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542年ゼータ月22日 デイリー新聞社

都が混乱に揺れている。

英雄アガトルが退治したと思われたドラゴンが、近隣に出現したためだ。

幸い被害は出ず、ドラゴンは巣へ戻ったようだが、国の防衛体制に大きな疑問が投げかけられた。

本格的な侵攻は明日にも来ると有識者は警告する。

出現した地点には結界が張られ、出入りができずにいる。

ドラゴンの巣だと思われるが、調査は遅々として進んでいない。



542年シータ月3日 都月報

結界とドラゴンの関係は!? 噂の真相を追い求める!

先ごろ世間を賑わせたドラゴンの到着は、その後に進展を見せないまま今日に至る。

読者諸兄からしても眠れない日々を送っているのではないだろうか。

我が都日報は、結界の展開された位置に、ある住居があった事実を突き止めた!

前々から様々な噂が立っていた家屋ではあるが、そっくり同じ位置の、同じ敷地範囲を覆っているのだ。

関係者筋によると、あの家の関係者がドラゴンを呼び出したらしい。

いまだに突破できない強固な結界は、呼び出されたドラゴンの、正当な報復なのではないだろうか。

あの家で、どのようなおぞましい企てがなされていたか、記者はその真実を追い求める!



542年シータ月22日 デイリー新聞社草案メモ

なぜ? 理由のない却下を行う議会。

いまだに結界はある。

都からでも見えるほどに巨大なそれに対し、いつしかドラゴンよりも不安を覚える人が増えた。

聞き取りの結果、結界内にドラゴンと互角に戦える戦力があったことは確実だ。←まだ断言はできない

味方にせよ敵にせよ、この対処に乗り出すことは当然だろう。

しかし、先ごろ議会にてこの調査決議案が否決された。←正確には破壊的な調査だが、書く必要はないか?

常日頃から無駄飯ぐらいを揶揄される貴族議員が、強行に反対したためだ。←さすがに恣意が出すぎか

その理由をある貴族は「欲しいからだ。壊すなどもってのほかだ、傷がついたらどうする、まだ諦めんぞ」と述べたが、まるで意味のわからない返答だった。このような白痴をいつまでも代表として置いていいのだろうか? ←いや、本当に意味がわからん、ここは削るべきか?



542年イオタ月4日 月刊アイドル編集部

引退を撤回!? 長期療養へ。

先ごろ引退を発表したアイドルのチタナ・キューレ・シュタインさんがこれを撤回し、長期療養につとめることを発表した。

過度な魔力放出により、もう二度とアイドル活動はできないと目されていた彼女だが、長く時間をかけて戻ることを約束した。

「もうやれることはやったな、これでいいかな、って気分だったんですよ」

病院のベッドの上で、彼女は照れたように言う。

「けど、ある人に言われちゃって」

誰かは明かせないが、指摘されたそうだ。

「たしかにすごかったが、ガンマの方がもっとすごかった、って」

彼女の髪は、写真で見て分かる通りすべて白く染まっていた。

「まだ、先がある。あれよりも、更に、もっと上がある」

それだけの後遺症を残しながらも、彼女は笑って言うのだ。

「だったら、引退なんてしている場合じゃないですよね?」



542年イオタ月28日 都月報メモ

聞き取りが上手くいかない。

あの日、ドラゴンが現れた時にあの家にいた人間はわかっている。

だが、誰も彼もが口を閉ざす、なにも言わない。

それでいて、本格的な調査などに対しては反対をする、強固に結束してそれを行う。

なにかの宗教的な儀式でも行われていたのか?

彼らのそれはほとんど狂信の域にある。

本当に、どうして。

似たようなことを彼らは言う、言えない理由として述べる。

「言えない、言う資格がない、私たちはただ一人に押し付けてしまった」と。



542年ミュー月5日 デイリー新聞社デスク指示

新騎士団結成後のこの時期に、団長であるコンラート・トリアー及び副団長であるデリアに関してのスキャンダルを載せることはできない。

ドラゴンの襲撃が行われた今、誰もが英雄を求めている。

悪魔退治の騎士の名を貶めることのデメリットは大きい。

特に副団長が悪魔憑きだのセクハラをしているだの非嫡出子を妊娠しているだのといった『事実』は、まだ早い。

我々は都月報のような社会的役割を見失った媒体ではない、まだ、その時期ではない。

ああ、ただし、集めた情報の破棄は許さない、取材は続けること。

民衆による後押しを失い、新騎士団が失策を行った際に活用できる。

あるいは、団長も副団長も長くはない。高齢と契約のため、その寿命は残り少ない。

そうなってしまえば、我々が自由に取り扱える情報ネタとなる。

そして無論のこと、英雄の裏側ほど人々の興味をかき立てるものはないのだ。



563年ゼータ月12日 ハウプシュタット新聞社

都近くにある結界公園が、二十周年を迎えた。

星々の煌めきを見せる完全球状結界は、都民の憩いの場所としてだけではなく天体観測マニアの間でも人気だ。

生憎の天候で星々が見えないときでも、この結界を見れば全ての星々が観測できるためだ。

回転の仕方こそ違うが、通常であれば見えないほど微かな星々を「外側から」見れるのが人気の秘訣だ。

中には曇りの方が結界の様子がよく分かって良い、などと言う人もいるほど。

とはいえ、危険がないわけではない。人間が暮らしていける場所は未だに狭い。

この公園の管理をしているデルタさんは、周辺のモンスターを狩る冒険者でもある。

危険ではないかという問いかけに対し、デルタさんはおどけた言葉を返すのが常だ。

「首を斬られたくらいで死ねるなら、きっと楽だった」と。



575年ラムダ月22日 季刊星導楽

球状結界は通常とは逆回転を行っている。

これはよく言われるように、結界を長持ちさせるための工夫だと考えられる。

完全に外の星配列と同期させた場合、魔力の漏洩は比較にならないほど増大する。

昔から知られた手法ではあるが、これほど大規模に行われた例はなかった。

しかしながら、一日に一度、外の星配列と重なる瞬間がある。

これにより結界は減衰し、存在係数が低下している。三十年前と比べ、星の光量が漸減しているとの指摘もある。

いつしか、我々の愛したあの全星結界は壊れる。

今は五十年から八十年ほど先だとされているが、観測を続ければより正確な予測が可能だ。


しかし、星々が壊れる瞬間を見る贅沢を、個人的には得たくない。

それがどれほど美しかったとしてもだ。




576年アルファ月6日 冒険者ギルド通達

国より依頼され、現在、第四掲示板に張り出された調査について

都付近に発生した球状結界の調査および破壊の依頼は、ギルドマスターの名に於いてこれを廃棄する。

 フェル・ツー・ランゲンブルグ


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