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出発の時

「それじゃあ改めて。さっきは助けてくれてありがとう。僕はユール」


 依頼の報告を終えた俺達は、森の中で出会った新人冒険者、ユールと互いの名を明かした。

 身なりも普通の村人って感じだったし、やっぱり新人冒険者だったか。


「皆は全員でパーティーを組んでるの?」

「ん~、まぁな。皆で冒険者になろうとこの町に来たんだ」


 こういう設定で通してみるか。


「そうなんだ。……あの時は不意を突かれたとは言え、まだまだ僕は弱い。もっと強くならないと」


 意を決した表情で拳を握るユールを見て、俺達はコイツの決意の高さを感じる。


「……お前、何か遭ったのか? まぁ、言いたくないんなら別に良いが」

「いや、大丈夫。……実は、僕の故郷の村が、魔王軍に襲撃されたんだ」


 俺達は辛そうに話すユールの話を真剣に聞いた。


「魔王軍は、労働の為にって村人達を攫っていった。その中には、僕のたった一人の家族である妹もいたんだ。僕は妹と一緒に逃げていたんだけど、魔王軍の攻撃で僕は川に流されて、妹は連れ去られた。村に戻った僕は、村人と妹を助ける為に村の残骸の中から使える武器や物を持って冒険者になろうとこの町に来たんだ」

「そうだったか……」


 コイツの強い意志と目。コイツならもしかしたら……。


「なぁ。俺達もお前に協力して良いか?」

「協力?」

「ああ」


 俺は立ち上がるとメイトの肩に手を乗せた。


「メイトは俺達の中で一番の剣術の使い手だ。コイツならお前の剣の腕を上げてくれるぞ」

「えっと……良いのかな?」

「僕は別に良いよ。協力してあげたいのは僕も同じ気持ちだし」

「じゃ、じゃあ……よろしくお願いします」


――――――――――――――――――――


 その日の夜。俺達は現状確認をする為に町の宿の一室に集まった。


「ユールの言う通り、彼が住んでいた村、エテアは魔王軍によって滅んでるね」

「そうか……。村人を攫ってたって言ってたから、意外と魔王軍は少ないのか?」

「分かんねぇけど、このまま労働され続けられると村人も危ねぇよな」

「どうせ労働基準法みたいなのも無いでしょうし、過労死する人が出ちゃうかもね」


 もしかしたら、労働者って言うより、奴隷って言い方の方が合ってるかも知んねぇな。


「それでメイト。ユールの剣術はどうだった?」

「結構筋が良いよ。合うと思う剣と剣術を教えたし、これから次第かな」

「アイツは強くなるぞ」


 長年の勘だが、アイツはきっと大物になる。そんな感じがする。

 もしこの世界の問題がアスタラードの者でも対処可能なら、きっとユールが魔王を倒すはずだ。


「あと、この世界の事を調べてみたんだけど、思ったより種族仲が進んでるみたいだよ。種族差別禁止の法律があるほどだもん」

「珍しいわね、そんな法律」

「うん。共存してる世界でも、そんな法律がある世界なんてこれまで無かったもんね」


 差別によるいがみ合いや争いは無いって事か。

 これは長年の問題だからな。それが無いってだけで安心する。


「それに混血の種族も結構いるみたいだよ。鬼人族と小人族で小鬼族。獣人族と竜人族で獣竜族。エルフと魚人族で妖魚族と言ったみたいに」

「なんか多いとこんがらがりそうだな」


 まぁそこまで共存出来てんなら別に良いか。


「今はまず準備だな。武器もそうだが、服も調達しねぇと」

「だよな。もうちょっと冒険者らしい服を手に入れねぇとな」


 今俺達は全員、麻の布で出来た質素な服だ。

 流石にこれじゃあこの先の活動はしづらそうだし。


――――――――――――――――――――


「大体こんなもんか?」

「そうだね。まともな冒険者って格好になったと思うよ」


 アスタラードに来て一ヶ月。

 毎日コツコツ依頼をしたお陰で、大分金が貯まった俺達は装備を整えた。

 武器もちゃんとした物を買ったし、服も新調した。

 俺のは赤い大剣を武器に、茶色の服の上に赤い上着。そして赤いズボンと茶色のブーツだ。


「準備も終わったし、本格的に調査を始めよっか」

「そうだな。今の所、魔王の進行度は結構あるみたいだが……」


 俺達が主に調べるのはアスタラードの冒険者の実力と魔王軍の強さ。

 そしてその二つを考慮して、アスタラードの戦力だけでも解決可能かどうか判断する。


「僕達は10人。だから五人ずつの二手に分かれて調査をしよう」

「メンバーはどう分ける?」

「んなもん適当にくじ引きで良いだろ」

「アンタねぇ。もうちょっとちゃんとした分け方無いの?」

「良いだろ別に」


 結局くじ引きでメンバーを分けた結果、一つ目のメンバーは俺、アスレル、メイト、エグラル、フォクサー。

 そして残りのウルファー、クレン、エンジェ、ファルク、ノクラーがもう一つのメンバーだ。


「それぞれ東と西に分かれて調査をしよう。となると……人間の国、ヒュルマノ王国の王都を合流地点にしよう」

「そう言えば、この世界の王都は列車で線路が繋がってるって聞いたぞ」

「え? 列車あんの? この世界?」

「そうらしいね。でも列車に乗ってたら調査しづらいし、列車は使用しないで行こう」


 それは賛成だ。俺乗り物によえーし。

 話し合いも終わり、俺達は宿を出て町の入り口へ向かった。

 そこで丁度町を発とうとしていたユールと会った。


「あ、皆。皆も町を出るの?」

「ああ。俺等も色々見て回りてぇからな」

「僕も色んな所に行ってもっと強くなりたいから。メイトのお陰で、あれから討伐が順調なんだ」

「それは良かったね」


 ユールはメイトのアドバイスのお陰で大分成長した。

 俺等がもしこの世界を出ても、コイツなら大丈夫だ。


「お前はこれから何処に行くんだ?」

「まずは、鬼人族領に行こうと思ってるんだ。ガクラ達は?」

「俺達はここから東に。こっちは西の方に行く」

「そっか。道は違うけど、何処かでまた会おう」

「ああ。お前も頑張れよ」


 ユールは歩き出し、鬼人族領の方へ向かった。


「じゃあ俺達も行くか」

「ああ。次会うのは、ヒュルマノ王国の王都だ」


 俺達はそれぞれ東と西に分かれ、アスタラードの調査を本格的に始めた。

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