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夢幻開現師 ―夢の守り人―  作者: ks21
第六章:四光の胎動編
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第46話「舞い上がる四つの光」

 侵食を続ける悪夢の森――シガイ塚。

 現実と夢の境界は崩れ、闇に潜む気配は一層濃くなる。


 笠井が下した決断は、若き四人への試練だった。

 守られるのではなく、自らの力で生き残れ。

 厳しさの奥で、それは真の戦士へ導く檄。


 烈火、紫苑、巨星、そして黄昏。

 異形の森に差し込むのは、四人が掲げる光。

 次なる戦場で、仲間としての真価が問われる――。

 広がり続けるシガイ塚を前に、五人は肩を並べた。


「ここまで現実に鬼夢が侵食したのは……お前たちも初めてだろう?」


 笠井の問いに、理恵たちは息をのんで頷く。


「ドリームコンバータは使わないんですか?」


 杏樹の疑問に、笠井は首を振る。


「残念だが、ここまで進めば意味はない。やれるのは――直接、この空間に飛び込むことだけだ」


 二人の表情が引き締まる。一方、和泉と亜子の視線は静かに揺らがない。


「この先からは、夢と現実が逆転する。……気を引き締めていけ」


 踏み出そうとした笠井が、ふいに歩みを止めた。


「先生?」


 和泉の問いに、一拍置いて厳命が落ちる。


「ここから先は――お前たち四人で対処してみろ」


「え……?」


 動揺が走る。


「なぜ、いきなり……?」


 理恵の問いに、笠井の眼が鋭く光る。


「これからもこういう現場に身を投じる。最大の武器は“俺が守ること”じゃない。お前たち自身が、生き残る術を掴むことだ。

 俺がいる甘えで全力を出し切れないなら――本番で命取りになる」


 重い沈黙。理恵と杏樹に迷いが差す。

 そこで、和泉が一歩出た。


「……いずれやるなら、今でいい」


「とっきー……」


「ですが、連携が――」


 理恵の言葉を断ち、亜子が和泉の隣に並ぶ。


「あたしも賛成。誰がいても死ぬときは死ぬ。……なら、こういう試練を越えられなきゃ、ここにいる意味がない」


 二人の決意に押され、理恵と杏樹も意を決して頷いた。


「藤本、バックアップを」


「ええ。準備は整っています」


 梓は既に瞑想に入り、支援体制を展開していた。


「七瀬の準備は?」


「はい。朱天が動けば必ず感知します!」


 瘴気漂う森の奥に、朱天の匂い。

 笠井と花奈はそれを確かに感じ取っていた。


(悪いな……だが、お前たちなら必ず生き残れる)


 笠井は胸中で呟き、戦地へ進む四人の背を見送った。



   ◇  ◇  ◇



 森へ足を踏み入れた瞬間、四人の身体は糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 だが、意識は消えない。

 ――ここは現実へ滲んだ“夢”。四人は異空間に自らの“疑似肉体”を創っていた。


「ええ~!? なんか超フシギ!」


 杏樹が倒れた自分の身体を覗き、つつこうとする。

 指はすり抜け、触れない。


「知識では理解していましたが……実地は初めてですね」


 理恵は困惑を抑え、冷静に状況を読む。

 和泉と亜子は驚きも見せず、森の奥を見据えた。


「二人は……こういうの、初めてじゃないんだよね?」


「……まあな」


 和泉は短く。亜子は無言で顎を引く。


「昔はさておき――今は任務に集中だ」


 和泉の一言に、理恵も杏樹も頷く。

 足並みを揃え、不気味な深部へ。


『皆様、御注意を。――来ます』


 紅い光を帯びた慧珠がふわりと浮く。


「梓! 来てくれたのですね」


『はい。サポートは私が。……御準備を』


 同時に、奥の茂みがざわりと揺れた。


「全員、構えろ!!」


 和泉の叫び。飛び出したのは――人の頭蓋。

 白骨の隙間に腐肉がへばりつき、黒ずんだ皮膚が垂れる。湿った土と血の腐臭が鼻を刺す。


「ひっ……趣味、悪すぎでしょう!?」


 杏樹の声が上ずる。だが止まらない。

 茂みが次々とざわめき、数十の骸が空を滑るように迫る。


「……派手な歓迎ですね」


 理恵の瞳が研ぎ澄まされる。


「やっぱ、こうなるよな」


「とっとと蹴散らして――本体を叩く」


 亜子の低い声に、気配が一つになる。


「一気に行くぞ!」


 髑髏の群れが牙を剥き、空を裂く。


「――『我が敵を討て、顕現!』」


 三人が同時に腕を突き出す。

 奔る光、現界するヴァジュラ。


「――点火針(てんかしん)!」

「――立華鉢頭摩鋏(りっかはずまぎょう)!」

「――デガ喇叭(ラッパ)!」


 炎を宿した針剣、桔梗色に煌めく鋏剣、泡を噴く銃器。

 瘴気が裂け、武装が光を放つ。


 ザンッ――!

 点火針の白銀が炎を纏い、骸を両断。


「久々の実戦だ! 暴れさせてもらう!」


 烈火の閃が闇を裂き、亡者を炎へ還す。

 和泉は低く構え、群れへ踏み込む――目にも止まらぬ速さで薙ぎ払った。


 一方、理恵の立華鉢頭摩鋏が舞う。

 桔梗色の刀身が花のように鮮やかに閃く。


『お嬢様、まだ群れます』


 慧珠の声。

 理恵は凛と笑んだ。


「なら――主と同じ趣向で」


 聖女めいた微笑。それは地獄を呼ぶ合図。

 理恵が地を這う枝々へ念じる。


(――狩りなさい)


 瞬時、枝は蛇のように蠢き、骸を串刺しにした。

 入り口で見た“目玉の早贄”を思わせる光景。


「冥府へ還りなさい。――私が導きます」


 声に、骸が一瞬ひるむ。


「二人とも、気合入ってんじゃん!」


 杏樹も負けじとデガ喇叭を咥える。


「カアアアア!!」


 顎を外しかけた髑髏が殺到。


泡連弾(ほうれんだん)!!」


 白い奔流が群れを薙ぐ。


「もう――うら若きレディに何て態度!」


 ぷんすか怒りながら、杏樹は宙へ弧を描く。


「馬鹿にしないで!」


 空中一回転、連射。

 轟音とともに骸が粉砕された。


 そのとき、杏樹の視線は奥で戦う亜子へ。

 和泉も理恵も、自分もヴァジュラ。

 ――だが亜子は素手。


「あーこ……どうしてヴァジュラ出さないの」


 不安は杞憂だった。

 亜子の拳が黄金の閃を帯び、骸を易々と叩き潰す。

 噛みつこうと群がる亡者は、彼女の肌に触れることすらできない。

 掠めた腕で砕け、残骸だけが積もる。


 怯んだ群れが空へ舞い、一塊になって降下する。

 華奢な身体が骸の山に呑まれた。


「あーこ!!」


 援護に走ろうとした刹那――


 轟、と。骸の山の奥で黄金が爆ぜる。


「――えい」


 小さな掛け声。次の瞬間、骸は木端微塵に吹き飛んだ。


「お……おお……」


 杏樹は呆然。

 聖堂院で学ぶどの戦技とも違う。

 ――むしろ“絶対に許されない無茶”の領域。


 思考が絡む背後へ、骸が忍び寄る。


「あぶない」


 冷ややかな声。

 亜子が蹴った小石が頭蓋を撃ち抜き、粉砕。


「ありがと、あーこ……!」


「構わない。でも――向こうの二人に負けてられない。先行く」


「なら、援護する?」


 亜子が口の端で笑う。


「あたしの動きに――ついてこられるならね」


 そう言って、骸の渦へ飛び込んだ。


「はいはい。やってやろうじゃん!」


 杏樹も武器を構え、後を追う。


 ――闇夜に沈む呪われた森。

 そこに集う四つの光が、燦然と舞い上がった。

【次回予告】


 骸の群れを突破した先に広がるのは、焦げた大地――“死の荒野”。

 月光に晒され、単眼の巨躯が唸る。半双の荒武者、顕現。


 噛み合わぬ四つの刃、揺らぐリズム。迫る咆哮。

 一方、闇の外縁では――暗躍する影……。


 次回、第47話「死闘の幕開け」

 黒の部隊、試されるのは“連携”か、“覚悟”か。


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