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99 エピローグ あるいは終わりと始まりの結束点

32852日

前々から、その予兆はあった。

しかし、それでも、気の所為だと思えた。

体調を崩すようなことはあった、今回もきっとそうだ。


いや、違う。

家は自分を誤魔化している。

そんなわけがないと、分かっている。


それは自然なことだとデルタは言う。

自然? これが? こんなものが?


だとしたら、家は不自然の極みだ。



32853日

毛玉を狩り、中身をミタさんの口に運ぶ。

実際にやったことはなかったが、その中身は肉体ではなくある種の魔力の塊だった。

きっと、これを食べればと思ったが、ミタさんは首を振るばかりで、それを受け付けなかった。


どうすればいい。

一体、どうしたらいい。


打てる手段がない。

何をすればいいのかわからない。


結界内を当てども無くさまよう。

以前にも同じようなことをした覚えがある。



32854日

忙しい合間をデルタは訪れた。

できればずっとミタさんの側にいたかったが、世話になった相手だ。不義理をするわけにもいかない。

端的に事実を述べ、あまり来れなくなったと伝えた。


しばらくの間、呆然としていたデルタは、狂ったように壁を叩き出した。

なにか気になるようなことがあったのだろうか。

回りの人間に取り押さえられたようだが、家としてはそれ以上の時間を取るわけにもいかず、またミタさんの元に戻る。



32855日

ミタさんは、動かず、ただその時を待っているようだった。

目を閉じ、身体を縮こまらせている。


家は、ずっと側にいた。

その身体をあたため続けた。


ずっと、ずっとそうされたのだから、それを返すべきだ。


「ミぃ」と小さくミタさんが鳴く。

家を探す時に、よく鳴いていた声色で。

家は、撫でながら鳴き返す、ここに居る、安心して欲しいと。


けれど、繰り返し、繰り返し鳴くのだ。

どこにいるの、一人にしないで欲しいと。


耳が、触覚が、もう伝わっていない。


大声で、吠えるように家は鳴いた。

伝わるように、そこに届くように。


けれど、探し求める声は止まらない。

どれだけ声を張り上げても、一人きりにしてしまう。


最後に小さく別の鳴き声を上げて、もう動かなくなった。



――日

どれだけ経っただろう。

もうわからない。

日付をカウントしていられない。


なんとか、ミタさんを、地面に入れた、ことだけは、どうにか憶えている。


ちいさかった。

本当に、小さかった。

あんなにも元気だったのに。


「あ」


声を出す。

とても久しぶりに。

かすれて、酷い声色だった。


空が、散りばめられた星々が、変わらぬ様子で回転を続ける。

この世の有り様なんて知ったことじゃないように。


「あー」


酷いだみ声、けれど、繰り返し音を出す。

声を出す。

そこに込められた想いを知る。


きっと、意味としては単純で、けれど切実な。


ミタさんが、最期に鳴いた声、それは――


「ミぁ」


きっと、逢いたい、だった。

家はそう「願われた」のだ。

心から。


紙が足元に張り付く、デルタに提示したもの。

そこに書かれているのは端的な事実だ。

正式な名でそれを書いた。


 家は、家主(フェミタ)の側にいたいから、しばらくここには来れない。


そうデルタに伝えた。


星々が巡る。

通常であれば不可能な領域に手を伸ばす。


過去に、遥か昔とつながる。

燃やすものは記憶だけじゃない。

この場に満ちた魔力と、竜炎を組み合わて稼働する。


全天全球全星の完全結界。

そのあり方そのものを機構に組み込む。世界を使って世界を騙す。


稼働のための熱源を竜炎とし、それが通る経路を完全結界にて構築する。

満たされて濃縮された魔力は動力源として消費される。


望みを、どうやれば叶えられるか、家はもうすでに知っている。

過去に、すでに「願われた」。

かつての「家」自身がそう願った。


星が巡る、天が回る、逆しまに。


――星界燃焼機構シュタメウェルト・ブレーネ・ズシティム、発動。


重要な、おそらくは世にあってはならない記憶(メモリー)をトリガーにして、それは発動する。



10章 了

残りは次章とエピローグ

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