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夢幻開現師 ―夢の守り人―  作者: ks21
第四章:青き新星編
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第32話「青き新星」

 仲間たちの想いを受け、杏樹はついに首領・孫 誤喰と対峙する。

 真っ向からぶつかり合う両者。戦いは熾烈を極め、極限の攻防が繰り広げられる。


 そして、決戦の最中――杏樹は『青き新星』としての真の輝きを放つ。

 異界の遥か上空――最後の楽園《天竺》。

 祭壇に星空星奈を横たえ、孫誤喰(そんごくう)は勝ち誇ったように笑っていた。


「これで……よしっと」


 気を失った星奈は微動だにしない。

 杏樹は怒りを燃やし、声を張り上げた。


「追い詰めたんだから! とっとと降伏しなさい!!」


「キンキンうるさい女だな~」


 苛立ったように杏樹を見やり、誤喰は口端(こうたん)を歪める。


「そうだ! 今ここで謝るなら……愛人にしてやってもいいぞ?」


「うっさい!!」


 バンッ!


 デガ喇叭(らっぱ)が火を噴く。

 泡弾が炸裂するも、誤喰は蜂へと変化し、神殿を縦横無尽に飛び回った。


「ああもう! 全然当たんないじゃん!!」


 小さすぎる標的に狙いを定めるのは至難の業。

 杏樹の焦燥を嘲るように誤喰は飛び回る。


『杏樹様、私に考えがあります』


 真紅の慧珠から梓の声が響く。

 杏樹は柱の陰で頷き、深く息を整える。


「よし! それなら――」


   *  *  *


 攻撃が止まり、誤喰はぶんぶんと飛び回る。


「何だ、もう終わりか~」


「いやいや! こっから、こっから!!」


 杏樹が柱から躍り出て、泡の連弾を放つ。


「へへっ! そんな攻撃、当たるかよ!!」


 誤喰は余裕の笑みを浮かべた。


 広大な庭園を駆け抜ける二人。

 必死に追う杏樹だが、標的を捕らえることはできない。


「ほれ、ほれ~! 当ててみろよ!!」


「くっそ~! 止まれっての!!」


 なおも飛び回る誤喰。

 勝利を確信したように、にやりと笑う。


(ふん、息切れするまで追わせてやる。その隙に、また逃げ切ってやる!)


 だが――油断が命取りとなる。


 眼前に迫るのは銅鑼(どら)


「おっと! あぶねえ~」


 急停止し、方向転換を図ろうとしたその時。


「今だ!!」


 杏樹が銅鑼へ泡弾を撃ち込む。


 ――破裂。



 グワアアアアァァァンッ!!



 轟音が神殿を揺るがす。


「ひぃぎぎぎぎぎぃぃ!!」


 蜂となった誤喰に衝撃が叩き込まれる。

 羽は痙攣し、意識は点滅。


 変化の術は解け、元の姿へと引き戻された。


「梓さん、お願い!!」


 杏樹が叫ぶ。


 瞬間、慧珠が深紅に輝き、光の輪を放つ。

 輪は誤喰の頭へ飛び、ぎゅっと締めつけた。



「な、何じゃこりゃああ!!」


 誤喰は必死に引き剥がそうとするが、指先は触れることすらできない。


「くらえ!!――『泡連弾(ほうれんだん)』!」


「ひいいいいぃぃ!!」


 泡弾が直撃。


「ち、ちくっしょおお! 変化ができねえ~!」


 変化の術も封じられ、誤喰は呻き声を漏らす。


「ま、まずい……このままじゃ……」


 異界を移動して逃げようとした、その時。


 ギギギギ――


「いってててて!!!」


 光の輪が縮まり、誤喰はのた打ち回る。


『残念ですが、その光の輪は――貴方様の動きを制限させてもらいます』


「や、やろうぉぉぉ!」


 杏樹が踏み込む。


「ひいいいいぃぃぃ!」


 誤喰は必死に避け、ようやく対峙する。


「さあ、これで正面から戦うしかないよ!」


「ふ、ふん! 俺を舐めやがって……痛い目を見せてやる!!」


 如意棒を抜き放ち、杏樹へ襲いかかる。


「へへ! その程度じゃ、わたしに当たんないよ!」


 杏樹は身を翻し、隙を見て泡連弾を撃ち込む。


「ぐぐぐ……しかし、この程度ではな!」


 直撃しても、誤喰は怯まなかった。


(う~ん……やっぱりこれじゃ倒しきれないか……)


 杏樹は距離を取る。


「ふふふ……俺様に力で勝てると思うなよ!」


 誤喰は頭の毛を毟り、ふっと吹いた。


「さあ――カモン! 我が分身たちよ!」


 ボワン、と煙が広がる。次の瞬間、何人もの誤喰が現れた。


「「「はいいいい!!」」」


 分身たちが一斉に襲いかかる。無数の突きが杏樹を貫かんと迫る。


 杏樹は必死に躱すが、次第に追い詰められていった。


「「「さあ、さあ! どうする、どうする!?」」」


 いよいよ窮地。


『杏樹様、ここは私が――』


「ううん、大丈夫。わたしにだって、奥の手があるんだから!」


 杏樹の瞳に決意の炎が宿る。


「「「ふん! 強がりを言うな!!」」」


「へん! 強がりかどうか、あんたの目で確かめな!」


 杏樹の青き瞳は揺るがない。


「負けない! だって、わたしは――『(あお)新星(しんせい)』、加藤 杏樹(かとう あんじゅ)ちゃんなんだから!!」


 杏樹はウィンクし、呪文を唱えた。


「我が意を示せ!――行くよ、悪鬼転身(あっきてんしん)篥歯(りっぱ)』!!」


 次の瞬間、杏樹の身体が光に包まれる。


「「「な、なにいいいい!?」」」


 光が晴れる。


 そこに立っていたのは――


「さあ、うちが相手だ!!」


 誤喰たちの視線が落ちる。

 先ほどまでの少女の姿はなく、一匹のマーモットのような生物が偉そうに笑っていた。


「「「は?」」」


 完全に誤喰は戸惑う。


「なら、こっちから行くよ!」


 篥歯となった杏樹は跳び上がり、分身の一体へ回転突撃。

 その尻尾がオールのように振り抜かれ、叩きつけた。


「「「くそ!!」」」


 如意棒の突きが迫る。

 だが篥歯は縫うように走り抜ける。


 跳躍。

 手にデガ喇叭。放たれた泡弾が直撃し、分身は煙となって消えた。


「はい! はい! はいっ!」


 篥歯は腹ばいで宙を飛び、水流を生じさせる。

 その流れに乗り、縦横無尽に駆け抜けた。


「「「ちょこまかと!!」」」


「よっしゃー! ここで――『トリモチ玉』じゃい!!」


 白色の泡が分身たちへ飛ぶ。


 パチンッ!!


「「「ああああああ!!」」」


 破裂と同時に、泡は餅のように絡みつき、分身を縛り上げる。


「そして、お次は――『まぼろし玉』!!」


 紫色の泡が放たれる。


「ふん! 今度は騙されるか!!」


 誤喰は如意棒を投げつけ、泡を砕いた。


 ボフッ――!!


 瞬間、神殿全体を覆うほどの濃霧が広がる。


「しまっ……! やつはどこに!!」


 必死に周囲を探す。

 だが視界は真っ白で、何も見えない。


 その時――右後ろで揺れる影。


「そこかあああ!!」


 如意棒を振り払う。


 ――バリンッ!!


 砕けたのは、梓の慧珠だった。


「くそ!? これは偽物――」


 気付いた時には遅かった。


 正面――篥歯の姿が落下の勢いそのままに迫る。


「必殺――『泡連爽弾(ほうれんそうだん)』!!」


 無数の泡が霰のごとく弾け、誤喰の身体を貫いた。


「がぼがあああああ!!!」


 霧が晴れる。


 そこに倒れ伏す誤喰。

 祭壇に眠る星奈。


 そして――


「――よしっと!」


 晴れやかな顔で立つ杏樹の姿だけが残っていた。



   ◇  ◇  ◇



 事件は解決し、星奈を含む被害者たちも無事救出された。


 今回の宿主は、なぜこのような事態となったのか――おそらく何一つ覚えてはいないだろう。

 だが、異様な空間操作の痕跡を思えば、朱天の影がちらついて仕方がない。


「お~い! トッキー、行くよ~」


 そんな思考を巡らせていた和泉に、声がかかる。


 彼は顔を上げ、バスへ乗り込んだ。


「しかし、何だよ、”トッキー”って」


「ええ~、いいじゃん。和泉百希夜だから、『トッキー』!」


 少女の笑顔が眩しく光る。


「ええ、私も素敵だと思いますよ」


 すでに座席には理恵が腰掛け、梓がお茶を淹れていた。


「それにしても、こんなあっさり付いてきてよかったのか、杏樹?」


 和泉は杏樹へ問う。


「うん、家族も同意してくれたし……芦谷先生も、わたしならやっていけるって」


 三人が席につく。その光景を見て、理恵がくすくす笑った。


「どうしたの、りえぴ?」


(……りえぴ?)

 梓の手が止まる。


「いえ、これからまた楽しくなるなと思いまして」


「おい、別に遊びじゃないんだからな」


「ええ~、いいじゃん! 仲間は多い方が。ねえ~」


「まったく……」


 理恵と杏樹の笑い声の中、和泉は呆れたようにため息をついた。


 だが、窓の外に広がる晴天は、どこまでも透き通った青だった。


「……まあ、そうかもな」


 そして、開現師たちを乗せたバスは再び大塚探偵事務所へと走り出す。




 第四章:青き新星編 ―完―

【あとがき】


 『夢幻開現師』、第四章:青き新星編をご愛読いただき、誠にありがとうございました!


 今回、新たに登場した「加藤 杏樹」というキャラクターですが、当初は眼鏡をかけた男性キャラで、性格も天真爛漫な明るさとは正反対の、神経質な少年として構想していました。


 しかし、理恵との絡みや、物語全体の雰囲気を考えたとき、暗くなりすぎるのを避けたいという思いもあり、現在の“杏樹”というキャラクターへと形を変えていきました。結果として、彼女の明るさは物語の展開にとって大きな魅力となり、書いていても非常に楽しい存在になっています。杏樹のコンセプトである「普通の女の子が、突然特異な力を得るとどうなるのか」というテーマも、今後の展開でしっかり生かしていきたいと思っています。


 一方で、女性キャラ同士のやり取りを描くのはなかなか難しく、「果たして読者の皆様に受け入れていただけるのか」とびくびくしながら執筆しているのも正直なところです。それでも、書かずに止まってしまうよりは書き続けたい――そんなジレンマに駆られながら、筆を進めています。


 次回の第五章では、最後の黒の部隊メンバーがいよいよ登場予定です。また「笠井」「七瀬」「大塚」といった、これまであまりスポットが当たらなかったキャラクターたちの掘り下げも行えたらと考えています。


 それでは次回――第五章:黄昏(たそがれ)戦姫(せんき)編でお会いしましょう!

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