エルフ領⑤
「メイト。王都までどれぐらいかかるんだ?」
「一週間かな。馬車なら四日で着くけど」
「なら利用すれば良かったのに」
「だから、俺が酔っちまうだろ」
「アンタが酔おうとどうでも良いでしょ」
「良いわけ無ぇだろ!」
俺達は結局、次の日に町を出て、今はエルフ領の王都に向かっている。
アスレルが初心者冒険者らしからぬ馬鹿力を見せたせいで、また怪しまれるのを防ぐ為だ。
二回連続で町をすぐ出るから、またすぐ出る羽目になるんじゃねぇかって不安だ。まだ大した調査もしてねぇのに。
――――――――――――――――――――
「何だアレ?」
一週間過ぎて、遠目に王都らしき町が見えてくると、前方から浮遊移動している乗り物に乗った人がやってきて、俺達の横を通り過ぎた。
「何だ今の乗り物?」
「この世界に来てからは初めて見たね。あんな物があるんだ」
さっきの乗り物は俺も少し気になるが、今は王都だ。
王都の入り口に着いた俺達は、検問を終えて中に入る。
「中央にあるあの大きな木が王城らしいよ」
「木が城なのか。エルフらしいな」
王城を中心に、木製の建物が並んでいるのが、エルフ領の王都の主な全体図みたいだな。
泊まる為の宿を探そうと王都を散策していると、フォクサーが何かを見つけた。
「ねぇ皆。あれ」
フォクサーが指差した先には、先程見かけた乗り物が並んでいる店があった。
「あれってさっきの乗り物よね?」
「ああ、違ぇねぇ」
興味を持った俺達は、その店に行った。
「いらっしゃい」
乗り物を見ていた俺達に、店員のエルフの男がやって来た。
「なぁ。この乗り物って何だ?」
「これはフローボートと言います。数十年前に、ドワーフ領の遺跡で発見された古代の乗り物なんです」
「古代の乗り物?」
「はい。科学者や技術者が解析して生産されるようになりまして。今や色んな町で売られるようになったんです。と言っても、売られてるのは王都ぐらいですけどね」
「ふーん。……にしても、高ぇな」
どれも値段が高ぇ。
一番安くても80万ゴルドもしてるぞ。
「生産されてるって言っても、大量生産って程じゃ無いですから。一つ造るのに時間が掛かるし材料も多い。だから買うのはよっぽどの金持ちですね」
「通りであんま見かけねぇ訳だ」
「今も新しいのを開発中らしいですよ。水上用とか、大人数用とか」
水上用って事は、これは陸上でしか使えないのか。
乗れる人数も、一人か二人までって感じだし、出来たんなら大きな進歩になりそうだな。
「興味はあるが……高ぇから止めとくわ」
「そうですか。またお越しください」
俺達は店を後にして宿探しを再開した。
「ガクラだったらすぐに乗りこなせるんじゃない? あのフローボートって言うの」
「そうかも知んねぇが……俺はやっぱ車輪がある方が落ち着くんだよな」
乗り物に運転する時は、どうもフワフワと浮いて移動するより、車輪で地面の上を走る方がしっくりくるんだよなぁ。
――――――――――――――――――――
宿を見つけた俺達は部屋を取ると、次に冒険者ギルドに向かった。
流石王都のギルドだ。仲は随分広いし、貼り出されている依頼の量も半端ねぇ。
……が。
「相変わらず初心者向けの依頼が少ねぇな」
ここも依頼が殆ど中級以上の冒険者向けばかりだ。
現在Eランクの俺達に向いた依頼が全く貼られて無ぇ。
「王都でも無ぇのか」
「ネイトラーのギルド本部でもあまり無かったからね。もしかしたらとは思ってたけど」
「どうすっか?」
依頼が無いと流石に冒険者としてやりにくい。
話し合った結果、今日は王都を散策して見ることにした。
「とりあえず、改めて確認しよう。僕達の調査の目的は、アスタラードの戦力と魔王の戦力の力関係を調べる事だね」
「アスタラードの連中だけで魔王に対抗出来るかどうか……だな」
ぶっちゃけて言えば、アスタラードの民と魔王の戦いはこの世界の者同士の戦いだから、あんまり俺達は深入り出来ねぇから、どっちが滅ぼうとも仕方が無い事なんだよな。
「それもあるけど、後は魔王が別世界の技術を悪用しているかどうか。何か、光闇戦争の話を聞いても、ここまで魔王の影響力は無かった気がするんだよ」
「確かに。魔王は当時の戦士にやられて肉体を失ったのよね。だから世界のバランスを崩す程の力は無いはずよね」
「そりゃあ勇者でも無ぇ奴に負けるんじゃあ無理だな」
なのにいきなりバランスを崩す程だもんな。
大団長が俺達を調査に向かわせたのも分かる。
「まず僕達が調べるのは、魔王が何処に居るかだね」




