第9話
──冒険者組合〝ドラゴンの宿木〟。
建物の構造は中世の酒場のよう。
冒険者の身なりはミシャンドラ曰く『F●よりドラ●エっぽい』とのこと。
女性エルフの冒険者をガタイがいい数人の男たちが囲っている。
「どうするアルバちゃん? ヒロインが悪漢たちに襲われそうになってるけど、ふたりともちょうど魔力ないわけだし──外出て仕切り直しってのはいいかがでしょう。おっぱぃデカいなあの娘」
見なかった事にしようと提案するミシャンドラ。
基本、金や良い想い出にならないことはしたくない男なのである。
「その必要はないだろ。あのエルフの横にいる男を見てみろ。腕首が青あざになっている。そのせいか利き腕じゃない方で斧を装備している。──他の男たちもそうだ。どこかしら、かばいながら立っている。しかも受付嬢ですら杖をエルフに向けている。相手はまだ武器を腰に収めたままだというのに」
「──つまり?」
「……つまりあのエルフは素手でこの数の男たちを相手取り、無傷のまま牽制状態に入ったということだ」
ラブコメでよく見られる構図ではあるものの、どうやらあのエルフは助けを求めるヒロインではない。
というかアルバートの周りは強い女性ばかりで、そんな登場人物に会ったことはない。
「推理が甘いぜ名探偵。あの腰についたレイピアはただの飾りだ。考えてもみろよ、エルフってのは不老であっても不死じゃない。だから遠距離職業しかいない。種族的に魔法適正が高いらしいから杖なしの魔法使用だろうさ」
「どっちにしろ、劣勢なのは男たちの方だ」
面倒だから反論はしないが、魔法ではなく素手だ。
あの男たちの負傷具合、服のシワを見てもそれは明らかだった。
牽制状態の間を進んでいくふたり。
エルフはいぶかしみ、男たちは邪魔そうに睨みつけるがすぐにエルフに視線が戻った。
「構わなくていい。続けてくれ」
「失礼。通るよ。おっと、──ごめん。ぶつかった。オレったら背中に目が付いてるんだ。許してちょうだい」
すんなり受付嬢のいるカウンターに辿り着くアルバートに。
武器を持った男たちやエルフにまで当たり散らかしているミシャンドラ。
これで酔っていないのだから驚きである。
「えっと、冒険者様。見ての通り……立て込んでまして」
杖を構えたまま固まっている受付嬢。
「喧嘩沙汰は頭のゆるい男の領分だ。お前が付き合ってやる道理はないだろ」
「……それもそうですね。はじめての方のようですが。冒険者登録ですか? それともクエストでしょうか。パーティーは……ふたりだけの場合、どちらかがランク3以上でないとー……」
「とりあえず腹が減った。なにか食わせてくれ。金は──ない」
優しい微笑みの接客から豹変する受付嬢。
気前のいい町娘からガラの悪いチンピラのような表情。
「冷やかしお断り!! 帰れ。ただでさえ魔族のせいで食料がなくなってきているっていうのによぅ。綺麗な身なりしてるからどこぞの貴族かと思えば、ただのごくつぶしかい」
「あ、待った待った。お金ならここにたんまり。とりあえず肉とキリっと冷えた飲み物を」
「なんだい。使用人が財布ってか」
「はぁ?」
なにが気に食わなかったのか受付嬢を睨む。
こっちでも喧嘩沙汰に発展したら困る為、アルバートはミシャンドラのおでこを〝ぺしんっ〟と叩いた。
(その金、コイツ等が気付いたら面倒な事になるぞ)
(わかりゃしないって。大事なのは人差し指と中指、この2本だけ。こうお箸みたいにポッケにするっとね。ほら、冒険者登録カードもこの通り)
扇のようにカードをズボンポッケから取り出す。
この場にいる全員分の個人情報。
氏名・年齢・体形、魔力推定総量、冒険者ランクetc.。
「──エルナ・シシリー」
「はいよ。注文通り」
ふたりの前に丸焼きにされた肉(色が変、でも怖くてなんなのか聞けない)と氷魔法で冷やされた黄色い飲み物が出された。
恐る恐る口に運ぶが──味はなかなか。
「あのエルフ、なんかワケありらしくてね。ここにクエスト依頼に来たんだけど、報酬金は手元にないときた。──でもうちの冒険者どもが『そのカラダが報酬なら受ける』なんて調子乗るもんだから、このありさま。ほんと男ってバカ」
「あんな魅惑な果実をみのらせてりゃあ、ヒャッハー世紀末スイッチ入るでしょ。ねぇ、アルバちゃん」
「同意を求めるなバカ」