮した風が一本の(いしゆみ)となり、矢を番える。


「……ああ、ここで終わりか」


 朱天は悟る。

 だが唇は笑む。


「でも……あの子たちも無事じゃすまないよ」


 最後の悪あがき。

 笠井の眼差しは揺れない。


「あいつらなら、勝つ」


「そうかい……」


 声が夜気に溶けた。


 引き絞られる。

 空気が悲鳴を上げ、世界が一瞬、静止する。


「――一矢天籟(いっしてんらい)


 風が放たれた。

 矢は空を裂き、律の音を纏って朱天を射抜く。


「が……はッ……!」


 風の渦が華奢な肢体を穿ち、黒い瘴気が噴き散る。

 朱い瞳が空を仰ぐ――そこに宿るのは敗北ではなく、最後まで愉悦。


「……やっぱり、楽しい……」


 囁きが残響になり、影は風に千切れて消えた。


 轟音が止む。

 月光の下に立つのは、ただ一人――笠井 亮。


 全身は血に塗れ、それでも風塵鴉鎚を握る手は揺るがない。

 花奈は胸を押さえ、震える息を吐く。


(……終わった……いや)


 夜の静寂が戦場を包む。

 だが余韻は安堵だけを許さない。


 笠井の眼は、なお森の奥を睨んでいた。


(――まだ、幕は下りていない)


 戦いは、次なる試練の序章にすぎない。

【次回予告】


 焦熱の底で目覚める少年――和泉 百希夜。

 己の悪鬼、白影との宿命の対峙が始まる。


 燃え盛る焔が試すのは、ただ一つ。

 その身を焦がしてでも守り抜く“心”があるか。


 そして――再び仲間の前に立つとき、

 少年は恐れを超えた“共鳴”の炎を纏う。


 次回、第50話『焔ノ共鳴 ―鬼焔操流―』

 「祈りの火は、まだ消えない」


 感想やお気に入り登録など、いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ