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8204日

物質が、いくつかあった。

その存在理由が不明なものが残されていた。


あまりに邪魔なものであれば「火」にくべて消したが、慎重に行わなければいつまでも黒煙が残留するため注意が必要だ。


その中のひとつに、額縁があった。

やけに仰々しい作りをしていたが、肝心の絵がどこにもない。

何も描かれていない紙しかない。


捨てずに置いていたのは、絵の具と呼ばれるものを作成し、家が描こうと決めていたからだったが、それが突然、現れた。

額縁の中に、絵が出現した。


それは――

奇妙、だった。


おそらくは建物だ。

形からして、ここが壊されるよりも前のもの。


キレイな壁と、均等に並んだ柱があり、そこに様々な人間いた。

中央にいるのは、髪の長い、おそらくは女性で、子供。


よく描けてると、思う。

しかし、家の頭の中は疑問符しか踊らない。


誰だ?

誰なんだ?


どうして、今更になって見えるようになった?

情報として入力されていなかったものが、突然現れた原因は?


わからない、わからないが、酷く胸をかきむしられる。

とても大切で身近なものがない。

あって当たり前のものを家は落とした。

そのような感覚が抜けなかった。


どうして、この子供は、こんな風に笑っていられるんだ。



10632日

この場所は安定している。

空気をわずかに揺るがすものといえば、未だに残る炎くらいのものだろう。

炎、と表記したが、おそらくは一般的なそれではないだろう。どうやら普通はすぐに消えてしまうものであり、このような密閉状態でいつまでも温度を上げ続ければ、生存には適さない環境となっていたはずだ。


しかしながら、安定は、しているのだ。

そのためなのだろうか、光の粒のようなものが浮遊するようになった。

壁面星座の影響を受けたためか、それとも別の理由によるものなのかは不明。

読んだ情報のどこにも、これについて記されてはいなかった。


だからこそ、この環境こそが、人類絶滅後の閉鎖環境こそが、これらを生じさせたのではないかと予測している。

果たしてこれらは精霊の一種なのだろうか、それとも、人のいう魂魄が見えるようになったものなのだろうか。


どちらにせよ、一万日ぶりのお客様である。

どうにかして歓待しなければと思う。



15782日

「お客様」の調子は変わらない。

わずかに、その光る大きさが増えたか? という程度。


それ以外は変わらず、フラフラと浮遊して光るばかりだ。

どうにかしてコンタクトを取ろうとする試みはことごとく失敗している。


それとは別に、変化が生じた。

いや、より正確に言えば、その変化にようやく気づけた。

どうやら壁が、薄くなっているようなのだ。

その強度を弱めている。


その結果、いままで見えなかった外部が、うっすらと判別できるようになった。


誰かが、べったりと上半身をつけてこちらの様子を窺っていた。

人間、ではないだろう。

5日間まったく動かず観察を続けられる生物などいない。


しかし、それ以外にもちらほらと見かけはした。

張り付いているものはおそらく、今も家のベッドにて安置してある死骸と似たようなものだと思うが、誰かそれを片付けるべきなのでは?


だが、どうやら外部が存在しており、そこには人間がいるということはわかった。

あの壁の向こうは、世界の終わりではなかった。



23433日

内部にて、生物が生じた。

知った情報との類似がないため、どのように言えばいいのかわからないが、それは毛むくじゃらの球のようだった。

ひょっとして、もしかしてだが、あのふよふよと浮いていた光が、このように生物化したのだろうか。


だとしたら、もう少しくらいよくよく考えて行うべきだったと思う。

浮かんでいたものがちょこまかと地面を転がるばかりになっている。


中には炎に突っ込み自滅したものまでいる。

相変わらず、それらに知性と呼べるものはなかった。


家が寝ているとむやみにぶつかってくるのが鬱陶しい。

それでも、まあ、少しの慰めにはなった。

情報以外のやりとりができるようになった。


ただ、お客様がお邪魔様へとランクダウンした感は拭えない。


ちなみに、上半身べったりの人影は、変わらず同じ位置に張り付いてる。

ちょっと怖い。



29588日

黒焦げだった死骸は、もう元の肌色を取り戻し、そこには傷の一つもない。

それでも、期待したように起き上がることはなく、会話も行えず、呼吸することのない物質として在り続けた。


今の家は、その姿をいくらか模倣したものになっている。


結界の強度はさらに下がり、影しか見えなかったものがよりハッキリした。

どうやらこの模倣した姿形は間違ってはいなかったようだった。

必要性が疑わしかった衣服と呼ばれるものも、念のため着用していて良かったと思う。


そうして、その死骸だが、ある日、喰われていた。

いや、その時はそう判断したが、どうやら生じたようだった。


光のかけらたちが球状の毛むくじゃらとなったように、なんらかの現象により生物として物質化したものが発生したのだ、その死骸の内部で。


血まみれで生じたそれは四足の獣であり、家を見るなり警戒の唸りを上げた。


向こうも驚いた様子だったが、こちらとしてもびっくりだ。


いや、だが、なるほど、見慣れぬものを警戒するのは、生物としては当然の反応だ。

違うものが敵であるとは、本能的ではあるが適切な判断でもある。


だから家は姿をその獣に似せたものへと変化させた。

白い毛並みの、流線型を描く獣である。

その相手と、そっくりの姿となる。


「!?」


目の前の変化に驚いたそれは、それでもまだ警戒していたがヨタヨタと近寄り。


「ミぃ……」


と見上げて小さく鳴いた。

全身はプルプルと震えていた。


おそるおそる、だがこのようにすべきであるとの情報を頼りに、ぺろりと家が舐めると「タゃ……」とくすぐったそうに鳴いた後、その小さな身体をこすりつけた。

あたたかかった。


家は、全力で守ることを決めた。


必要かどうかは不明だが、家はそれを「ミタさん」と名付けた。

無論のこと、その鳴き声からの命名である。


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