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第3話

 〝異空間(アナザー・)魔法(ディメンション)〟という魔法が存在する。

 既存の空間に別の空間を作り出す、言ってしまえば隠し部屋のようなものだ。


 ただし魔力で作られたためか安定した空間では無いため、空間内のより多くの魔力量をもったものの影響によって崩壊してしまうことがある。

 そのため魔法使い(マジックキャスター)の研究には向かない。

 だからこそ魔法使い(ウィッチクラフト)の地下工房(・ハイドアウト)を作り、四六時中籠ることが多い。


 異空間(アナザー・)魔法(ディメンション)の多くは他人には聞かれたくない内緒の話をするためや、武器庫などに使われる。


 アルバートも書庫として利用していた。

 場所は体育館。

 扉の取っ手に手をやり、魔力を流し込むと扉の隙間から光が零れた。


 開けるといつものフローリング床のスポーツしたり全校生徒で学園長の長い話を聞く場でもなく、大英図書館の中のような空間。

 本棚に並べられたタイトルのほとんどが前世に読みふけった探偵小説であり、全文覚えていたアルバートが記憶を頼りに魔法で再現したものである。

 書庫と言っても魔法書のほとんどは王国の城に置いて来たため、ここにあるのは全てが前世ゆかりの文章……つまりはオタク部屋だった。


 進んでいき、奥には鍵が何重にもかかった扉。

 ポケットに入れていた鍵を取り出して開けていく。

 鍵は数十本、まるでドラマに出てくる囚人看守が腰につけているあれである。


「ちっす。遅いよぅアルバちゃん。一昨日はオレに恋愛遍歴を話してくれるって約束してたのに来てくれなかったじゃない。見ての通り、この部屋にはなんにもないわけ。わかる? 最近自分と話し合うのが上手くなっちゃって。紹介するよ、この子はテレムくん。ちっす。どもどもー。この子ったらロマンチストでね」


「うるさいぞ、ミシャンドラ」


 ここは言ってしまえばアルバートお手製の牢屋である。

 頑丈な扉で他とは隔離されており、中にはなにもなく真っ白な部屋。

 あるのは真ん中に台とそこに置かれた黒に近い青色の魔法書だけ。


 では囚人は?


 なにを隠そうこの魔法書こそここの収監者だ。

 罪状はすごくうるさい罪。


 魔法書名はミシャンドラ。

 世界の全てを記録した、なんて言っているがおそらく嘘だ。

 魔法使い(マジックキャスター)魔法使い(ウィザード)なんて誤表記されているし、歴史上に起こっていないことまで記述されている。

 この本が話す言葉と同じくらいインチキっぽい。


「それで、アルバちゃんひとりでここに来るなんて珍しい。なんだい、古い親友の顔でも見たくなったのかい? オレに顔はないってか。これまた一本取られた」


 ※注意事項、アルバートとミシャンドラは親友ではない。

 ミシャンドラの二人称が『親友』なのである。

 とりあえずこの魔法書の言葉を鵜呑みにしていては話が進まないため、胡散臭い広告を見ているような感覚で聞いてもらいたい。


「ゼカロットの花を知っているか?」


「んー……ああ、知っている知ってる。上級貴族の隠語だろ。『ゼカロットお嬢様がお花摘みに間に合いませんでしたわ!』って話だ──ちょっと待った! 帰ろうとしないで。ちゃんと考えるから」


 アルバートが背中を向けたら焦り出すミシャンドラ。


「寒い事言ってるよねぇ。ごめんよ、久しぶりに主人公とお話してるもんだから緊張しちゃって。風邪引かないように毛布かける?」


「くどい。良いから本題に入れ。知ってるのか知らないのか」


「はいはい。仰せの通りに、ご主人様。ゼカロットの花と言えば魔族の死骸に生えるゼッコロ草の唯一の解毒剤として知られているよな。だが千年前、魔族が他種族を蹂躙しようとしていた時代、魔王はゼッコロ草の毒を兵器として使い始めた。しかも脅威を増す為に解毒剤のゼカロットの花を絶滅させたと言われている。それからゼッコロ草の毒は回復魔法(ヒール)も効かない不治の毒になったわけ」


「ゼカロットの花は完全に消失したのか?」


「そもそもかなりの貴重種で、花を咲かせるのだってごく一部だったらしいから分布している場所を知っていればすぐ惑星ベジータさ」


 アルバートは唇を噛む。

 希望は薄いか。


「なんで千年前に失われた魔法植物を……はは~ん。その暗い顔、大切な人物が死にそうって感じだ。婚約者? いや、あのエルフか。どこまで品質を落とせば気が済むのさ、まったく」


「口を閉じろ。燃やすぞ」


 ここにも有益な情報はなかった。

 アルバートは力が抜けた手をドアノブに。


「でもなアルバちゃん。この親友の存在を忘れちゃ困るぜ。失われたスーパー植物を手に入れる方法は()()()()()ある」


「……それは?」


 胡散臭いがそれでもいいとアルバートは振り向く。


「オレには誰にも負けない魔法があるんだ。それは〝記憶魔法(メモリーズ)〟。千年前に生きていた奴の記憶を探って、ゼカロットの花を見付ける。だが問題なのは記憶の話だから本物を持ってくることは出来ない、そ・こ・で~」


「記憶の中でゼカロットの花を分析し、現実に戻って来た時に俺が魔法で再現する」


 魔法書、悪魔ミシャンドラの提案。

 とてつもなく危険な行為のような気もしたが、それしか方法がないのも確かだった。


「荷物をまとめろアルバちゃん! これからタイムリープ、『ふたりは時かけ』がはっじまるよー!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! 丸々一話凄くうるさいミシャンドラ回w 作者から注意書きが書かれるほどw だがこれでティファを救える可能性が出て来た!! 次回作『二人は時かけ』!?w 男二人の…
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