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夢幻開現師 ―夢の守り人―  作者: ks21
第一章:赤き烈火編
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第2話「追う影」

 怪人・赤マントの“儀式”の夜から始まる、少女たちの悪夢。

 これは、ただの都市伝説ではない。


 誰かの怨嗟が形を取り、静かに世界を蝕んでいく。


 本編、どうぞお楽しみください。

 あの“儀式”の夜から、数日が経った。


 最初に、ミキが学校を欠席しはじめた。


「風邪でもひいたのかな?」


 最初は軽く考えていた。

 けれど、一日経ち、二日経っても連絡はなく、彼女は姿を現さなかった。


 そればかりか――あの夜、儀式に参加していた他の友人たちも、次々と学校に来なくなった。


「……なんか、みんな体調崩してるらしいよ」


 担任の先生はそう言うだけで、それ以上の説明はなかった。


 違和感と不安が胸を締めつける中、ユキとカレンはいても立ってもいられず、ミキの家を訪ねることにした。


 インターホンを押すと、ミキの母親が応対した。


「最近、あの子……何かに怯えてて。部屋から出てこないの」


 眉をひそめた母親に案内され、二人はミキの部屋の前に立つ。

 ノックしても、返事はなかった。


 諦めて帰ろうとしたそのとき――


 カチャリ。


 鍵が、ゆっくりと開いた。


 中から現れたのは、かつてのミキの面影を、かろうじて残した少女。


 顔色は青ざめ、髪はぼさぼさ。

 目の下には深い隈。


 カーテンが閉め切られた部屋には、光が一切差し込んでいなかった。


「ミ、ミキ……どうしたの? 一体、何があったの?」


 ユキが恐る恐る声をかけると、ミキは布団の中に潜りながら、震える声で呟いた。


「来る……あいつが……来るの……」


 その怯えきった姿は、もはや彼女たちの知るミキではなかった。


「な、なにが来るの?」


 ユキの問いかけに、布団をかぶったまま、ミキは叫んだ。


「……“赤マント”だよ!!」


 その瞬間、ユキとカレンの背筋に戦慄が走る。

 まさか……まさか、本当に、あの“儀式”が――。


「夢を見たの……。気づいたら、学校にいて……でも真っ暗で、どれだけ歩いても出られないの」


 ミキは頭を抱え、震えながら言葉を続ける。


「そして、“あいつ”が……追いかけてくるの……!」


 涙を流しながら語るその姿に、冗談など入り込む余地はなかった。


 夢の中に現れる“赤マント”。

 しかも、それは――毎晩、必ず。


 逃げても逃げても、必ず追いついてくる。

 近づくたびに、あの声がはっきりと耳元に響いてくるという。


「いずれ……わたしも、攫われちゃうの……」


 ユキとカレンは、言葉も出せないまま、ただ黙ってその場を後にした。


 沈黙の帰り道。

 胸に響いていたのは、あの夜の記憶。


 あれは、ただの遊びじゃなかった。

 きっと――ミキだけじゃない。

 あの場にいた全員が、“何か”に巻き込まれている。


 そして、自分たちもまた……。


「わたしたち、大丈夫だよね?」


 不安がにじみ出たその問いに、カレンが小さくうなずいた。


「うん……ユキ、あんたも一緒に……」


「え?」


 一瞬、カレンが笑ったように見えた。

 だが――


「いや……なんでもない」


 視線を逸らし、歩き出すカレンの背中。


(わたしのせいで、カレンも巻き込んじゃった……。だから、わたしがあの子を守らないと!)


 ユキは、親友の背を見つめながら、密かに決意を固めた。


 だが嫌な予感は、静かに、確実に、現実となっていく。



 ◇◇◇



 その夜。

 ユキは、“そこ”にいた。


 冷たいタイルの床。

 暗闇に沈んだ無音の空間。

 息を飲む中――どこかで、何かが這う音がする。


 ずる……ずる……


 粘り気のある、不快な音が、廊下に木霊する。


『悪い子、悪い子、どこにいる……?』


 ぞっとするような低音。

 その声を聞いただけで、魂が凍りつくようだった。


 “それ”が、こちらに向かってくる。

 足音はない。だが、確かに迫ってくる。


 逃げなければ――そう思うのに、身体が動かない。


 そして、音が止まった。


 廊下の奥。階段の踊り場。

 そこに、“何か”がいる。


 見てはいけない。

 そう思うのに、視線が勝手に吸い寄せられる。


『悪い子、悪い子……どこにいる……?』


 ――現れた。


 赤いフードを深く被り、背を大きく屈めた影。

 血のように深紅のマントが、闇の中にふわりと浮かび上がる。


 その姿を見た瞬間、ユキの喉がひきつった。


「――あああああ!!」


 叫ぶより先に、ユキは跳ね起きていた。


 ……ベッドの上。

 見慣れた天井。

 電気の灯り。

 夢――だった。


 だが、それは夢とは思えないほど鮮明で、現実のような感覚が残っていた。


 そして――それ以来。

 ユキの夢には、毎晩“赤マント”が現れるようになる。


 あの声が響く。

 あの赤い影が、少しずつ、確実に距離を詰めてくる。


 不思議なことに、カレンもまったく同じ夢を見ていた。

 同じ学校、同じ廊下、同じ“赤マント”。


 ふたりは恐怖を打ち明け合い、毎夜どちらかの家で寄り添うように眠るようになった。

 だが――夢の中の“奴”は、どんどん距離を縮めてきている。


 そして、ついに。

 ふたりは、同時に“そこ”にいた。


 異界と化した、あの校舎。


 今回は、ユキだけではない。カレンも一緒だった。


 最初は、隣に友人がいることが、心強かった。

 けれど――この空間に満ちる異様な“殺気”が、その安心感を容赦なく打ち砕く。


 直感が告げる。


『今夜、捕まったら、もう終わりだ』


 二人は、同時に走り出した。


 息を切らし、涙をにじませ、全力で駆け出す。

 だが――背後から、あの音が迫る。


 ずる……ずる……


 耳元まで届きそうなほど近くに、“それ”はいる。


(わたしを、馬鹿にする“悪い子”は……)


 闇夜に、怨嗟の声が滲み、そして消えていく……。

【次回予告】


 少女たちを追う“影”は、夢の中でついに異形の姿を現しました。

 それは過去の罪か、誰かの怨みか、それとも――


 現実と夢が混ざり合う恐怖の中で、彼女たちを救う者は現れるのか。


 次回、夢幻開現師:第三話「介入者」


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