優しく喉を潤す
―それは優しく喉を潤した。
ナイフを引き抜いた。呻き声とともに鮮血が滝のように溢れだしてくる。数秒前まで彼の中にあった赤だった。俺は言いようもない興奮を覚えた。
目の前で膝をついた男を見下ろす。向こうもこちらを見上げる。痛みに歪めるその目には恐怖や忌避の色が透けていた。しかし逃げられないという絶望が彼の表情をより魅力的にしていた。
俺がこれ以上何もしなくとも、勝手に死んでいくだろう。これだけ出血していたらきっと体はもう鉛のように重くなっているはずだ。「コイツは俺から逃げられない」、そう反芻する度に胸が高鳴る。
俺は生唾を飲んだ。勝利の味だった。
それは優しく喉を潤した。