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夢幻開現師 ―夢の守り人―  作者: ks21
第六章:四光の胎動編
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第48話「焔の底で」

 奪われた左眼。

 荒武者の咆哮と、和泉の炎を奪って放たれる灼流。

 仲間が必死に抗う中、和泉の意識は暗い深淵へ沈む。


 そこで彼が出会うのは、己の内に宿り続ける“白影(びゃくえい)”。

 恐怖か、拒絶か――それとも、共鳴か。


 焔の底で試されるのは、力ではなく、心。

 運命を繋ぐ選択が迫る。

 ――はあ、はあ。


 半双の荒武者を前に、四人は予想以上の苦戦を強いられていた。

 個の力は拮抗する。

 だが、近しい出力ゆえの“わずかな呼吸のずれ”が噛み合いを崩し、戦局は鈍る。

 加えて敵の耐久は常軌を逸していた。

 幾度の斬撃も砲撃も、巨躯はなお立つ。


(このまま消耗に持ち込まれたら不利だ。いっそ俺が――)


 刹那、独断の誘惑が掠める。

 和泉は首を振った。


(駄目だ。ここで諦めたら、この先誰も生き残れない)


 点火針(てんかしん)を握り直す。

 視界に仲間を収め、前だけを見る。


「……一気に決める!」


 亜子が踏み出す。


「致し方ありませんね」


 理恵も双眸を決め、鋏剣を構え直した。

 瘴気は濁流のように広がり、仮想肉体に黒斑がにじむ。

 侵蝕は着実だ。


「どうする、トッキー? “転身”で攪乱しよっか?」


「いや。“深化”は切り札だ。現状じゃあ、逆に消耗がでかい」


 即答。

 杏樹は唇を噛む。

 深化(しんか)とは、

 悪鬼招来(あっきしょうらい)悪鬼転身(あっきてんしん)悪鬼召喚(あっきしょうかん)

 三系譜に大別される開現師の極意である。

 強力だが、その分負荷も大きい。


(理恵も亜子も制約がある。――道は一つ、全員で“繋ぐ”)


形態変化(モードチェンジ)――『双剣形態(そうけんモード)』!」


 理恵の立華鉢頭摩鋏(りっかはずまぎょう)が閃き、二刃に割れる。

 桔梗の弧光が闇を裂く。


「我が敵を討て、顕現――『綾悉兵(あやのしっぺい)砲部限定(ほうぶげんてい)』――」


 亜子がヴァジュラを呼び出しかけたその瞬間――


 足元が黒い沼へ変じ、泥闇から無数の腕が伸びた。

 亡者の手が脚を絡め、拘束する。


「……テメェの……眼ェ――よこせェェェ!!」


 咆哮。

 巨躯が亜子めがけて踏み込む。

 血錆の掌が迫り――


 ――グシャ。


 湿った嫌悪の音。


「……和泉、くん!」


 亜子の悲鳴。

 振り返る仲間の視界に映ったのは――左眼から鮮血を垂らす和泉。

 赤い筋が頬を伝い、地に黒い花を咲かせる。


百希夜(ときや)さん!?」

「トッキー!!」


 荒武者は勝ち誇るように眼を掲げ、指で弄び――大口を開いて、呑み込んだ。


 グチュリ。


 烈痛が神経を灼く。

 脳髄を掻き毟られるような衝撃に膝が折れかけるが、和泉は歯を食いしばる。


 容赦なく大太刀が再び落ちる――


 ――ドゴオオオオッ!!


 爆光が巨体を押し返す。


「もう……好き勝手にはさせない!」


 黒鉄の砲塔を据えた亜子。

 双眸に迷いはない。

 放たれた光弾が半身を吹き飛ばす。

 だが黒ずんだ肉塊は蠢き、筋繊維が絡み合い原形を戻す。


「りえっち!!」


「拘束します――蕣花縛塊(しゅんかばっかい)!」


 大地から蔓が噴き、巨体を絡め取った。

 甲冑が軋む。

 その隙に杏樹が和泉を抱き起こし、後方へ引きずる。


「トッキー! しっかり!」

「梓さん、お願い! 治して!!」


『畏まりました』


 深紅の慧珠が和泉を包み、修復の光が奔る。

 焦げた神経を繋ぎ、失血を辛うじて止める。


 前線。

 理恵は拘束を維持し、亜子が照準を合わせる。


「放せェェェェェェ!!」


 荒武者が内側から黒炎を噴き、蔓を焼き斬った。

 光弾すら呑み込む。


 ――轟ッ!


 烈火が荒野を真紅に染め、理恵と亜子を呑む。

 炎柱を突き破って跳ぶ影――狙いは負傷の和泉。


『まだ……治療が……!』


「ここは、わたしに任せて!!」


 杏樹がデガ喇叭を噛み、肺の底から吐息を叩きつける。


「――郷泡霧(ごうほうむ)ッ!!」


 瞬く間に膨張した泡が半透明のドームを成し、二人を包む。

 大太刀が振り下ろされ――


 ――ズバァァン!

 ……ボヨン。


 衝撃は吸われ、割れない。

 強靱な膜がいなす。


「く……! これでは間に合わない!」


 理恵は亡者を切り払い道を拓くが、群れは湧く。


「亜子さん! ここから狙えますか!?」


「無理……! 二人が射線に入る!」


 杏樹は膜を必死に厚くする。

 だが――


 ――ゴウッ!!


 荒武者の甲冑の亀裂から、赤黒い炎が噴き上がる。

 和泉から奪った“点火”。


「まさか……百希夜さんの炎を……!」


 熱が泡を炙る。

 膜がバチバチと焦げる。


「まずい……! もたない!!」


 灼熱が喰い破らんと迫る――。



   ◇  ◇  ◇



 左眼の喪失、瘴気の侵蝕。

 意識は暗い底へ沈んでいく。

 浮かぶのは今是町(こんぜちょう)の事件後――笠井との特訓の日々。


「やっぱ……白影を調伏するの、無理なんすかね」


 汗に濡れた床に座り込み、弱音がこぼれた。

 挑んでも手応えは遠い。

 胸に淀む不安が言葉へ滲む。


「どうして、そう思う?」


 静かな声。

 刺すように真っ直ぐな眼差し。


「これだけやっても“できる気”がしない。無理だと思うのが当然でしょ」


 言い終えて後悔する。

 だが笠井は眉一つ動かさない。

 沈黙が重い。

 叱られた方がまだ楽だ――そう思った時、声が落ちた。


「お前、白影(びゃくえい)を、どう感じている?」


「どうって……」


 恐怖、憎悪、拒絶――混ざり濁った感情が喉につかえる。


「……良くは思ってないっすよ。強くはなれたかもだけど、制御できない。振り回される。結局いつも、俺が引きずられてる」


 言葉が意外なほどあふれた。

 それが本心だった。


「……いやんなりますよ、ほんと」


 窓枠に影が差す。

 笠井が、ふっと笑った。


「笑うことないでしょ」


「悪い。だが――そこまで考えていると分かって、ついな」


 厳しい師が纏う、稀な柔らかさ。

 それが救いになる。


「そりゃ……少しは考えますよ」


 照れ隠しに呟くと、笠井は立ち上がった。


「続きは?」


「今日は終いだ」


「じゃあ次は?」


「次はない」


「……え」


 入口で振り返る。


「お前はもう、”深化”を成している」


「で、でも俺は――」


 鋭い眼差しが言葉を止めた。


「後は――お前次第だ」


 その一言は、胸底で消えない火種になった。

 のちに仲間が加わっても、笠井が“深化”の稽古を再開することはなかった。

 あの言葉こそ最大の教えだったからだ。



   ◇  ◇  ◇



 和泉は沈む。精神の淵――深層意識。


 深く、暗く、無そのもの。

 熱も寒さも、時間すらない漆黒。

 その底に――二つの真紅の焔が灯る。


 ぼう、と。

 眼のような、鼓動のような焔。

 やがてそれは蛇行する炎流となって昇り、虚無を灼く。

 仮想肉体は焦げ、黒ずみ、焼けただれる。

 ――それでも、退かない。


「……よお。待たせたな――白影(びゃくえい)


 白銀の閃きが炎海を割る。


 現れたのは白銀の外殻を持つ魔蟲。

 無数の脚が空を掻き、金属質の甲殻が軋む。

 幾重にもとぐろを巻く巨躯が、真紅の双眸で和泉を睥睨した。


 咆哮なき威圧が空間を震わせ、深淵を裂く。


 ――呼吸を揃えろ。

 ――お前は、もう成している。

 ――後は、お前次第だ。


 和泉は、焼け爛れた掌を前へ差し出す。


「行くぞ、相棒。……力、貸せよ」


 白影の双眸が、燃え上がる。

【次回予告】


 黒と朱――。

 相剋する二つの力が、夜を裂き火花を散らす。


 冷徹なる「黒き疾風」、笠井 亮(かさい りょう)

 無邪気に悪意を撒く異端、朱天(しゅてん)


 森は震え、空は割れ、閃光が交錯する。

 人の領域を越えた“異次元”の死闘。

 そして迫る決断――勝利か、滅びか。


 次回、第49話「閃光!黒と朱と」

 夜天を裂く閃光が、二人の運命を照らす。


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