エルフ領④
「樹液で?」
「そう。この森の木からは様々な色、味の樹液が出てくるんだ。赤い樹液だと辛味。黄色い樹液だと酸味。緑色の樹液だと苦みって感じで。その樹液が木から水に流れ出て虹色の水に見える事から、ここは『虹水の森』と呼ばれてるんだ」
「成程」
小さな洞穴の中で雨宿りしてる中、メイトはギルド職員の青年からこの森の事を聞いていた。
相変わらず知りたがりな奴だ。
「なぁ。この雨いつになったら止むんだ? もうここにいんの飽きてきたぞ」
「そう言っても、雨がいつ止むかなんて分かる訳無いでしょ」
「ふざけんな。雨が降ってる中こんな狭い所にいたら湿気っぽくてヤダわ」
「まぁ止むまで待とうよ。今はヴェールンがうろついていて危ないから。雨が止めば住処に戻るよ」
だりぃ~。待つのって好きじゃねぇんだよ。もういっそヴェールンぶっ飛ばしに行くか?
でもそしたらコイツに怪しまれるな。俺達一応初心者冒険者だからな。
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夜になっても止む気配は無く、結局洞穴の中で一夜を過ごす羽目になり、翌朝には雨が止んでいた。
「朝までいる羽目になるとはな」
「安全の為には我慢しないと。多分ヴェールンは住処に戻ったはずだから、今なら安全に森を抜けられるよ」
雨が止んだからか、水も泥水から元の様々な色が合わさった鮮やかな色に戻った。って言うか戻るの早ぇな。
「樹液が出る量は凄いね。あっという間に元の景色に戻ったよ」
「そう。ここの木の樹液はすぐに沢山出るんだ。だから色んな虫が集まるし、虫型の魔物も寄ってくる」
「ふ~ん。……ちょっと待て。虫型の魔物って言ったか?」
「うん。言ったけど?」
俺達はゆっくり振り向いた。アスレルの方を。
当人の顔は当然、青ざめていた。
「ね、ねぇ、早く出ましょ。依頼の報告を済ませないと」
虫嫌いのアスレルが森を出ようと急かす。
だが確かに早く出ねぇと、森の一帯が吹き飛ぶな。コイツによって。
そうならない為にも森の外へ向かおうとすると、近付いてくる羽音が聞こえ振り向くと、一体の巨大なカブトムシの魔物がこっちに飛んできた。
「あれはキングビートルって言う魔物だね。きっと、この木の樹液の香りに誘われて――」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アスレルの大きな悲鳴に青年が驚くと、アスレルは鞭を伸ばしてキングビートルに巻き付けると、振り回して木に叩きつけた。
木は折れ、キングビートルは小さく見えるほどまで吹き飛ばされた。
「おーいアスレル落ち着け。もういないぞ」
「え? ……ホント!? いない!? もういない!?」
「いねぇから落ち着け」
息が荒いアスレルをなだめていると、呆然としていた青年がハッと我に返った。
「えっと……初心者冒険者なんだよね? その割には力が強いような……」
「今のはアレだ。火事場の馬鹿力だ」
「そ、そうなの?」
とにかくこれで誤魔化そう。
行けるはずだ。行けると思えば行ける。
……多分。
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森を出て町に戻った俺達は、ギルドに依頼の報告を終えて宿に戻った。
『うーん……怪しまれるかどうかは……微妙だね』
「やっぱそうか」
宿に戻って夜になると、部屋でクレン達と連絡を取り合っていた。
『まぁ、ガクラの時と違って、アスレルが倒したのってそんなに危険度が高い魔物じゃないんだろ? そんなに怪しまれ無いんじゃないか?』
「だと思うけど……念の為、町には長居しない様にしようと思う」
「またかよ。エドに続いてまたかよ」
なんかエグラルが俺を見て言うが……。
「今回は俺悪くないだろ。今回はアスレルだろ」
「私のせいにしないでよ。悪いのは飛んできたあのカブトムシよ」
詫びる気無しかよこの野郎。
「で、そっちはどうだ?」
『こっちは特に変わったことは無いけど……ギルドである話を聞いたね』
「何だ? ある話って?」
『先日、一級の魔物にSSランクの冒険者が一人敗れて命を落としたらしいんだ』
「そうか……」
一級……この世界の魔物の中では一番強い類に入る魔物だな。
対してSSランクは、冒険者ランクで一番上だが、それでも負ける事はあるんだな。
『一級の魔物はどんどん活発化していってるみたいだし、このままだとアスタラード側の戦力が減っていくね』
「早めに対策を考えた方が良いな。俺達はこの世界を出る可能性だってあるからな」
となると……やっぱこの世界の奴等の戦力を上げる方法を考えねぇとな。
ユールの時の様に、見込みのある奴を鍛えるか?
今のところはそれしか無ぇな。




