魚人族領①
ドワーフ領の王都を出て、途中の町で依頼をこなしながら進んで一ヶ月以上経ち、馬車に揺られながら俺達はドワーフ領を出て魚人族領に入った。
「ガクラー。魚人族領に入ったよ」
「お、おお~……」
正直乗り物酔いでそれどころじゃねぇ。
早くどっかの町に着いてくれ~。
「ん? 潮の香りがする」
「魚人族領は大小様々な大きさの島で構成されてるから、魚人諸島とも呼ばれてるみたいだよ」
「諸島……じゃあ、島と島を行き来するには船が必要じゃない?」
「うん。渡し舟があるみたいだからそれを利用するしかないね」
「船かよ~」
確かに島を行き来するには船は必要不可欠。
本来の姿なら海面を凍らせて歩けるんだけどな~。
何か氷の魔法を覚えたい気分だ。
――――――――――――――――――――
数日後、海に面した小さな町に着くと俺達は馬車から降りた。
「はぁ~。やっと酔いから解放された」
「でもガクラ。次の町に行くには、此処から船に乗り継いで行かないと進めないよ」
「……マジで?」
メイト達が船の発着所へ向かうと、俺も肩を落としついて行くように向かう。
発着所に着くと、人だかりが出来ていて、気になった俺達は小走りする。
『皆さん! 現在船の航路に海龍がいる為、船が出航出来ません! 申し訳ございませんが、もうしばらくお待ちください』
「……船、出ねぇみたいだな」
「そうみたいね。どうする?」
仕方ねぇから、船が出航出来るまで町の酒場で待つことにした。
「船っていつ出航再開するんだ?」
「知らないよ。海龍って魔物が何処かに行かない限り船は出られないみたいだし」
「海龍かぁ……」
メイトによると、海龍は二級に属する魔物で、その名の通り海に生息する長い胴体をした青い龍の魔物。
陸上でも活動は出来るみたいだが、今いるのは海中。対処が難しいな。
「お客さん達も足止めを食らってる身かい?」
酒場のマスターが料理を運んでくると、俺達にそう訊ねる。
「ああ、そうなんだよ。分かる?」
「近年、この店に訪れる人は殆どがそうだからね。魔物のせいで船が出航出来ず、足止めを食らってる人」
近年って言う事は、思ったより今回の様な事が長く起きてるんだな。
「航路に海龍が出たみたいなのよ。ホント困っちゃうわ」
「海龍かー、厄介だね。魚人族なら海の中でも戦えるけど、二級の海龍相手じゃあ戦えるのは限られるからねー」
俺達も人間の姿じゃあ水の中で戦えねぇしなぁ。
気長にどっかに行くのを待つしかねぇか。
そうしてのんびり待って三時間。
ようやく海龍がどっかに行ったと耳にし、俺達は船に乗った。
小舟じゃなくて大きい方の船だから結構な人数乗れるな。
「それでは出航します!」
船が出航し港を発つと……。
「うぐっ!」
船酔いに襲われ、俺は手すりに寄り掛かり座り込んだ。
「うぅっ……な、波の揺れが……」
「メイト。次の町までどれくらいで着くの?」
「一時間以上かかるって。何も起きなければ」
「起きなければか……海龍って言うのが戻って来る可能性があるもんね」
「他にも海の魔物がいるだろうしな」
こんな俺を無視してメイト達は呑気に喋ってやがる。誰か助けて~。
もう酔いでどんぐらい時間経ったか分かんねぇ。
「ガクラー、町が見えてきたわよー」
「や、やっとか……」
俺は手すりに手を乗せて震えながら立ち上がる。
船の前方に海に面した町が見えて、ようやく酔いから解放されるという開放感が芽生えた。
「や、やっと降りられ――」
「乗客の皆さん!! 魔物です!! 海から魔物が来ました!!」
船員がそう叫ぶと乗客達は困惑し出した。
もう少しって時に……勘弁してほしいもんだ。
船に乗っている冒険者達は海を見て警戒し、俺も酔いに襲われながらも海面を見る。
「あ?」
海面に目を向けると、大きな影が船に近づいてくるのが見え、影の主は俺の目の前に姿を見せた。
「ギュオォォォォォォォ!!」
「海龍だぁぁぁ!!」
船が出なくなった原因となった魔物、海龍が戻って来たみたいだ。
海龍は俺をジッと睨む。
対して俺は、船酔いで速く動けない。
そして海龍は口を大きく開けて俺の上半身まで噛みつく。
「痛だだだだだだだ!」
海龍に上半身を噛みつかれたまま、俺は海に引き込まれた。
「あ」
「ガクラ引き込まれちゃったね」
「って、お客さん! 仲間が引き込まれちゃいましたが大丈夫なんですか!?」
「ああ大丈夫だ。気にするな」
「あ、来たよ」
フォクサーが声を掛けると、海面から再び海龍が飛び出してきた。
飛び出た海龍は、船の甲板に向かって倒れた。
「よっと」
俺は海から出ると海龍の胴体を通って船の上に戻った。
「お帰り」
「あ~ビックリした」
海中で海龍の顔を殴り飛ばして、俺はどうにか船に戻った。
「船員。この海龍どうすればいい?」
「あ、ああ、この先の町の冒険者ギルドで討伐依頼が確か出てた気がするので、一応ギルドに渡そうかと」
「じゃあ船の上に乗せるか」
海に浸かったままの胴体を引っ張り出して、海龍の全身を船の上に乗せると、船は再び町にむけて出航した。




