第32話「青き新星」
仲間たちの想いを受け、杏樹はついに首領・孫 誤喰と対峙する。
真っ向からぶつかり合う両者。戦いは熾烈を極め、極限の攻防が繰り広げられる。
そして、決戦の最中――杏樹は『青き新星』としての真の輝きを放つ。
異界の遥か上空――最後の楽園《天竺》。
祭壇に星空星奈を横たえ、孫誤喰は勝ち誇ったように笑っていた。
「これで……よしっと」
気を失った星奈は微動だにしない。
杏樹は怒りを燃やし、声を張り上げた。
「追い詰めたんだから! とっとと降伏しなさい!!」
「キンキンうるさい女だな~」
苛立ったように杏樹を見やり、誤喰は口端を歪める。
「そうだ! 今ここで謝るなら……愛人にしてやってもいいぞ?」
「うっさい!!」
バンッ!
デガ喇叭が火を噴く。
泡弾が炸裂するも、誤喰は蜂へと変化し、神殿を縦横無尽に飛び回った。
「ああもう! 全然当たんないじゃん!!」
小さすぎる標的に狙いを定めるのは至難の業。
杏樹の焦燥を嘲るように誤喰は飛び回る。
『杏樹様、私に考えがあります』
真紅の慧珠から梓の声が響く。
杏樹は柱の陰で頷き、深く息を整える。
「よし! それなら――」
* * *
攻撃が止まり、誤喰はぶんぶんと飛び回る。
「何だ、もう終わりか~」
「いやいや! こっから、こっから!!」
杏樹が柱から躍り出て、泡の連弾を放つ。
「へへっ! そんな攻撃、当たるかよ!!」
誤喰は余裕の笑みを浮かべた。
広大な庭園を駆け抜ける二人。
必死に追う杏樹だが、標的を捕らえることはできない。
「ほれ、ほれ~! 当ててみろよ!!」
「くっそ~! 止まれっての!!」
なおも飛び回る誤喰。
勝利を確信したように、にやりと笑う。
(ふん、息切れするまで追わせてやる。その隙に、また逃げ切ってやる!)
だが――油断が命取りとなる。
眼前に迫るのは銅鑼。
「おっと! あぶねえ~」
急停止し、方向転換を図ろうとしたその時。
「今だ!!」
杏樹が銅鑼へ泡弾を撃ち込む。
――破裂。
グワアアアアァァァンッ!!
轟音が神殿を揺るがす。
「ひぃぎぎぎぎぎぃぃ!!」
蜂となった誤喰に衝撃が叩き込まれる。
羽は痙攣し、意識は点滅。
変化の術は解け、元の姿へと引き戻された。
「梓さん、お願い!!」
杏樹が叫ぶ。
瞬間、慧珠が深紅に輝き、光の輪を放つ。
輪は誤喰の頭へ飛び、ぎゅっと締めつけた。
「な、何じゃこりゃああ!!」
誤喰は必死に引き剥がそうとするが、指先は触れることすらできない。
「くらえ!!――『泡連弾』!」
「ひいいいいぃぃ!!」
泡弾が直撃。
「ち、ちくっしょおお! 変化ができねえ~!」
変化の術も封じられ、誤喰は呻き声を漏らす。
「ま、まずい……このままじゃ……」
異界を移動して逃げようとした、その時。
ギギギギ――
「いってててて!!!」
光の輪が縮まり、誤喰はのた打ち回る。
『残念ですが、その光の輪は――貴方様の動きを制限させてもらいます』
「や、やろうぉぉぉ!」
杏樹が踏み込む。
「ひいいいいぃぃぃ!」
誤喰は必死に避け、ようやく対峙する。
「さあ、これで正面から戦うしかないよ!」
「ふ、ふん! 俺を舐めやがって……痛い目を見せてやる!!」
如意棒を抜き放ち、杏樹へ襲いかかる。
「へへ! その程度じゃ、わたしに当たんないよ!」
杏樹は身を翻し、隙を見て泡連弾を撃ち込む。
「ぐぐぐ……しかし、この程度ではな!」
直撃しても、誤喰は怯まなかった。
(う~ん……やっぱりこれじゃ倒しきれないか……)
杏樹は距離を取る。
「ふふふ……俺様に力で勝てると思うなよ!」
誤喰は頭の毛を毟り、ふっと吹いた。
「さあ――カモン! 我が分身たちよ!」
ボワン、と煙が広がる。次の瞬間、何人もの誤喰が現れた。
「「「はいいいい!!」」」
分身たちが一斉に襲いかかる。無数の突きが杏樹を貫かんと迫る。
杏樹は必死に躱すが、次第に追い詰められていった。
「「「さあ、さあ! どうする、どうする!?」」」
いよいよ窮地。
『杏樹様、ここは私が――』
「ううん、大丈夫。わたしにだって、奥の手があるんだから!」
杏樹の瞳に決意の炎が宿る。
「「「ふん! 強がりを言うな!!」」」
「へん! 強がりかどうか、あんたの目で確かめな!」
杏樹の青き瞳は揺るがない。
「負けない! だって、わたしは――『青き新星』、加藤 杏樹ちゃんなんだから!!」
杏樹はウィンクし、呪文を唱えた。
「我が意を示せ!――行くよ、悪鬼転身『篥歯』!!」
次の瞬間、杏樹の身体が光に包まれる。
「「「な、なにいいいい!?」」」
光が晴れる。
そこに立っていたのは――
「さあ、うちが相手だ!!」
誤喰たちの視線が落ちる。
先ほどまでの少女の姿はなく、一匹のマーモットのような生物が偉そうに笑っていた。
「「「は?」」」
完全に誤喰は戸惑う。
「なら、こっちから行くよ!」
篥歯となった杏樹は跳び上がり、分身の一体へ回転突撃。
その尻尾がオールのように振り抜かれ、叩きつけた。
「「「くそ!!」」」
如意棒の突きが迫る。
だが篥歯は縫うように走り抜ける。
跳躍。
手にデガ喇叭。放たれた泡弾が直撃し、分身は煙となって消えた。
「はい! はい! はいっ!」
篥歯は腹ばいで宙を飛び、水流を生じさせる。
その流れに乗り、縦横無尽に駆け抜けた。
「「「ちょこまかと!!」」」
「よっしゃー! ここで――『トリモチ玉』じゃい!!」
白色の泡が分身たちへ飛ぶ。
パチンッ!!
「「「ああああああ!!」」」
破裂と同時に、泡は餅のように絡みつき、分身を縛り上げる。
「そして、お次は――『まぼろし玉』!!」
紫色の泡が放たれる。
「ふん! 今度は騙されるか!!」
誤喰は如意棒を投げつけ、泡を砕いた。
ボフッ――!!
瞬間、神殿全体を覆うほどの濃霧が広がる。
「しまっ……! やつはどこに!!」
必死に周囲を探す。
だが視界は真っ白で、何も見えない。
その時――右後ろで揺れる影。
「そこかあああ!!」
如意棒を振り払う。
――バリンッ!!
砕けたのは、梓の慧珠だった。
「くそ!? これは偽物――」
気付いた時には遅かった。
正面――篥歯の姿が落下の勢いそのままに迫る。
「必殺――『泡連爽弾』!!」
無数の泡が霰のごとく弾け、誤喰の身体を貫いた。
「がぼがあああああ!!!」
霧が晴れる。
そこに倒れ伏す誤喰。
祭壇に眠る星奈。
そして――
「――よしっと!」
晴れやかな顔で立つ杏樹の姿だけが残っていた。
◇ ◇ ◇
事件は解決し、星奈を含む被害者たちも無事救出された。
今回の宿主は、なぜこのような事態となったのか――おそらく何一つ覚えてはいないだろう。
だが、異様な空間操作の痕跡を思えば、朱天の影がちらついて仕方がない。
「お~い! トッキー、行くよ~」
そんな思考を巡らせていた和泉に、声がかかる。
彼は顔を上げ、バスへ乗り込んだ。
「しかし、何だよ、”トッキー”って」
「ええ~、いいじゃん。和泉百希夜だから、『トッキー』!」
少女の笑顔が眩しく光る。
「ええ、私も素敵だと思いますよ」
すでに座席には理恵が腰掛け、梓がお茶を淹れていた。
「それにしても、こんなあっさり付いてきてよかったのか、杏樹?」
和泉は杏樹へ問う。
「うん、家族も同意してくれたし……芦谷先生も、わたしならやっていけるって」
三人が席につく。その光景を見て、理恵がくすくす笑った。
「どうしたの、りえぴ?」
(……りえぴ?)
梓の手が止まる。
「いえ、これからまた楽しくなるなと思いまして」
「おい、別に遊びじゃないんだからな」
「ええ~、いいじゃん! 仲間は多い方が。ねえ~」
「まったく……」
理恵と杏樹の笑い声の中、和泉は呆れたようにため息をついた。
だが、窓の外に広がる晴天は、どこまでも透き通った青だった。
「……まあ、そうかもな」
そして、開現師たちを乗せたバスは再び大塚探偵事務所へと走り出す。
第四章:青き新星編 ―完―
【あとがき】
『夢幻開現師』、第四章:青き新星編をご愛読いただき、誠にありがとうございました!
今回、新たに登場した「加藤 杏樹」というキャラクターですが、当初は眼鏡をかけた男性キャラで、性格も天真爛漫な明るさとは正反対の、神経質な少年として構想していました。
しかし、理恵との絡みや、物語全体の雰囲気を考えたとき、暗くなりすぎるのを避けたいという思いもあり、現在の“杏樹”というキャラクターへと形を変えていきました。結果として、彼女の明るさは物語の展開にとって大きな魅力となり、書いていても非常に楽しい存在になっています。杏樹のコンセプトである「普通の女の子が、突然特異な力を得るとどうなるのか」というテーマも、今後の展開でしっかり生かしていきたいと思っています。
一方で、女性キャラ同士のやり取りを描くのはなかなか難しく、「果たして読者の皆様に受け入れていただけるのか」とびくびくしながら執筆しているのも正直なところです。それでも、書かずに止まってしまうよりは書き続けたい――そんなジレンマに駆られながら、筆を進めています。
次回の第五章では、最後の黒の部隊メンバーがいよいよ登場予定です。また「笠井」「七瀬」「大塚」といった、これまであまりスポットが当たらなかったキャラクターたちの掘り下げも行えたらと考えています。
それでは次回――第五章:黄昏の戦姫編でお会いしましょう!




