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第4話

 魔本ミシャンドラより『千年前から生きている人物の記憶を探りゼカロットの花を見つけ出す』という立案がされた。


 しかし一番の問題は千年前から生きている人物がそもそもいるのかということになるが。

 流石はファンタジー。


 千年前、勇者と冒険し魔王を倒した魔法使い(マジック・キャスター)がここの学園長をしている。


 本来人種の中でも〝人間(ヒューマン)〟は寿命が100歳程度と短い。

 獣亜人種(デミ・ビースト)は同じくらいだが、ドワーフは300歳程度、エルフに限っては不老である。

 

 魔法で寿命を延ばす者も多いが千年以上生きている学園長は異例だ。

 特殊な魔法道具(マジック・アイテム)が関係しているのだが、それは別の事件で語るとしよう。


「ただしマーレェン学園長の記憶はダメだ」


「どうして?」


 本と話しているところを見られたくないため、ミシャンドラに布をかけて廊下を進むアルバート。


「このドラゴネス魔法学園のセキュリティは全部学園長がいるから成り立っている。記憶魔法(メモリーズ)ということは術をかける相手に眠ってもらう必要があるんだろう? その間、学園になにかあったらどうする。それにゼカロットの花の話を聞きに行ったとき『見たこともない』と言っていた。記憶をさかのぼったところで見つかるとは限らないだろ」


「あいたたたっ。じゃあどうするよ。他に千年以上生きてる人物に心当たりでもあるのかい?」


「ひとりだけ」


 アルバートは制服のローブのポケットから古びた手帳を取り出す。


「それは? 厨二病ノートなら見せないでくれよ。オレにも憶えがあるから共感性羞恥でたぶん死んじゃうから。魔法使い(ウィザード)ならやっぱり自分だけの最強魔法とか考えてた?」


「違う」


 確かにそんなノートにアルバートは覚えがあった。

 ただし俗に言う〝俺が考えた最強のキャラクター〟とかではなく、〝俺が考えた最高にかっこいい探偵衣装〟だった。

 明らかシャーロック・ホームズ影響の衣装デザインは思い出すと今でも恥ずかしさがこみ上げてくる。


「これはティファの魔法薬学研究手帳、本人は『自分用教科書』なんて言っていたが謙遜も良い所だ。オークションにでも出せばかなり広い領地が買えるだろうさ」


「相棒の自慢はそれくらいにして、結局なにが言いたいわけ? 魔法薬学なんてしょーみ誰も興味ないと思うぜ。陰気臭い学問だ。やっぱりオレは授業の中では魔法戦が一番好きだね。寮対抗の大戦、親友たちと攻め入る瞬間はまさに征服王の気分じゃん」


「とにかくこのページだ。ティファがゼカロットの花に関して記述している」


「『【ゼカロットの花】──ボクが研究を始めた時には絶滅。世界を回ったが見付らなかった。だから情報なし。』……おいおい、これじゃ記憶探っても意味ないじゃあないか。この短文とスケッチだけじゃ……()()()()


「ああ、絵だ。つまりティファは一度はゼカロットの花を見ている」


 しかも色付きで。


「待て待て。他人の又聞きかもしれないぜ? 本人が見たとは限らないだろ」


「それでも。ゼカロットの花を見付けられる可能性が一番高いのはティファの記憶だ」


「あの茶髪エルフ……性別詐欺だけじゃなくて、長生き属性かよ。どんだけてんこ盛りにすりゃあ気が済むのさ」


 記憶魔法(メモリーズ)の対象が決まった。

 ゼッコロ草の毒に犯され、解毒剤であるゼカロットの花を必要としている張本人の記憶を探る。


 人権的にいかがなものか、という話にもなってきそうなものだけれど命を救う為なのだからそんなこと議論している場合じゃない。

 そこら辺の事はティファが起きた時に謝ればいい。


 ムラサメに見つからないように夜中の植物園に入り、ティファが横になってる部屋に侵入する。

 どうせなら寝息を立ててぐっすり寝ていてもらいたかったが、やはり強力な呪い。

 瞼が黒くなり、悪夢でも見ているようにうなされている。


 噴き出す汗をアルバートはハンカチで拭った。


「ん」


「眠ってるヒロインを襲うのは主人公としてどうかね。まあ、アルバちゃんがそういうジャンル好きならオレは口を出さないぜ。ミシャンドラ、もうオトナなんだもの」


「ふざけるところではないんだが」


「あいあい、邪魔してすいあせんねフィリップ王子」


「……俺のせいでこんなにも苦しんでいる。探偵の真似事に無理やり付き合わせたせいで」


 らしくはないと思うが。

 こう見えてアルバートだって反省する。

 苦しんでいるティファを見て、罪悪感で気持ちが揺れるくらいには。


「別に気にしなくていいと思うぜ。このエルフは頼まれなくてもアルバちゃんといつだって探偵ごっこをしてる。世界を何度やり直してもそれは変わらないんじゃあないかな」


「なんだ。胡散臭い魔本のくせして元気づけてくれるのか?」


「おっと、オレは嫌味を言ったつもりなんだが」


 ミシャンドラの言葉に少しだけ気持ちが軽くなった。

 軽くはなったが、その事実がなんだか気に入らないから軽く帯を叩く。


「オレは美食家でね。過酷ルート確定の茶髪エルフの記憶なんか覗くのも嫌なんだぜ。親友のアルバちゃんの頼みだから付き合ってること理解してくれよな。むせび泣いて感謝しな」


「親友じゃないが、ありがとう」


「……あら素直。ちょっとキュンです」


 アルバートは魔本ミシャンドラと魔力を同期させる。

 ミシャンドラの魔力、黒に近い青。

 それがアルバートの身体を伝い、混じり、ティファの頭へ流れ込む。



「我は記憶の王。喰らい、犯し、治める者。果てなき記憶の扉よ、開け。──【記憶(メモリ・)支配(ドミネーション)】」



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! マーレェン学園長は流石にゼカロットの花は見た事なかったかー >〝俺が考えた最高にかっこいい探偵衣装〟 アルバートw ミシャンドラ(テレム)も驚愕!? 今章は…
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