第42話「始動、黒の部隊」
和泉 百希夜、來瀬川 理恵、加藤 杏樹、そして川合 亜子。
四人の若き精鋭が揃い、ついに黒の部隊が動き出した。
名を――黒の部隊。
だがその歩みは、まだ不揃いの音を立てていた。
個としては鋭くとも、群としては脆い。
強さと未熟さが同居する、黎明の一歩。
そんな折、大塚探偵事務所に舞い込んだ新たな依頼。
舞台は関西の片隅で囁かれる心霊スポット――「シガイ塚」。
「人の眼を喰らう」と語られる怨霊、半双の荒武者。
山奥の村で起きた不可解な事件を皮切りに、黒の部隊は初の任務へと踏み出す。
だが、その道程の先には――すでに彼らを待ち構える、不気味な影が蠢いていた。
夢幻開現師、第六章「黒の胎動」――ここに開幕!
――ここは、とある夢の中。
世界が揺れ、閃光が走り、轟音が空間を裂く。
その中心で激突する、五つの影。
和泉・理恵・杏樹・亜子。
四人は、笠井の稽古を受けていた。
内容は単純――どんな手を使ってもいい、笠井を倒せ。
だが四人は息も絶え絶え、全身ボロボロ。
対する笠井は、涼しい顔のまま一歩も崩れない。
「さあ、どうした。かかって来い」
余裕の笑みと共に、手招きする。
「「はあああああ!!」」
飛び込んだのは理恵と亜子。
しなやかな剣閃と、真っ直ぐ突き抜ける打撃。
対照的な二撃が交わり、刹那の輝きを放つ――はずだった。
「くっ……!」
「っつ……!」
だが空を裂くだけ。
刃も拳も、笠井には届かない。
(違う……これじゃない。二人は、もっと――)
和泉は歯噛みした。
かつて見た華麗さも、圧倒的な力強さも、そこにはなかった。
「二人とも、どいて!」
杏樹が痺れを切らし、泡弾を放つ。
その瞬間――
パシッ!
笠井が二人の腕を掴み、力任せに引き寄せた。
「きゃっ!」
「うわっ!?」
互いにぶつかる二人。
そこへ――
ドシュッ!!
泡弾が直撃した。
弾き飛ばされた二人を、和泉が寸でのところで抱きとめる。
「ご、ごめん! 二人とも――」
駆け寄る杏樹を、和泉が手で制した。
「反省は後だ。今は目の前の相手に集中するぞ」
その言葉に、理恵も亜子も頷く。
「ええ……このままでは格好がつきませんから」
「同感。一撃は入れたい」
四人は再び立ち上がり、敵を睨む。
これまで一撃すら届かなかった相手――笠井。
「もういいか? さすがに待ちくたびれたぞ」
淡々と吐き捨てる声。
「ムッキー! 女の子をここまでめっためたにするなんて、鬼畜すぎますよ!」
杏樹が地団駄を踏む。
「ふん……実戦で手取り足取り教えるなんてあると思うのか?」
冷ややかな視線を送る笠井。
「むー……それは確かにそうだけど……」
言い返せず肩を落とす杏樹。
「言い負かされてどうすんだよ」
和泉が苦笑しつつも、笠井の言葉を認めた。
四人の力は一線級。
だが噛み合わない。
笠井はそれを見抜いていた。
「実力だけなら俺に一撃届くだろう。だが――連携となると別だ。むしろ、それこそが最も難しい」
言葉は真実。
彼らは皆、一匹狼として強さを磨いてきたのだ。
「どうする? 降参するか」
「冗談」
「ええ、ここからです」
和泉と理恵がヴァジュラを構える。
「やってやろうじゃん!」
「ボス、ぶっ飛ばす」
杏樹と亜子も気合を入れ直す。
その姿に、笠井はわずかに口の端を上げた。
「いいだろう……なら、俺も少しは本気を出してやる」
背筋をなぞる冷気。
鼓動が暴れ、呼吸が熱を帯びる。
一歩踏み出すたび、空気が変わる。
轟、と黒き風が吹き荒れた。
「さあ、一人と言わず――全員でかかってこい」
圧が場を覆う。
立つだけで、男は戦場を支配していた。
「行くぞ!!」
「はい!」
「おう!」
「りょー!」
和泉と理恵が飛び出し、黒き旋風を切り裂く。
「ふん、意気込みは良し……だが、勢いだけでは届かん」
笠井の黒風を押さえ込む和泉。
隙を逃さず、理恵が組みつく。
「はあああああ!!」
閃光が奔る――だが軽くいなされ、逆にカウンターを浴びた。
「杏樹さん! 今です!!」
「なに!?」
吹き飛ばされる刹那、後方に杏樹。
「――泡連弾!!」
泡弾が笠井へ殺到する。
「甘いッ!」
黒き一閃が振り抜かれ、泡は霧散した。
「くっそー! でも――お願い、トッキー!!」
その声に応え、背後から和泉。
低く構えた点火針が赤く燃え、空気を灼く。
「紡げ――《赤い一線》!!」
轟ッ!!
赤き烈火と黒き疾風が正面から激突。
「きゃああああ!!」
理恵と杏樹を吹き飛ばす衝撃波。
その中心で、和泉と笠井がぶつかった。
「くッ……!」
「……いい一撃だ。だが――焦りで踏み込みが甘い」
炎の刃は、ほんの僅かに届かない。
圧倒的な壁がそこにあった。
だが、和泉は不敵に笑う。
「!? そう来るか!」
すでに亜子が銃口を向けていた。
「よし!」
勝利を確信した和泉――だがその判断を悔いる。
忘れていた。
師はかつて「最強の開現師」と呼ばれていたことを。
黒き風が渦巻き、風圧が増していく。
「ちっ!」
亜子は舌打ちし、トリガーを引く。
だが光弾は弾かれた。
「――黒葬旋風」
その一言と共に、巨大な黒き竜巻が舞い上がる。
「きゃあああああ!!」
理恵と杏樹が、黒風に飲み込まれる。
「うぅ……ああ!!」
亜子も吹き飛ばされた。
和泉は地面に点火針を突き立て、必死に耐える。
「うぅ……うおおおお!!」
渦の中心へ拳を叩き込む。
だが届かない。
視界は闇に染まり、意識すら呑み込まれていった――。
黒き風がすべてを呑み込み、光が途絶える。
その暗闇の中で、少年たちはまだ――諦めてはいなかった。
【次回予告】
笠井の放つ「黒葬旋風」に、なす術なく飲み込まれた和泉たち。
苦い敗北の余韻を胸に、それでも歩みを止めぬ四人。
師の言葉に導かれ、次なる舞台は――街。
次回、第43話「束の間の休息」
ほんの束の間の休息が、彼らの絆を少しずつ形づくっていく。
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