魚人族領②
魚人族領の最初の町に着いた俺達は町を見回っていた。
「こんなに大きなビーチがあるのに、人気が無さすぎるな」
「ホントね。人はいても水着が一人もいないわね」
「あそこに『遊泳禁止』の看板が立ってるからそれで人がいないんだよ」
遊泳禁止か。よく見ると目視出来る程の距離の沖合に魔物が泳いでるしな。これじゃあ泳げねぇわ。
「折角海が綺麗なのに勿体ないね」
「俺達は別に泳ぎに来たわけじゃねぇだろ」
「そうだな。んじゃあ、ある程度町も見て回ったし、ギルドに行ってみるか」
冒険者ギルドに着いた俺達は、依頼ボードを見て依頼を探す。
相変わらずランクの高い依頼が多いが、受ける依頼を決めた俺達は早速依頼に向かった。
――――――――――――――――――――
「…………」
ジーッと水面を見続けるが、浮きは全く反応が無い。
俺達が受けた依頼は、『湖に大量発生した怪魚の討伐』。
依頼場所の湖に着いた俺達は、釣りで怪魚を釣り上げてから倒そうという事になり現在釣りをしている……が、一時間経っても一匹も釣れない。
「なぁ。依頼場所、此処で合ってるよな?」
「そう思いたくなる気持ちは分かるけど、此処で合ってるよ」
「んじゃあ、もうとっくに討伐されたとかか?」
「だったらギルドに話が行ってるはずだよ。釣りとは我慢。根気強く待つんだ」
根気強くっつってもなぁ。エグラルなんて寝ちまってるぞ。
怪魚もどれぐらいいるか分かんねぇから気が抜けねぇ気持ちはあるんだが、流石にこんなに釣れなさすぎると退屈だ。
「ふぁ~……」
あまりの退屈で欠伸をすると、水面から何かが飛び出した。
目を向けると、それは鋭い牙が生え揃った二メートル程の緑の魚だ。
魚が口を大きく開けて俺に向かって噛みつこうとすると、フォクサーが魔法銃であっという間に撃ち抜いた。
「ほがっ!?」
銃声でエグラルが起きると、またあの魚が水面から飛び出た。しかも今度は何匹も。
よく見ると依頼書に描かれてる姿と一致するし、コイツが怪魚で間違いねぇな。
……ってか、飛び出て来んなら釣りの意味無ぇじゃん。
ちょっと不意を突かれたが、そこまで強い魔物って訳じゃねぇから全部返り討ちにした。
「あ~ビックリした。つか一匹も釣れなかったのに何でいきなりこんなに現れたんだ?」
「怪魚って知能が高いみたいだから、僕等を狙う隙を伺ってたのかもね」
「舐めやがって。コイツ等全部晩飯にして腹の中に入れてやる」
「まぁ怪魚は食べても問題無いみたいだから大丈夫だね」
倒した怪魚を全部回収し、俺達は町に戻った。
――――――――――――――――――――
町に戻っていくつか依頼をこなした俺達は次の町へ向かう。
「渡し舟をお待ちの皆さん! 現在航路に魔物がいる為、船の出航は延期致します!」
……が、また船の足止めを食らい、俺達は船が出るまで滞在することになった。
「これから先もこうなる事が続くと思うと、魚人族領にいる時間は長くなりそうだね」
「じゃあ、クレン達の方が先に集合場所に着いちゃうんじゃない?」
「そうかも知れないね。まぁいざって時には列車を使おうよ」
「おいちょっと待て。列車じゃ俺が酔っちま――」
「まぁ慌てず行こうぜ。先輩達も焦らず冷静にってよく言ってるし」
「うん。僕達は、ただやるべきことをやらないと」
「そうだね。じゃあ船が出るまで、魔王に関する情報を集めようよ」
「「「おおぉ」」」
「おい! 俺を無視するな!」
――――――――――――――――――――
綺麗な川が流れる森。
そこを歩く俺達は今回の依頼のターゲットを探していた。
「ん~で。ターゲットは何処にいるんだ?」
「今回の討伐対象は二級の魔物、アクアフォックス。名前の通り水を使う狐の魔物だから、水辺によく居るね」
それで川沿いを歩いている俺達だが、しばらく歩いてもそれらしい魔物が見つからねぇ。
等々上流まで来たがアクアフォックスは見つからなかった。
「うーん。此処まで来ていないって事は、川じゃなくて泉とかかもしれないね」
「やっぱ水に関する魔物が多いのかしら? 魚人族領って」
「だと思うよ。流石に水中で戦う機会は無いと思うけど」
一応俺達は『人間』って事にしてるからな。
水中で戦えるのは魚人族だけだからな。
「そう言えば、今魚人族の王都で水中で活動出来る装備を開発中って聞いたなぁ」
「じゃあそれが完成したら水中での討伐依頼が増えるのか?」
「多分ね」
俺達は水中でも息が出来るからどっちでもいいが。
……いや、そんな事したら変に目立つな。
改めてアクアフォックスを探すと、最初の泉に着いた。
「此処には……居なさそうだね」
「じゃあ次の泉に行ってみようよ」
「ん? おーい、これ見ろ」
エグラルが見つけた物に目を向けると、それは水面に浮かぶ魚の尾だ。
「食われた痕があるな」
「アクアフォックスの主食は魚。それに食べられてまだあんまり時間が経ってない。もしこれがアクアフォックスの食べた跡ならまだそんなに遠くにはいないかも」
「ねぇメイト。これは?」
今度はアスレルが何かを見つけて見ると、それは白と紫の毛だ。
「この毛色は……間違いない、アクアフォックスだ」
「じゃあこの魚食ったのは間違いねぇな」
この泉を中心にアクアフォックスを探しだした。
所々にそれらしい痕跡を見つけるが、肝心のアクアフォックスが見つからねぇ。
「全然見つからないわね」
「アクアフォックスは狐だから足が速いだろうし……それに泳ぐことも出来るからもう離れた所に移動してるかも」
「はぁ~。何かかったるくなってき……うおわっ!?」
歩いてると、急に足を滑らせて岩に頭をぶつけた。
「痛ぇぇぇ、頭割れたぁぁぁ!」
「何やってんのよ。情けない」
「何だろうコレ? 泡?」
フォクサーが俺が足を滑らせた地面を見ると、そこには白い泡があった。
「何でこんな森の中に泡があるんだよ?」
「自然に生まれた物には見えないね。……そう言えば」
メイトが何か思い出した様な素振りを見せると、近くの茂みから何かが飛びかかってきて俺達は散開して避けた。
「ビックリしたなぁ。何だ?」
「皆、アレ!」
メイトが目を向けた先を見ると、そこには白と紫の毛で覆われた狐の魔物がいた。
「アクアフォックスだ!」




