表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻開現師 ―夢の守り人―  作者: ks21
第五章:黄昏の戦姫編
42/62

第40話「黄昏の戦姫」(前編)

 笠井の必殺の一撃によって機織鬼は打ち倒された――かに見えた。

 だが、その殻を突き破って現れたのは、さらに凶悪な第二の姿「蟻婆(ありばば)」。

 黒光りする甲殻と巨大な大顎を備えたその悪鬼は、まさに地獄から這い出た魔蟲だった。


 圧倒的な力を前にしても、亜子は退かない。


 過去に囚われ、仲間を守れなかった悔恨を背負う少女。

 その彼女が、いま仲間と共に“己の意志”で戦うことを決意する。


 *第40話は、前後編になります。

 闇の底から、ずるりと蠢く漆黒の魔蟲が姿を現した。

 硬質な殻が擦れ合い、ぞわりと耳を苛む不快音が空間を満たす。


「……珍しいな。分離型か」


 笠井は目を細めた。

 先ほどの一撃で機織鬼は確かに葬ったはず。

 だがその肉体の奥を裂いて現れたのは――まったく別の悪鬼。


「わしゃぁ……『蟻婆(ありばば)』じゃよォ」


 甲殻は漆黒に濡れ、大顎は岩すら噛み砕きそうな鈍色の刃。

 ただ立っているだけで周囲の空気を押し潰し、視界すら歪ませるような圧を放っていた。


「ふん……いくら分離したところで、一気に仕留めれば――」


 笠井が踏み込もうとした瞬間、その肩を押し留める者がいた。


「……ボス。ここは、交代」


 前に進み出たのは――川合 亜子(かわい あこ)


「……いいのか」


 低く問う笠井に、亜子は迷わず頷いた。

 その瞳には、これまで迷いに閉ざしていた心を越えた、確かな決意の炎が宿っていた。


『笠井さん……! 私からもお願いします!』


 花奈の声が慧珠(えじゅ)を通じて震える。


 笠井は短く目を閉じ、息を吐いた。

 やがて口元にわずかな笑みを刻み、告げる。


「……いいだろう。――川合亜子。奴を倒せ!」


 その一言が、戦場の空気を一変させた。

 少女の瞳が、漆黒の悪鬼を真正面から射抜く。


「ほっほほほぉ……! 何じゃ、モルモット風情が相手とはなァ!」


 蟻婆は醜悪な笑い声を上げ、大顎をカチリと鳴らした。

 その奥底なぶる(なぶ)ってから連れ去る算段すら透けて見える。


 だが――亜子は怯まず、ただ一歩を踏み出した。


『亜子ちゃん、私がサポートを――』


「いらない。……わたし一人でやる」


 硬質な声音。

 次の瞬間、少女の身体は矢のように走り出した。


 蟻婆の前脚が閃き、鋭利な槍のように突き出される。

 だが亜子は風のように翻り――間合いを詰める。


「――遅い!」


 掌底が甲殻を叩き抜く勢いで放たれた。


 ドガッ!


 衝撃が響いたが――。


(……硬い!)


 拳は痺れ、蟻婆はびくともしていない。


「小娘ェ……舐めるなァッ!!」


 大顎が振り上げられ、刃のように振り下ろされる。


 ガギィンッ!!


 寸前で跳んだ亜子の耳元を冷風が裂き、背後の地面が粉砕される。


 砂煙の中、亜子は体勢を低く構え――反撃の蹴りを叩き込む。


 ドシュッ!


 巨体がわずかに揺らぐ。

 だが衝撃は甲殻に吸収され、手応えは浅い。


「無駄じゃァ!!」


 薙ぎ払われた爪が亜子の頬を掠め、血の線が浮かぶ。

 鉄の匂いが鼻を刺し、彼女は歯を食いしばる。


「……ッ!」


 蹴撃(しゅうげき)を重ね、亜子は巨体を揺らす。

 その姿は必死ではなく――怒りを冷たく凝縮させた戦士の姿だった。


「何? もうボケちゃったの?」


 冷たい一言が蟻婆を挑発する。


 複眼がぎょろりと動き、醜悪な笑みを浮かべた。


「たまたま生き残った小娘が……調子に乗るなよォ!」


 大顎を開き、甲殻を爆ぜさせる。


「ガアアアアアアアアア!!」


 咆哮と共に飛び散る石礫(いしつぶて)の豪雨。


 だが亜子は退かない。

 掌で弾き、腕で払い、身体で受けてでも――一歩を踏み出す。


「……うるさい……!」


 血を流しながらも、亜子の声は鋼の芯を帯びていた。


「あたしは――誰のものでもない。生き方は、あたしが決める!」


 宣言と共に疾駆(しっく)

 石礫を抜け、拳が一点を穿つ。


 ベキッ!


「な、なにィッ!?」


 蟻婆の腕の節がへし折られた。


 防御の中で、唯一覆い切れぬ関節。

 亜子はそこに攻撃を集中させていたのだ。


「ぐぅ……貴様ァァ!!」


 怒声と共に暴れる蟻婆。

 だがすでに、均衡は揺らぎ始めていた。




 ――後編へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ