エルフ領③
ギルドの職員に教えてもらった洞穴を見つけた俺達は、その洞穴の中に入った。
「確かに洞穴の中にまで水が流れてる。ここなら薔薇蜘蛛が居そうだね」
「ああ。チラホラ蜘蛛の巣みてぇなのもあるしな」
洞穴の岩肌には所々に蜘蛛の糸がくっ付いてる。
これは信憑性が高いな。
洞穴の一番奥まで行くと、そこら中に蜘蛛の糸が張り巡らされていた。
「居そうだな」
「うん。って言うか、思いっきりそれっぽいのが見えるんだけど」
フォクサーが天井付近を指差すと、張り巡らされている糸に、二メートル程の赤い薔薇が不自然に咲いていた。
「絶対アレね。動かないけど、気付いてないのかしら?」
「ここが巣である事を考えると、寝てる可能性があるね」
「じゃあ起こすか。準備は出来てるよな?」
メイト達は頷くと、俺は足元に落ちてる小石を拾って大きく振り被った。
「オラァ!! 朝だぞぉぉぉ!!」
「とっくに午後だけどね」
メイトのツッコミを受けながら、俺が投げた小石が薔薇に当たると、薔薇が揺れ出して動き、赤い目をした白い蜘蛛が姿を見せた。
あれが薔薇蜘蛛か。
薔薇蜘蛛は俺達を睨むと、腹部の薔薇を向け、そこから麻痺毒の綿毛を大量に飛ばした。
「皆気を付けて!」
俺達は降り注ぐ綿毛を散開して避けた。
その際に、左手に綿毛が掠ると、少し痺れを感じた。
「思ったより強力みたいだな」
薔薇蜘蛛が天井から地上に飛び降りると、近くにいたメイトに向かって前脚を振り下ろした。
メイトは前脚の攻撃を避けると同時に、剣で斬り落とした。
「腹部の薔薇から綿毛を飛ばしてるし、まずはあの薔薇を破壊した方が良いと思う」
「オッケー」
俺は薔薇蜘蛛に向かって走ると、薔薇蜘蛛が前脚を振り下ろし、俺は薔薇蜘蛛の下を滑って背後に回り込むと、腹部の薔薇を大剣で斬りつけた。
腹部の薔薇が萎れると、薔薇蜘蛛の動きが鈍くなった。
弱点だったのか? これは丁度良い。
動きが鈍くなった薔薇蜘蛛の頭に、フォクサーが魔法銃で魔力弾を当てると、アスレルが脚に鞭を巻き付けてひっくり返し、エグラルが拳を叩き込むと、薔薇蜘蛛は動かなくなった。
「倒せたのか?」
「動かないんだし、倒せたんじゃない?」
討伐したって事で、俺達は依頼を成功し洞穴を出ようとした。
「ん? 雨か」
洞穴を出ようとすると外は雨が降っていた。
しかも大雨、土砂降りだ。
「おいおい。折角依頼を終えたのに、気分が下がるじゃねぇか」
「ホントだね。雨のせいか、水もあんなに鮮やかだったのに、今は泥水だよ」
この森に来た時は、赤だの黄色だの色んな色に染まっていた水が、今はこの土砂降りのせいで泥色一色だ。
傘なんて当然無ぇし、びしょ濡れ覚悟で戻るか。
「おーい!」
雨音で聞こえにくかったが、呼び声が聞こえて振り向くと、さっきのギルドの職員のエルフの青年が俺達の元へ走って来た。
「アンタか。どうした? 雨宿りか?」
「いや、そうじゃなくて。君達に聞きたい事があって来たんだ」
「聞きたい事?」
「君達、冒険者ランクは?」
「ランク? 俺達全員Eだが?」
ランクを教えると、青年の目が見開いた。
「だとしたらマズい。急いで森を出るんだ!」
青年がそう警告し、俺達は状況が飲み込めずにいると、遠くで水しぶきが上がる音が聞こえた。
「何だ?」
「今の音からすると、そんなに遠くじゃないな。この洞穴だと『奴』は入れる。ついてきて!」
青年が走りだすと、俺達はとりあえず言う事を聞いて後をついて行った。
雨のせいで視界と足元が悪い中、俺達は青年の後を走り森の中を進んで行く。
青年が「もうすぐだ!」と言い、滝の前を通り過ぎようとすると、滝から何かが飛び出してきた。
飛び出してきたのは、青いヴェールの様なものが生えている龍の様な長い胴体の魔物だ。
「何だコイツ!?」
「早く逃げて! 二級の魔物だ!」
二級って事は、前に俺がうっかり倒しちまったアサシンパンサーと同じか。
「じゃあ……逃げた方が良いな」
俺達はサッと振り向いて、その魔物から離れると、魔物は俺達を追いかけた。
そんなに足は速くねぇみたいだ。あんまり距離が縮まらねぇ。
青年が「あの中に飛び込んで!」と、小さな穴を指差しながら声を上げると、青年が最初に入り、続けて俺達が入ると、魔物は穴の中に入れず、しばらく穴の前に佇むと、諦めたのか何処かに行った。
「ふぅー、危なかった。やっぱり、活動範囲が広がってるね」
「で、何なんだ、さっきの魔物は?」
「あの魔物はヴェールン。この森の主だよ」
「森の主か。通りで強そうな訳だ。いやぁー危なかったなぁー」
正直……多分倒せたと思うが、今俺達は新人冒険者だからな。
ここは危機一髪、って事にしとこう。
「ヴェールンって名前は、ヴェールみたいなのが生えてるから?」
「うん。体から出る特殊な体液を水と掛け合わせて、あの様なヴェールを作って鎧替わりにするんだ。雨が降ると活発化するんだけど、こんな大雨じゃ更にね」
だから俺達を探しに来たのか。
まぁ、同じ轍を踏まなくて良かったから助かった。
「雨が止むまで、ここにいるしかないね。またヴェールンと遭遇するかも知れないから」
「そうだね。僕達じゃ二級は手に負えないもん」
メイトが芝居っぽく言うと、俺達は雨が止むまで、この穴の中に籠る事にした。




